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時雨の焼印【通常盤】  作者: 太幽


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おまけ・其の一



おまけにおまけが続いて申し訳ない(笑)

後書きのラストに!ここまで読んでくれた人のために特別情報!


このお話を含めてあと3回だけお付き合いください。


小説家になろう・アルファポリスで全く同じ頻度で公開をしておりますが、2026年3月2日より「カクヨム」での連載をスタートしました。


カクヨム版は、皆様が読んだ終章を冒頭に持ってきて先に伏線をある程度巻いてから読み進めていく仕様になっております。


そして、本章の本当の隠された真のエンディングがカクヨム版で公開されます。


カクヨム版の最終回は3月23日、小説家になろう・アルファポリスでご愛読頂いた皆様には特別に!


・カクヨム版の冒頭

・カクヨム版のエンディング

・筆者が仕掛けた伏線


を3回に分けて公開していきます!


では、カクヨム版の冒頭、お楽しみください




第1話:時雨の夢




かつて、こんなお伽話があった。

桃から産まれた桃太郎が犬、猿、雉を家来にして鬼ヶ島へ乗り込み、世に平和をもたらした。


戦乱の世は遠く昔の話となり、国には平和が訪れていた。

しかし、その平和は決して永遠ではなく、時代は絶えず形を変えながら流れていく。


ある春の日、吉備の村にある山奥の高台で、一人の若い女性が静かに座っていた。


時雨、黒装束に身を纏うくの一の姿。

遥か未来を見据えるとても優しい瞳の美しい女性だ。


風が吹き、桜の花びらが舞い落ちる。彼女の隣には、同じように花びらを受け止める若い男性の姿があった。


今や伝説の存在、桃太郎

これは、本当にあったかもしれない物語


「風が気持ちいいわね」


静かに高台から見える景色を微笑みながら時雨は見下ろしている。


「時雨、何を考えている?」


桃太郎は両腕を組み凛と佇んでいた。


「下を見てごらんなさい」


二人の視線の先には、城下町が広がっていた。その一角にある団子屋の前で、一人の老人が若者に連行されていく姿が見える。老人——かつての宇喜多秀家は、団子を一口もかじれぬまま、今日も護衛に連行されていた。


「次こそは!次こそは!」

「おのれ貴様ら!食べる直前を狙って来やがって!」


その叫び声が、風に乗ってかすかに聞こえてくる。店先では、喜備丸がくすくすと笑いながら見送っていた。


桃太郎が声を上げて笑った。


「秀家殿は、あいかわらずだな」


時雨も、優しい眼差しでその光景を見つめていた。


---



しばらくの沈黙の後、時雨が静かに口を開いた。


「桃太郎……覚えていますか?私たちが出会った日のことを」


桃太郎は、時雨の横顔を見つめた。


「ああ。あの時、お前は突然現れて、『鬼ヶ島に連れて行け』と言ったな」


時雨は、遠い目をした。


「ええ。あの頃の私は、復讐だけを生きがいにしていました。八歳の夜、両親を目の前で殺されてから、ただただ復讐だけを考えて生きてきた。あなたを利用しようと思っていたんです」


桃太郎は優しい笑みを浮かべていた。


「お前にきび団子を食べさせたとき、目を見開いて感動してたろ?あの瞬間だよ、俺が惚れたのは」


時雨は驚いた顔で桃太郎を見た


「ちょっと!今それ言うのずるい!生前の、挙式の時言って欲しかった!」


「でも…そうですね。あの団子を食べた時、冷え切っていた私の心が初めて温かくなりました。そして、私が失敗した団子を、あなたが美味しいと言って食べてくれた時——その瞬間、私は何かが崩れるのを感じた」


幸せな表情を浮かべる時雨。

失敗したあの団子のことを思い出し少し恥ずかしそうな顔をしていた。


「あの団子、本当に美味しかったぞ」


桃太郎がいたずらっぽく言うと、時雨は笑って彼の肩を軽く叩いた。


「嘘つき!あれは、私も食べれないくらい酷かった!土みたいな味だったのに」


「いや、お前の想いがたくさん詰まっていた。最高だったよ」


時雨の目に、涙が浮かんだ。


「…その時に私は初めて恋をしたんだよ」


顔を少し赤くしながら、僅かな声でつぶやいた


「え?何?」


「なんでもなーい!」


桃太郎の方を向いてあかんべぇをする時雨。


下まぶたを指で下げて赤い裏側を見せる、下を出す仕草が愛おしく感じた桃太郎だった。


---



時雨はまた下を見下ろす。


「それから、鬼ヶ島で真実を知った時のことは、今でも忘れられません」


時雨は、言葉を続けた。


「私たちが斬り捨ててきた『鬼』たちは、ただ生きるのに必死な貧しい人々だった。そして、私の一族こそが、彼らを鬼に変えた元凶だった——その真実を知った時、私の復讐は虚しく崩れ去りました」


