143:優しい光の魔法 144:紅茶の香りと穏やかな時間 145:気まぐれな報酬
小説 143話:「優しい光の魔法」
庭の中央、澄んだ朝日が降り注ぐ中で、ヒナは一人、魔法の練習を続けていた。
指先に意識を集中し、深く息を吸い込む。
──でも、うまくいかない。
光を灯そうとするたび、心の中の迷いが魔力の流れを乱し、意識が揺らいでしまう。
焦りが募り、何度も試みるが、魔法はうまく発動しなかった。
「はぁ……」
息を吐き出し、がっくりと肩を落としたとき、不意に足音が近づいてきた。
「ヒナ、頑張ってるね。」
穏やかな声が耳に届き、顔を上げると、エリンが優しく微笑んで立っていた。
「ご主人様……」
エリンはヒナの練習を見守るようにそばへ歩み寄る。
ヒナは少し気恥ずかしさを感じながらも、「ありがとうございます…」と静かに呟いた。
「でも、なかなか安定しなくて……失敗する時も結構あるんです……」
エリンはヒナの言葉を聞いて、ふっと柔らかく微笑んだ。
「きっと、焦ったりして気持ちが強く揺れているんだと思うよ。
魔法は力を込めるものじゃない。
もっと力を抜いて、普段のヒナのまま、純粋に相手を思いやる気持ちを向ければ大丈夫だよ。」
エリンの言葉に、ヒナはハッとしたように目を瞬かせた。
──気持ちを込めることに夢中になっていて、焦ってしまっていたのかもしれない。
「……はい。」
ヒナは深く頷くと、胸の前で静かに手を組み、再び意識を集中した。
──誰を助けたい?
思い浮かべるのは、長い間眠ったままの、大切な人。
今も眠りの中で一人きりの、ミア。
(会いたい……ミアさんに……!
必ず……助ける……!)
ヒナの心が強く、純粋に願う。
その瞬間、彼の体から優しい光が滲むように漏れ出した。
手のひらに込めた魔力が、温かく、柔らかく広がっていく──
気がつくと、足元に転がっていた枯れた花のつぼみが、ゆっくりと生気を取り戻し始めていた。
色を失っていた花びらに、少しずつ鮮やかな色が蘇っていく。
茎がしゃんと伸び、小さな花が息を吹き返したかのようにふわりと揺れる。
「……っ!」
驚きと喜びが入り混じった表情で、ヒナは花を見つめた。
「成功……しました」
感動したように、胸の前で手をぎゅっと握るヒナを、エリンは優しく見守っていた。
「すごいね、ヒナ。やっぱり、君の魔法は……とても温かい。」
エリンの言葉が嬉しくて、ヒナはぱっと顔を上げる。
その瞬間──
エリンの手が、ふわりとヒナの頭に触れた。
「え……?」
驚きに目を丸くするヒナを、エリンはただ静かに撫でていた。
柔らかく、優しく、どこか懐かしい感触。
──久しぶりだった。
ずっと距離を感じていたのに、エリンの手が、自分の頭を撫でてくれている。
嬉しさと安堵が一気にこみ上げ、ヒナの瞳が輝く。
「ご主人様……!」
ヒナは、ぱぁっと花が咲いたように笑った。
その笑顔を見て、エリンもまた、微笑んでいた。
144話「紅茶の香りと穏やかな時間」
リビングには、静かで心地よい午後の光が差し込んでいた。
テーブルには湯気の立つ紅茶が並び、その香りがほのかに漂っている。
「ご主人様の分も、淹れました!」
ヒナは嬉しそうにカップを差し出した。
エリンは「ありがとう」と微笑みながらそれを受け取り、軽く香りを楽しむ。
「ヒナの淹れる紅茶は、いつも優しい味がするね」
ヒナは嬉しそうに頷く。
「前にご主人様に紅茶の淹れ方を教えてもらったんですよね!」
エリンは懐かしそうに目を細める。
「そうだったね。最初は時々 茶葉の量を間違えて、すごく濃くなってたけど……」
ヒナはくすっと笑う。
「そうですね、失敗した日にリオンさんもいて『飲んでみなよ』って言われて…、すごく濃い味になっててショックでした」
エリンはカップをそっとテーブルに置き、優しく微笑んだ。
「何事も最初は難しいよね。でも、ヒナは器用だから、きっとすぐにできるようになるよ。魔法もね。」
その言葉に、ヒナはぱっと顔を上げる。
「本当ですか……?」
「もちろん。今日だって、立派に成功させたじゃないか。」
エリンの穏やかな声に、ヒナの顔がほころぶ。
「えへへ…ありがとうございます!」
心が温かく満たされるのを感じながら、ヒナは紅茶をひと口飲んだ。
──その時、不意にリビングのドアが開いた。
「なんか楽しそうにしてるね〜」
リオンがふらっと入ってきた。
その言葉とは裏腹に、彼の声音にはさして興味がなさそうな響きが混じっている。
ヒナはパッと顔を上げると、嬉しそうにリオンを見つめた。
