おまけ・其のニ
これは、時雨を中心とした桃太郎の物語である
プロローグから長く、長くお付き合い頂き本当にありがとうございます。
小説家になろう・アルファポリス版では語られなかった真のエンディングが、カクヨム版で公開される前に特別に!ここで公開させていただきます!
この【時雨の焼印】は著者のデビュー作品として、自分自身の胸にも焼き付けられた特別な作品となりました。
前章の最後からスタートします
では、お楽しみくださいませ。
【満開の桜と新たな出会い】よりー
喜備丸は、その背中を見送りながら、くすくすと笑った。
「父上も、きっと笑ってるだろうな」
【最終話】
一
それから幾年かの月日が流れた。
戦乱の世は遠く昔の話となり、国には平和が訪れていた。しかし、その平和は決して永遠ではなく、時代は絶えず形を変えながら流れていく。
ある春の日、吉備の山奥の高台で、一人の若い女性が静かに座っていた。風が吹き、桜の花びらが舞い落ちる。彼女の隣には、同じように花びらを受け止める若い男性の姿があった。
時雨——そう、彼女こそ、この物語の真の主人公だった。
桃太郎は、時雨の手をそっと握った。
「時雨、何を考えている?」
時雨は静かに微笑んだ。
「下を見てごらんなさい」
二人の視線の先には、城下町が広がっていた。その一角にある団子屋の前で、一人の老人が若者に連行されていく姿が見える。老人——かつての宇喜多秀家は、団子を一口もかじれぬまま、今日も護衛に連行されていた。
「次こそは!次こそは!」
「おのれ貴様ら!食べる直前を狙って来やがって!」
その叫び声が、風に乗ってかすかに聞こえてくる。店先では、喜備丸がくすくすと笑いながら見送っていた。
桃太郎が声を上げて笑った。
「秀家殿は、あいかわらずだな」
時雨も、優しい眼差しでその光景を見つめていた。
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二
しばらくの沈黙の後、時雨が静かに口を開いた。
「桃太郎……覚えていますか?私たちが出会った日のことを」
桃太郎は、時雨の横顔を見つめた。
「ああ。あの時、お前は突然現れて、『鬼ヶ島に連れて行け』と言ったな」
時雨は、遠い目をした。
「ええ。あの頃の私は、復讐だけを生きがいにしていました。八歳の夜、両親を目の前で殺されてから、ただただ復讐だけを考えて生きてきた。あなたを利用しようと思っていたんです」
桃太郎は優しい笑みを浮かべていた。
「お前にきび団子を食べさせたとき、目を見開いて感動してたろ?あの瞬間だよ、俺が惚れたのは」
時雨は驚いた顔で桃太郎を見た
「今それ言うのずるい!生前の、挙式の時言って欲しかった!」
「でも…そうですね。あの団子を食べた時、冷え切っていた私の心が初めて温かくなりました。そして、私が失敗した団子を、あなたが美味しいと言って食べてくれた時——その瞬間、私は何かが崩れるのを感じた」
「あの団子、本当に美味しかったぞ」
桃太郎がいたずらっぽく言うと、時雨は笑って彼の肩を軽く叩いた。
「嘘つき。あれは、土みたいな味だったのに」
「いや、あれはあれで、お前の想いが詰まっていた。それが、何よりの味だった」
時雨の目に、涙が浮かんだ。
「…その時に私は初めて恋をした」
顔を少し赤くしながら、かすかな声でつぶやいた
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三
「それから、鬼ヶ島で真実を知った時のことは、今でも忘れられません」
時雨は、言葉を続けた。
「私たちが斬り捨ててきた『鬼』たちは、ただ生きるのに必死な貧しい人々だった。そして、私の一族こそが、彼らを鬼に変えた元凶だった——その真実を知った時、私の復讐は虚しく崩れ去りました」
桃太郎は、時雨の手を握りしめた。
「あの時、私も同じだった。正義だと信じて剣を振るっていたが、その手は罪のない人々の血で染まっていた。私もまた、鬼だったんだ」
「でも、それでも私たちは前に進むことを選びました」
時雨の声は、しっかりとしていた。
「弥助の言葉が今でも忘れられません。『過ぎたことを悔やんでも、死んだ人は戻らない。ならば、この屍を乗り越えて、これから先どうするかが大事なんじゃないか』って」
桃太郎は笑みを浮かべた
「あいつは、いつもああだ。あの場で一番落ち込んでいたはずなのに、一番先に立ち上がった。自慢の親友だ」
桃太郎が懐かしそうに笑った。すると——
