施術者たちの宴1
ビルのドアを開けたところで、西門は声をかけられた。
「西門さん。お疲れ様です」
「ああ、瀬浦さん。お疲れ様」
「この後って、予定あります? よかったら晩ご飯もかねて、飲みに行きません?」
瀬浦は右手を口の前まで持ってきて、ジョッキを上げ下げするジェスチャーをした。
西門は、顔をほころばせる。
「おっ、いいですねー! 更衣室に江戸川さんもいましたから、もうすぐ出てきますよ。一緒に誘いましょう!」
「三人でしたら……古池いっちゃいます?」
「行きましょう、行きましょう!」
池袋のすし居酒屋古池は、サンシャイン60のすぐ近くの飲み屋である。
平日三名から4000円で二時間半の食べ飲み放題……江戸川、瀬浦、西門は、三人ともが呑ん兵衛である。この魅力に、誰が抗えるだろう?
店名に寿司を標榜するだけあって海鮮が名物だが、もうひとつの名物がたこ焼きで、こちらは店外のテイクアウトでも350円で販売している。
三人は良く冷えた生ビールの入ったジョッキを掲げて、「かんぱーい!」とぶつけあう。
江戸川がタッチパネルを操作しながら、三人分のつまみを注文する。
「海鮮下駄盛りは、頼んじゃっていいですかね? あと、わさび巻」
「唐揚げとエイヒレ、いいですか」
「私、ネギ塩たこ焼き!」
やがて並んだ肴を前に、三人は杯を重ねていく。
飲む酒もビールから、江戸川は焼酎お湯割りに、西門はレモンサワーに、瀬浦はホッピーへと移行していた。
そんな時、瀬浦がふと口にした言葉に、西門は酒を飲む手を止める。
「……変わったお客さん?」
「はい」
「それって、厄介系のお客様って意味?」
「あ、いえ。そういうんじゃなくって。外国の方で……ええと、なんて言うのかな……?」
瀬浦は、悩む様子でしばらく視線をさまよわせ、それからおずおずと言う。
「傭兵……ううん、兵隊」
「自衛隊のお客様ってこと? それか、休暇中の米兵とか」
問い返されて、瀬浦は首をかしげる。
「違うなあ。そういうんじゃなくて、もっとこう……体を触った感じ……」
考える彼女の目つきが、険しくなった。
「私の印象では、そう。はっきり言えば。剣士とか。そういうの」
「「剣士」」
江戸川と西門の声が、重なった。
そんなゲームみたいな単語を聞かされて、ちゃかさないのは瀬浦の表情が真剣そのものだったからだ。
江戸川は、ワサビ巻きに醤油をつけて、口に放り込みながら言う。
「そういう話なら、僕にもありますね。僕の場合は、お姫様だけど」
「お姫様、ですか?」
「はい。やっぱり、外国の方でした。日本語ペラペラでしたけど」
そう前置きした上で、江戸川は語る。
「もちろん、僕は目利きなんてできませんよ。でもね、甘ロリとかコスプレとか、そういうのとはちょっと違って。どうも彼女、身に着けてるドレスや装飾品が、普通じゃなかった気がします。……もっと上等で、既製品では出せない雰囲気があったなぁ」
西門も片手を上げる。
「俺もひとり、気になる人が。その人、『ここはどこか?』、なんて質問してきたんですよ」
「えっ!? それって、自分のいる場所がわからなかったってこと?」
驚いた瀬浦の声に、西門は頷く。
「そう。日本ってどこか、大陸のどこに位置するのか、なんて、大まじめな顔で聞くんです。とても冗談言ってる風には見えなかったな……ねえ。江戸川さん、瀬浦さん。そのお客様たちって、施術を受けた後はどうしました?」
「寝ちゃいました」
「同じくですね」
「その後は?」
「予約を入れた、神様って人が迎えに来ました」
瀬浦が言うと、江戸川も声を上げる。
「わ、同じだ! 白いタキシードのお爺さんですよね」
「えっ!? 私の時は、髪の長い女の人でしたよ」
「あれ? 俺の時は、双子の子供だったけど」
しばし三人のテーブルにだけ、沈黙が落ちた。
ガヤガヤとうるさい店内で、西門がレモンサワーを飲みつつ、おずおずと言う。
「……名前が一緒なだけで、全員別人?」
「あるいは、使いの人とか」
「そういう団体名なのかも。海外のお客様をコーディネートする会社とか」
瀬浦がポンと手を打った。
「ああ、変って言えば。サロンにある神棚も、すっごく変ですよね!」




