⑨138:天使の子供 139:家族という言葉の行方
138話:天使の子供
静寂が訪れた部屋には、リオンのわずかな動きと、ヒナの寝息だけが響いていた。
譲渡を終えたばかりのリオンは、眠るヒナの背中から広がる白い羽根を指先でそっと撫でていた。
その白く柔らかな感触に、どこか満足げな表情を浮かべながら。
その触れられる感覚に反応するように、ヒナが微かに羽根を揺らし、ゆっくりと目を覚ます。
「……リオン、さん……?」
ぼんやりとした意識の中、ヒナは自分の羽根に触れるリオンの手に気づき、
驚きつつもすぐには声を上げられなかった。
しばらくじっとしていたが、やがてリオンの低い声が静けさを破る。
「起きた?……羽根、随分綺麗になったな」
気だるげな調子の中に、どこか満足げな色が混じる。
リオンはそのまま自分の酒杯に手を伸ばし、ゆっくりと紅い液体を口に運んだ。
ヒナはふと自分の羽根に目を落とし、触れるようにそっと撫でた。
その手つきには、どこか探るような、確かめるような仕草があった。
「あの時…羽根が黒くなって、なんだか身体中が寒く感じて……どうにかなってしまいそうな不安がこみあげてきて…怖かったんです。」
ヒナの声はかすかに震えていたが、言葉を重ねるうちに少しずつ落ち着きを取り戻していく。
「でも、夢を見て、救われた気がして…起きたら羽根も白くなってて、心が軽かったんです。」
そう言いながら、ヒナは自分の羽根をもう一度そっと動かしてみせた。
「どうしてなのかわからない……
天使の羽根が黒くなる理由も、突然また白く戻った理由も、ボクにはわからないんです…。」
静かな声の中に、小さな戸惑いと不安が混ざっているのがわかった。
リオンはその言葉を聞きながら、酒をゆっくりと飲み込むと、ちらりとヒナの羽根を見やった。
「……天使の羽根ってさ、オレにはただの飾りにしか見えなかったけど、意外としぶといもんだよな」
「え…?」
リオンはどこか遠くを見つめるような表情を浮かべながら、続けた。
「前にも似たようなことがあった。壊れそうなのに、全然折れないやつがいてさ。」
その言葉に、ヒナは思わず問い返した。
「どんな人だったんですか?」
リオンは酒杯を軽く揺らしながら、少し口元を緩めた。
「まぁ家族みたいなもんだね、オレからしたら。
……姉…?アイツが姉ってのもなんか癪だな。」
どこか冗談めかした調子で言いながらも、その言葉の裏には微かな感情の揺らぎがあった。
「オレ自分の父親と母親と話す事ってほとんど無かったんだよね。
魔王の息子だから対等な関係ってやつもいなかったしさ、アリアが1番話したかもね。」
「アリアさん……?」
ヒナが小さく反応すると、リオンは少し苦笑して続けた。
「アリアは奴隷として捕まって、混血種のオレの子供を産むために生かされてた天使。
オレは父親の駒を、コレクションを増やす為に生きるなんて冗談じゃないって思ってた。
毎日 会わせられたけど ただ少し話しするだけだった、
アリアは天使の話しもよくしてくれたよ。」
ヒナはじっとリオンを見つめ、その話に耳を傾ける。
「そいつは囚われてるとは思えないくらい、前向きで明るく、よく喋るヤツだった。
落ち込んだり泣いたりしてもタダじゃ起きない、絶対に自分の力で立ち上がってくる。」
ふとリオンはヒナの顔を見て、少し目を細めた。
「ちょっとヒナもアリアに似てるかもな。同じ天使だからかな。」
リオンの何気ない言葉に、ヒナは驚き、そして戸惑いを見せた。
自分がそんな存在と同じ扱いを受けるのは、申し訳ない気持ちと誇らしさが入り混じっていた。
しかし、ヒナは少しの間迷った後、意を決して口を開いた。
「ボクも……リオンさんやご主人の家族って認めてもらって、誇りに思ってもらえるように……
アリアさんみたいに…力強くいられる天使になりたいです」
ヒナの言葉に、リオンは短く息をつく。
その瞳には一瞬だけ、柔らかい光が宿り、そして再び酒杯を手に取った。
何も言わないままヒナを見つめる表情には、どこか穏やかなものが漂っていた。
小説139話:家族という言葉の行方
静けさが包む部屋の中で、リオンは杯に残った紅い液体を静かに飲み干していた。
その瞳は、先ほどのヒナの言葉を反芻するようにどこか遠くを見つめている。
「家族、ね……。」
その呟きが静寂を破ると同時に、リオンはふと視線をヒナに向けた。
「お前、本気でそんなこと思ってんの?」
少し冷たさを含んだ声に、ヒナは戸惑いながらも真っ直ぐリオンを見つめる。
「……はい。ボク、本当にそう思ってます。リオンさんやご主人の家族に……なりたいです。」
その言葉に嘘偽りはなく、ヒナの瞳には純粋な決意が映っていた。
リオンはその視線を受け止めながらも、
わずかに眉を寄せ、息を吐いた
「……ふーん…。」
そう呟いた後、リオンはそっと手を伸ばし、ヒナの頬に触れた。
その手のひらは、普段の彼らしい乱暴さや支配的な態度とは正反対で、
どこかエリンを思わせるような優しさが込められているようだった。
ヒナはその行動に驚き、目を見開いた。
「リオン……さん?」
彼の意図が分からず、ヒナの声には困惑が滲む。
次の瞬間、リオンはヒナの頬に触れた手を少しだけ引き寄せるようにして、
まるで試すかのようにその唇を重ねた。
柔らかくも包み込むようなキスだった。
そのらしくない優しさに、ヒナは一瞬だけ抵抗しようと身を引こうとしたが、
脳裏に夢の中の記憶が浮かんだ。
──夢の中でのあの夜を思い出していた。
主人エリンが優しく首筋に触れ、そっと愛を囁いた夢。
その温もりと愛おしさを感じた瞬間を、ヒナは一瞬噛み締めてしまう。
「……っ。」
ヒナの身体が力を抜き、その身をリオンに委ねるように傾いた。
リオンはその様子を感じ取ったのか、静かに唇を離し、いつもの彼らしい皮肉めいた笑みを浮かべた。
「お前、簡単に流されすぎだろ。」
ヒナは顔を真っ赤に染め、慌てて距離を取ろうとする。
「そ、そんなこと……!」
言い返そうとするものの、言葉にならず口ごもる。
一方、リオンは椅子に再び体を預け、少し遠くを見つめるようにしながら、ぽつりと言葉を落とした。
「……オレが家族、ね。悪くないかもな、そういうのも。」
その言葉は、独り言のようでもあり、ヒナに向けられたもののようでもあった。
勝手に感想です。
天使の本能と恋は忙しい…な…困った…。
年齢のことや家庭環境もあり、
素直が裏目に出て、急成長で不安定になり悩み、
依存もしてしまう
どうやって乗り越えていくんでしょうか




