プロローグ
窓の外から響く剣を交える高い音に、私はふと本から顔を上げた。
学園のサロンにある特等席。窓際のソファから見下ろす先には、中等部と高等部が合同で使う訓練場が広がっている。
「……今日も、頑張ってるな」
思わずこぼれた小さな呟き。私の視線の先には、緑がかった黒髪を揺らす一人の男子生徒がいた。
ルーカス・ガランド。
代々、近衛騎士を輩出する名門の生まれである彼は、見習いでありながらすでに洗練された剣術で相手を圧倒している。それでいて決しておごらず、手合わせの後は爽やかな笑みを浮かべて相手に礼を尽くす。その誠実で真っ直ぐな立ち振る舞いは、遠くから眺めているだけで思わず見惚れてしまうほどだった。
……かっこいい。密かに頬が緩みかけた、その時。
「リリア!ちょっと聞いてちょうだい!」
バンッ!と勢いよくサロンの扉が開き、艶やかなピンクブロンドの髪を揺らして、親友のロザリアが飛び込んできた。
「どうしたの、ロザリア。そんなに慌てて」
「どうもこうもないわ!殿下がまた、廊下のど真ん中で恥ずかし気もなくあんなセリフを……っ!」
顔を真っ赤にして怒る彼女の後ろから、ふわりと甘い空気を纏った薄茶色の髪の青年――リュシアン王太子殿下が、余裕の笑みを浮かべて姿を現す。
「ロザ、逃げることないじゃないか。君の髪が今日の陽射しよりも美しいと言っただけだよ?」
「もう、殿下!そういうことを人前で仰らないでください。ここは学園なんですよ!」
キャンキャンと吠えるロザリアと、笑みを浮かべながら見つめるリュシアン殿下。
「……殿下。そろそろ次期生徒会の顔合わせの時間です。遊ぶのはその辺りにしてください」
呆れ果てたような声と共に、殿下の側近候補であるテオ様がメガネを押し上げながら入室してくる。
彼と目が合うと「今日も大変ですね」「胃が痛いですよ」と視線だけで会話を交わし、私はそっと温かい紅茶の準備を始めた。
これが、私――リリア・シェインと、学園で一番騒がしい彼らとの、いつも通りの日常だ。




