そんなところが好きなんだ。
オイラーとアンダーは一つの部屋の中で同じ時間を過ごしている。
といっても共通のことをしているわけではなく。
それぞれがやりたいことをやっているという自由の象徴のような状況である。
椅子に座り、表紙に厚みのある本を読んでいるオイラーは、内容に集中しているため言葉を発することはしない。
何も険悪で喋りたくないというわけではないのだが。ただ純粋に本の内容に集中しきっているのだ。彼の思考は本の内容という世界に完全に吸い込まれてしまっていて、それゆえ、他のことを同時にしようという発想は生まれてこないのである。
一方アンダーはというと、床に座ってナイフを磨いているのだが、時折オイラーの背中へ視線を向けている。
彼の場合は、手は動かしているもののその作業に集中しきっているわけではないので、黙っていたいと考えているような顔つきはしていない。
「なぁ、オイラー」
やがてアンダーが沈黙を破る。
「アンタ、本、読むんだな」
少し間があって話しかけられていることに気づいたオイラーは、ハッとしたような目をした後に、落ち着いた声で「本? ああ、そうだな、時間があればだが」と返した。
「もっと鍛錬をした方がいい、という話か?」
「や、べつに。言ってねーだろそんなこと」
「なら良かった。……しかし、アンは? あまり読まないのか? 本」
そんな問いを投げられたアンダーは「んーまぁ、そだな。読めねぇわけじゃねーけど」と躊躇うことなく答えた。
「あまり読まない感じか」
「賊狩りとかのほーが得意だしな」
「読書と賊狩りが同列とは……」
思わぬ単語が飛び出してきたためにオイラーはほんの少し戸惑ったような顔をした。そして、自身がそういった顔をしてしまったことに気づくと、気を悪くさせてしまったのではないかと心配になったかのように急いでアンダーの方へと視線を向けた。
だがアンダーはまったくもって気にしていない様子。
むしろ唐突にじっと見られたことの方が気になっている、といったくらいの、自然体な顔つきをしている。
「もし不快なことを言ってしまっていたらすまない」
「真面目だなぁ」
「君を傷つけてはいけないと思っている」
「気ぃ遣うなって」
言葉を交わしつつナイフの刃部分を布で拭いているアンダーの面には鋭さは宿っていない。
「そーいうの、要らねぇから」
ぶっきらぼうで、そっけなくて、それでもどこか温かい――そんなアンダーの言葉にオイラーは癒されている。
オイラーは王子だ。貴い人であり、絶対的な権力を持った存在でもある。ゆえに幼い頃から一応大事にはされてきた。周りの人たちはある程度気を遣ってくれていたし、高貴な人として丁重に扱ってもらってきた。
だが、そういった接し方からは決して得られないものが、アンダーの発する言葉たちからは得られる。
そのせいだろうか、オイラーは気づけばいつもアンダーのことばかり考えてしまっている。今までに出会ったことのないタイプの人間であるアンダーのことが気になって気になって仕方がないのだ。
「よければ、だが、おすすめの本を紹介しようか?」
「要らねぇ」
「な、なんと!?」
「オレべつに読まねぇもん」
「そうか……なかなか厳しいな、アンは」
「読む気ねぇのに紹介してもらうってのも変だろ」
「それはそうだな。分かった。だが、もし紹介してほしくなったら言ってくれ。いつでも紹介しよう」
生まれた場所も、立場も、受けてきた扱いも、すべてが異なっていて、それでも彼ら二人が友であることに変わりはない。
「正直でいてくれてありがとう、アン」
「はぁ?」
「君は要らないものは要らないとはっきり言う。だがそこがいい。変に持ち上げることはせず、真っ直ぐに向き合ってくれる、そんな君だから好きなんだ」
「あー……そーいう口説き文句は女とかに言えよ」
「な、なぜ!?」
「オレ口説いてどーすんだよ」
「すまない……」
彼らはこれからも共に歩むだろう。
どんな未来が待っているとしても。
◆終わり◆