「呼んだか!友よ!」
後ろから聞き覚えのある明るい声がした
「弥助!」
「俺もいるぞ!」
そこには、衛門の姿もあった。
「師匠っ!」
時雨も突然のことで驚いたが、それがすぐに喜びに変わった
「今、あなた方の話をしてたところよ。衛門も、桃太郎に出会って変わった。」
「娘を探し続けていたあの人が、あなたに忠誠を誓い、最後には圓と再会できた。あの人の最期の言葉、『お前は、私の誇りだ』——今でも、あの言葉を思い出すと胸が熱くなります」
衛門の横から新しい人影が、圓が姿を現した
「私もよ、でも…誇りに思ってるのは私の方」
「圓!」
衛門は久々の再会に驚き、喜んだ
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四
風が吹き、桜の花びらが五人の上に舞い落ちる。
「喜備丸が生まれた時は、本当に幸せでした」
時雨の声が、優しく響く。
「あの子を抱いた時、私は思ったんです。母さん、私も母になったよって。あなたが私を抱いた時も、こんな気持ちだったのかなって」
桃太郎は、時雨の肩を抱き寄せた。
「お前は、立派な母さんだ。喜備丸は、お前の優しさを受け継いでいる」
衛門がその場で座り込み、凛々しい笑みを見せた
「我らは喜備丸のあの姿を見るために、人生をかけたんだよな」
弥助も陽気に笑い当時を思い出していた
「まったく、今考えたら恐ろしいよな!あのガキ1人の為に世界を変えてしまうんだから!」
「…でも、あの子に剣を取らせなかったのは、正しかったんでしょうか」
時雨の声に、わずかな迷いが混じる。
桃太郎は、静かに答えた。
「正しかったさ。俺たちは、武力で人を従わせる世の中ではなく、心でつながる世の中を作りたかった。喜備丸は、団子という形で、その夢を叶えているじゃないか」
時雨は、下の団子屋を見つめた。喜備丸が、笑顔で団子を握っている。
「そうですね。あの子の団子を食べた人たちが、みんな幸せそうな顔をしている。それこそが、私たちの願った『安堵の光』なのかもしれません」
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五
弥助がその後の流れを予測して、意地悪っぽく桃太郎に問いかけた
「おーい!次は時雨に膝を貸してーって甘える場面じゃなかったか?」
桃太郎は恥ずかしそうにしながら反論する
「こんな大勢いる中でそんな事するわけないだろ!」
「いいよ!桃太郎!おいで!」
「時雨まで!」
正座をした時雨の膝に向かって素早く飛び乗る影があった。
「ワン!ワン!」
そこにはシロの姿があった。時雨が桃太郎から聞いていた通り、白く美しい毛並みの犬だった。
「シロ!」
時雨はシロの頭を優しく撫でた
「あなたがシロね…桃太郎から活躍聞いたわ」
「あなたがいなければ、喜備丸に今の道はなかったと思う。ありがとう」
シロは尾を振り時雨のお礼に応えた
その時、遠くからまた新たな声が聞こえてきた
「おーーい!忠助ぇえええ!」
衛門が驚いた表情で声の方に顔を向けた。
「秀吉殿!」
秀吉は満面の笑顔を浮かべながら、桃太郎一団の輪に近づいてきた
「お兄ちゃん!」
圓は走って駆け寄り抱きついた
「圓よ、変わりないか?」
秀吉は圓の頭をくしゃくしゃになるほど撫でた
「この姿だもん、変わりようがないよね」
久々に嗅ぐ兄の匂い、幼少期の頃に覚えた温もりが色褪せず、そこにあった。
弥助はその場面を見て羨ましそうな表情をしていた。
「圓!俺がここにいるよ!おいでよ!」
圓は思い出したように秀吉と衛門に告げ口をした。
「兄上!父上!この猿がずっと求婚してきて困ってたんだよ!何とかしてよー!」
衛門と秀吉の目つきが変わる前に、弥助は音も立てずにその場から消えた。
「まったく!あいつは本当素早いな!」
衛門の呆れたような声を聞いた秀吉は静かに笑った
「桃太郎よ!こうして話すのは初めてだな。」
秀吉は桃太郎に歩み寄る
「貴公との駆け引き、実に心が踊ったぞ。最後はお主の思惑通りに踊らされたものだ。」
桃太郎は勝ち誇ったように笑った。
「あの戦いは見ていて心臓に悪かったわ。2人ともまるで空中戦のような知略の応酬だったもの」
時雨は本能寺の変の頃、桃太郎と秀吉が繰り広げた知略の応酬を懐かしそうに振り返っていた。
「時雨……俺には見えるんだ。この先の時代が」
「どういうことです?」