桃太郎は、時雨の手を握りしめた。


「あの時、私も同じだった。正義だと信じて剣を振るっていたが、その手は罪のない人々の血で染まっていた。私もまた、鬼だったんだ」


「でも、それでも私たちは前に進むことを選びました」


時雨の声は、しっかりとしていた。


「弥助の言葉が今でも忘れられません。『過ぎたことを悔やんでも、死んだ人は戻らない。ならば、この屍を乗り越えて、これから先どうするかが大事なんじゃないか』って」


桃太郎は笑みを浮かべた


「あいつは、いつもああだ。あの場で一番落ち込んでいたはずなのに、一番先に立ち上がった。自慢の親友だ」


桃太郎が懐かしそうに笑った。


時雨も微笑んだ。


---


「そういえば、あの時の仲間たちも、今はみんな——」

時雨が、少し寂しげな声で呟いた。


桃太郎は静かに頷く。


「衛門は、俺の3人目の親だ」

桃太郎が言った。


「かつて都で名を馳せた武将が、裏切り者の汚名を着せられ、すべてを失って——。それでも娘を探し続けて二十年以上。あの人がいなければ、私たちの戦いはもっと厳しいものになっていたでしょう。知将・衛門——俺の師であり、最高の軍師だった」


「ふふふ、桃太郎の噂がお伽話になって、犬にされてたわね」


時雨は思い出しながら笑った


「そして、あの人の娘、つぶら


時雨が言葉を継ぐ。


「秀吉公の側近として育ったくノ一が、自分のルーツを知るまでに長い時間がかかったけれど……衛門の『お前は私の誇りだ』という最期の言葉は、今も私の胸に残っているわ」


「弥助は元気にしてるのかな」


「あの人は死んでいても元気でしょ?」


二人は笑いながら言う。


「山の子として育った野生児は、最後まであの調子だったわね。でも、『必ず生きて帰る』という約束を守り抜いた。あの陽気さが、何度私たちを救ったかしれない」


「シロ——忠助も、立派だったな」

桃太郎が遠くを見る。


「秀吉公に愛された伝説の戦場の犬。一度は主を守って死んだと思われたけれど、生き延びて、老夫婦に拾われて……最後は桜の奇跡を起こした。あの桜は、今もあの村で咲き続けているのでしょうね」


「まぁ…これもあなたの策の内でしょ?」


時雨は優しく微笑んだ。

「そして喜備丸——私たちの息子は、剣を取らずに団子の道を選んだ。あの子が守っている『時雨の焼印』は、いつかどこかの誰かの心を温めるのでしょうね」


---



風が吹き、桜の花びらが二人の上に舞い落ちる。


「喜備丸が生まれた時は、本当に幸せでした」


時雨の声が、優しく響く。


「あの子を抱いた時、私は思ったんです。母さん、私も母になったよって。あなたが私を抱いた時も、こんな気持ちだったのかなって」


桃太郎は、時雨の肩を抱き寄せた。


「お前は、立派な母さんだ。喜備丸は、お前の優しさを受け継いでいる」


「でも、あの子に剣を取らせなかったのは、正しかったんでしょうか」


時雨の声に、わずかな迷いが混じる。


桃太郎は、静かに答えた。


「正しかったさ。俺たちは、武力で人を従わせる世の中ではなく、心でつながる世の中を作りたかった。喜備丸は、団子という形で、その夢を叶えているじゃないか」


時雨は、下の団子屋を見つめた。喜備丸が、笑顔で団子を握っている。


「そうですね。あの子の団子を食べた人たちが、みんな幸せそうな顔をしている。それこそが、私たちの願った『安堵の光』なのかもしれません」


---



桃太郎は、ふと遠くを見つめた。その目には、見えない未来が映っているかのようだった。


「時雨、膝を借りていいか?」


「はい」


時雨が正座をして、桃太郎がその膝に頭を乗せた。


「時雨……俺には見えるんだ。この先の時代が」


時雨は、桃太郎の顔をと頭を撫でながら反応した。


「どういうことです?」


「言葉にできることではない。ただ、感じるんだ。この国の平和は、永遠には続かない。いや、この国だけではない。世界中で、何度も何度も、大きな争いが繰り返されるだろう」


時雨は、黙って彼の言葉に耳を傾けた。


「刀剣よりも恐ろしい武器が生まれ、空から炎が降り注ぎ、海を越えて国同士が殺し合う時代が来る。無数の命が、一瞬で消え去るだろう」


「桃太郎……」


「それでも——」


桃太郎は、時雨の手を強く握った。


「それでも、人は過ちを繰り返しながらも、必ず前に進む。私たちが鬼ヶ島で学んだように、憎しみの連鎖を断ち切る者が、必ず現れる。何度でも、立ち上がるんだ」


時雨はにっこりと微笑んだ


---



「私は、この丘から見える景色を、ずっと見守り続けるつもりだ」


桃太郎は、言葉を続けた。


「戦乱の世が終わり、人々が笑い合う日々が来る。そしてまた争いが起き、悲しみが広がる。それでも、その先に——」


彼は、遠くの空を見上げた。


「いつか、本当の平和が訪れる。国境など意味をなくし、人が人を思いやる世界が。それは、私たちの生きていた時代からは想像もつかないほど遠い未来かもしれない。けれど、必ず来る」