「リオンさん! ボクの治癒魔法、成功したんです!」
そう言って満面の笑みを浮かべる。
リオンは軽く目を細め、ふっと笑った。
「見てたよ。やればできるじゃん。」
まるで何でもないことのように、さらりと言うリオン。
だが、ヒナは驚いたように目を瞬かせると、さらに嬉しそうに微笑んだ。
「……見ててくれたんですか?」
「遠目に少し見えたくらいだけどね」
ヒナの表情が、ますます喜びに満ちていく。
治癒魔法の成功が嬉しかったのはもちろん、
リオンにもそれを見届けてもらえていたことが、素直に嬉しかった。
そんなヒナを見ながら
リオンはちらりとエリンに視線を向けると、あくまで何気ない調子で言った。
「ミアのとこ行ってくる。」
「わかった。気をつけて」
エリンが穏やかに答えるのを聞きながら、リオンはそのまま踵を返してリビングを後にした。
ヒナはその背中を見送りながら、静かにカップを両手で包む。
温かい紅茶の香りが、ほんの少し心を落ち着かせてくれた。
小説145話: 「気まぐれな報酬」
帰ってきたリオンはリビングのソファに腰を下ろし、くつろいでいた。
卓上にはエリンが飲みかけていた紅茶のカップが残っている。
「ミアの様子はどうだった?」
エリンが席を立ちながら問いかけると、リオンは軽く肩をすくめ、気の抜けた声で応じた。
「ま、大丈夫。急にどうこうって感じじゃないしね。」
気楽な調子だったが、その言葉には微かな含みがある。
エリンはそのニュアンスを汲み取ったのか、一瞬だけ視線を落とし、それでも何も言わずに頷いた。
「そっか……」
静かに呟くと、エリンはジャケットを手に取る。
「僕も少し出かけてくるね。」
「あぁ……練習、ね。」
リオンは適当に返事をしつつ、エリンの意図を察していた。
最近のエリンの動きには、一つの共通点がある。だが、それを深く詮索するつもりはなかった。
「いってらっしゃい。」
軽く手を振りながら、リオンは紅茶のカップに目を落とし、一口含む。
「……冷めてる。」
そう呟くと、カップをゆっくりと傾け、最後の一滴まで飲み干した。
空になったカップをテーブルに戻し、立ち上がる。そのまま、ヒナの部屋へと向かった。
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扉を開けると、ヒナがベッドの上で膝を抱えていた。
小さな瓶を手にし、それをじっと見つめている。
「まだ眺めてんの?」
唐突な声に、ヒナはびくりと肩を震わせた。
「リオンさん……」
リオンは部屋に入ると、ヒナの前に立ち、彼が手にしていた瓶を指で弾くように軽く触れた。
「そんなに気になる? それ。」
ヒナは慌てて瓶を握り直し、ぎゅっと両手で包み込む。
「……いえ、ただ……」
「ただ?」
リオンは気の抜けた調子で問いかける。
ヒナは言葉に詰まり、視線を落とした。
──ボク、やっぱりリオンさんのことがよく分からない。
ご主人様のことが好きなのに、それなのに、リオンさんのことも考えてしまう。
気遣いで貴重な精神安定剤を用意してくれたのはすごくありがたいし、嬉しいけど……。
「……もう、いいです。」
ヒナはそう呟き、瓶を枕元にそっと置いた。
気を紛らわせるように、寝具の上に手を滑らせながら、小さく息をつく。
「んー?」
リオンは少し顔を近づける。どこかからかうような笑みを浮かべながら。
「拗ねてる?」
「拗ねてません……!」
ヒナが慌てて否定する。
「…さっきは褒めてくれたのに…」
ヒナはやっぱり少し拗ねた様子で唇を尖らせる。
リオンはその言葉に軽く眉を上げた。
「あぁ……そんなことも言ったっけ?」
「そんなこと、って……。
…努力は認めてもらいたいです…!」
その言葉に、リオンはふっと口元を緩めた。
「へぇ……じゃあ、ご褒美あげよっか?」
ヒナは一瞬きょとんとした。
「……ご褒美?」
「そう。お利口さんだったもんな?」
リオンはヒナの顎を軽く持ち上げると、そのまま唇を奪った。
ヒナは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに目を伏せる。
それがまるで、もう、ごく自然なことのように。
何も言葉を交わさず、ただ静かにその時間が流れる。
リオンはゆっくりと唇を離すと、満足げに片方の口角を引き上げた。
「……ま、いい子にしてなよ。」
そう言い残し、ヒナが何かを言う前に、リオンはふっと笑って部屋を後にした。
勝手に感想。
触れ合いに弱い……弱点特攻か?