「言葉にできることではない。ただ、感じるんだ。この国の平和は、永遠には続かない。いや、この国だけではない。世界中で、何度も何度も、大きな争いが繰り返されるだろう」
時雨は、黙って彼の言葉に耳を傾けた。
「刀剣よりも恐ろしい武器が生まれ、空から炎が降り注ぎ、海を越えて国同士が殺し合う時代が来る。無数の命が、一瞬で消え去るだろう」
「桃太郎……」
「それでも——」
桃太郎は、時雨の手を強く握った。
「それでも、人は過ちを繰り返しながらも、必ず前に進む。私たちが鬼ヶ島で学んだように、憎しみの連鎖を断ち切る者が、必ず現れる。何度でも、立ち上がるんだ」
時雨はにっこりと微笑んだ
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六
「俺は、この丘から見える景色を、ずっと見守り続けるつもりだ」
桃太郎は、言葉を続けた。
「戦乱の世が終わり、人々が笑い合う日々が来る。そしてまた争いが起き、悲しみが広がる。それでも、その先に——」
彼は、遠くの空を見上げた。
「いつか、本当の平和が訪れる。国境など意味をなくし、人が人を思いやる世界が。それは、私たちの生きていた時代からは想像もつかないほど遠い未来かもしれない。けれど、必ず来る」
時雨は、桃太郎の顔をじっと見つめていた。
「あなたは、そんな未来が見えるのですか?」
「見えるわけじゃない。ただ、信じているんだ。弥助が信じたように、衛門が信じたように、お前が信じたように——人は変われると」
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七
日が傾き、空が夕焼けに染まり始めた。
「さあ、そろそろ行こう」
桃太郎が立ち上がり、時雨に手を差し伸べた。
時雨は、その手を取って立ち上がった。そして、もう一度だけ下の町を見下ろした。
その視線の先には、喜備丸がこちらを見て笑っていた
「あいつ、ひょっとして見えてるのか?」
桃太郎が不思議そうに言った
「辛い時、苦しい時は吉備の村の高台を見上げなさいと最期に伝えたのよ。あの子頻繁に見上げてるそうよ」
「あいつ、手を振ってるぞ…まさか見えてるのか?」
桃太郎は戸惑った表情を見せた。
「ウキキー!」
「ワンワン!」
丘に響き渡る弥助とシロの声。それを聞いた喜備丸は、嬉しそうに両手いっぱい使って大きく手を振った。
桃太郎、衛門、圓、秀吉、そして時雨も満面の笑顔で応えて手を振り返した。
弥助が「またなー!」と叫びながら、風に溶けるように消えていく。
衛門は静かに頷き、圓は秀吉の手を握ったまま、優しく消えていった。
シロはもう一度「ワン」と吠え、尾を振りながら空へと駆け上がった。
やがて、丘には時雨と桃太郎だけが残された。
二人は手をつないで、丘を下り始めた。
その後ろ姿は、まるで永遠の時を生きる精霊のように、静かで、そして優しかった。
そして、喜備丸は高台に向かって深々と頭を下げていた
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八
その夜、城下町の団子屋では、今日も灯りがともっていた。
店内には、笑い声が響いている。
「父上、母上、そして皆様…見ていてください。私は、これからもこの味を守り続けます」
喜備丸は、心の中でそう誓った。
そして、彼の手元には、焼印が押された団子が並んでいる。
「時雨」——その文字は、永遠に受け継がれていく。
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九
丘の上に戻ると、月明かりの下、時雨が一人で立っていた。
桃太郎が近づくと、彼女は静かに口を開いた。
「桃太郎……もし、本当にあなたの言うような未来が来るなら」
「うん?」
「その未来で、誰かがまた過ちを犯し、争いが起きたとしても——」
時雨は、優しく微笑んだ。
「私たちのように、許しと贖罪を選ぶ人が必ずいるはずです。憎しみの連鎖を断ち切る勇気を持つ人が、どこかにいるはずです」
桃太郎は、黙って頷いた。
「そして、その人たちが、少しずつ、本当の平和を紡いでいく——」
時雨は、月を見上げた。
「この物語を読んだ人が、たとえ一人でも、そんなふうに思ってくれたら。それだけで、私たちが生きた意味があるのかもしれませんね」
二人は胸いっぱいになるまで息を吸い、ゆっくりと吐き出した。
その吐息が、風に乗って未来へと舞い上がる。
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十