時雨は、桃太郎の顔をじっと見つめていた。


「あなたは、そんな未来が見えるのですか?」


「見えるわけじゃない。ただ、信じているんだ。弥助が信じたように、衛門が信じたように、お前が信じたように——人は変われると」


---



日が傾き、空が夕焼けに染まり始めた。


「さあ、そろそろ行こう」


桃太郎が立ち上がり、時雨に手を差し伸べた。


時雨は、その手を取って立ち上がった。そして、もう一度だけ下の町を見下ろした。


その視線の先には、喜備丸がこちらを見て笑っていた


「あいつ、ひょっとして見えてるのか?」


桃太郎が不思議そうに言った


「辛い時、苦しい時は吉備の村の高台を見上げなさいと最期に伝えたのよ。あの子頻繁に見上げてるそうよ」


「この姿であの子って、外見では俺達の方が今じゃ幼いぞ」


「ふふふ、そうね」


二人は手をつないで、丘を下り始めた。


その後ろ姿は、まるで永遠の時を生きる精霊のように、静かで、そして優しかった。


…喜備丸は高台に向かって深々と頭を下げていた


---



桃太郎と時雨は吉備の村を歩いていた


「桃太郎、懐かしいわね」


そこにはかつて、桃太郎が…光が生まれた家があった


「俺は父、十兵衛の息子として生まれ、川に流された。他の家族の記憶はないが、きっと苦しかったろう」


時雨は桃太郎の腕に手を回して寄り添った


「今なら分かるわ…あなたのお母様がどんな思いで貴方を産み、息を引き取ったか」


「俺も分かるよ、兄がどんな思いで命を落とし、姉と十兵衛がどんな後悔を背負いながら俺を流したか」


「そう言えば、私はその話詳しく聞いたことないわね、聞かせてよ」


「おう!ついでに弥助や衛門との出会いまで教えてやるよ」


「せっかくだから本能寺の変の時、単独行動してた時の話とかも聞きたいな!」


「俺も時雨がどう動いてたか聞きたいな!あの時は緊迫してたからゆっくり話できなかったから」


---



遠い昔、私たちは「桃の時代」と呼んだ安土桃山時代。


その頃、吉備の山奥で語り継がれた一つの真実があった。


それは、あなたたちが知る『桃太郎』の物語ではない。


桃から生まれた英雄が鬼を退治したという、美しくも単純な伝説の裏には、飢饉と貧困が人々の心を蝕み、人間を「鬼」へと変えていった悲しい歴史が隠されている。


英雄の影で孤独な戦いを続けた男と、彼を支えた仲間たちの物語。


そして、血と灰の中から生まれた、もう一つの伝説が、やがて一つの光となる物語である。


これから語られるのは、歴史の表舞台から消え去った、もう一つの物語。


---


桃の産地として知られる岡山県に、かつてこんな物語があった。


桃から生まれた英雄が鬼を退治したという、美しくも単純な伝説の裏には、飢饉と貧困が人々の心を蝕み、人間を「鬼」へと変えていった悲しい歴史が隠されている。


その時代、人々はただ生きることに飢えていた。


武家が支配する世となって久しいが、鎌倉の栄華は遠い昔の話となり、戦乱が絶え間なく続いていた。


都では明から渡った美しい永楽通宝が満ちていたが、遠く離れた農村にその恩恵は届かない。


人々は米や布を交換し、原始的な物々交換で命をつないでいた。


この貧しさが、人々の心に深く暗い影を落とした。


飢えが限界を超えると、村人たちは互いに食料を奪い合い、やがて武器を手に取るようになった。


彼らは徒党を組み、夜陰に紛れては隣の村を襲い、残ったわずかな食料を略奪した。


その姿は、かつて日本を襲った蒙古の鬼にも似ていたため、人々は彼らを「鬼」と呼び、恐れるようになる。


だが、鬼と恐れられたものの正体は、飢饉に苦しみ、力なき者を嘲笑う貴族によって生きる道を奪われた、哀れな人間たちだった。


命はまるで川に流れる木の葉のように儚い。


飢饉が続くと、親は泣く泣く生まれたばかりの子を手放し、神の慈悲を願い、その小さな命を川の流れに委ねた。


川は生と死、そして希望と絶望をつなぐ境界だといわれていた。


そして桃は、魔除けの力を持つと信じられていた時代である。


---


この物語には、もう一人、歴史の表舞台に名を刻むことのなかった女がいる。


彼女の名は、つぶら


後に関白・豊臣秀吉の側近として、その知略を振るうことになるくノ一だ。


彼女もまた、この物語の鍵を握る人物であるが、彼女が活躍するのはずっと先の話。


すべては、一人の男の子が、桃と共に川を流されたところから始まる――。


---


次回予告:

ここから始まる血と泥の子守唄、あなたは既にその一部始終を知っている


満開の桜と新たな出会いで時雨の想いが喜備丸へと紡がれた


次回、真のエンディング

カクヨム版先行公開!お楽しみに!





【第1話・完結】


---


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