喜備丸の店は、その後も長く続いた。
彼の子、そのまた子へと、時雨の焼印は受け継がれていった。
戦乱の世は終わり、江戸の世となっても、団子屋は変わらず営みを続けた。
やがて時代は流れ、明治へ。
国は大きく変わり、人々の暮らしも変わった。
それでも、団子の味だけは、変わらなかった。
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十一
大正、昭和へと時代は移る。
桃太郎がかつて、あの丘で時雨に語った言葉が、現実のものとなろうとしていた。
「刀剣よりも恐ろしい武器が生まれ、空から炎が降り注ぎ、海を越えて国同士が殺し合う時代が来る」
世界大戦が起こった。
多くの命が失われ、街は焼け野原になった。
しかし、それでも人は立ち上がった。
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十二
戦後、日本は復興を遂げた。
高度経済成長、バブル、そして平成へ。
人々の暮らしは豊かになり、情報化社会が訪れた。
令和の時代。
スマホで何でも調べられる時代になっても、人々は団子屋に足を運んだ。
素朴な味を求めて。
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十三
あるコンビニで、子ども連れのお母さんがレジ横に懐かしい駄菓子があるのを見つけた
「あら!懐かしい」
お母さんが自分の分と子ども、二つ「きび団子」を買った。
家に帰る道中、昔食べたきび団子の話を楽しそうに子どもに話した。
オブラートに包まれた、素朴な見た目の団子だ。
コンビニで買った商品を冷蔵庫に入れ、きび団子を両手に持ち、子どもに手渡す。
「紙を破って開けてみて」
お母さんの声かけに従って、楽しそうに紙を破く
「お母さん、透明な紙が出てきたよ」
「それは食べれるから大丈夫!食べてみて」
子どもはゆっくりと口を開け、団子に歯を立てた。
その瞬間、子どもは目を見開いた。
口の中に広がる優しい甘さ、見上げれば母の優しい笑顔、子どもにとって最高に贅沢で幸せな時間だった
「お母さんが子どもの頃ね、近くに駄菓子屋があったんだ。そこでこんな話を聞いたの」
「その団子はね、遠い昔、初めて食べた団子を見よう見まねで作った事から始まったんだよ。その団子は土のような味が混ざり、失敗作だったらしいけど、旅が終わってから弟子入りして味を受け継いだとか」
団子の由来を聞きながら、少年は、もう一口団子をかじった。
その味は、どこか温かかった。
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十四
丘の上で、桃太郎と時雨はその光景を見下ろしていた。
「時雨……俺の言った通りになったな」
「ええ。戦争や震災…苦難を幾度も乗り越え、人は立ち上がったわ」
桃太郎は静かに微笑んだ。
「ああ。そして、今——本当の平和が訪れている…これを世界にまで広げていきたいな」
時雨は、桃太郎の手を握り、互いに見つめ合う
「…光、ありがとう。夢にみた光景を作って、守ってくれて」
「俺一人では何もできなかったさ…弥助、衛門、そして香…お前がいてくれたから守れたんだ」
逆光の光を浴びながら、二人の唇が重なり合う様子が見える
そして…また、風が吹き抜ける。
その風は、遠い日に吉備の村で四人がきび団子を囲んだ夜を、血と泥にまみれた戦場を駆け抜けた一匹の犬の物語を、そして、その先の未来まで、静かに語り継いでいるかのようだった。
その団子に刻まれた「時雨」の焼印は、もうどこにもない。
けれど、その味は、今も確かに生きている。
そして、その味を守り続ける人々がいる限り、桃太郎と時雨が見守る「安堵の光」は、永遠に消えることはない。
——そして、彼らは今も、あの丘の上から、この国を見守り続けている。
吉備の山奥の高台で、永遠の時を生きる精霊のように、静かに、そして優しく。
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次回予告
各章に散りばめられた伏線、その回収
さり気ない1シーンから重要な所まで!
ここまで来たら作者も正直内容が濃すぎて伏線を見落としている可能性も高い!
そんな伏線の数々をまとめていきます。
次が本当に最後!ぜひお付き合いください。
【終章・完結】




