68 ミドリとキミドリ3
あれよあれよという間にヤンキースタイルにさせられたユニバス。
それから決戦の場である橋の上で、納得のいかない様子で佇んでいた。
「なんで、こんな格好を……」
「作業着でケンカなんてありえないっしょ」とミドリ。ギャルたちは通常の『ポーキュパイン魔導女学院』の制服に着替えていた。
「うん。それにこの『ケンカストリート』でケンカしていいのは、学生の格好をしている子だけなんだよ」とティフォン。
「俺はべつに、ケンカなんて……キミドリと話を……」とユニバス。
「キミドリは目が合った時点でケンカになるよ、うちもそうだったもん」とミドリ。
「そのキミドリってサルか何かなの?」とガミメス。
「ユニバス様、そのお召し物、まさに熱血硬派でございます。試しにわたくしを押し倒して、馬乗りパンチなどをなさっては……」とイズミ。
「あっ!? 来たよ!」とミドリ。
……ザッ! ザッ! ザッ! ザッ!
ユニバスの背後には大きな門があったのだが、橋を挟んだ向こう岸にも同じような門があった。
開いた門の向こうから、もうもうと砂塵をあげ、特攻服の一団が歩いてくる。
道いっぱいに広がり、通行人たちが驚いて避けていた。
その先頭にいるのはキミドリで、あまりの大柄さに精霊姫たちは驚く。
「わぁ、おっきぃ!」
「でかっ!」
「ご立派です!」
一団が門をくぐると、同時にふたつの門は閉められ、かんぬきがかけられた。
……ガコオンッ……! と、重厚な音が響きわたる。
特攻服の面々は橋のたもとで止まり、橋へ向かって歩いていくキミドリを見送る。
ユニバスのそばにいた精霊姫たちやギャルたちも、ユニバスの後ろの橋のたもとへ移動した。
キミドリは橋の途中、ユニバスと10メートルほど離れた場所で止まる。
そして弁慶のように、ユニバスを見下ろして言った。
「アタイを呼び出したのは、おめぇか……? イキがった格好しとるが、顔はシャバ僧じゃのう!」
キミドリの背後にいた手下たちが「あははははは!」と笑う。
「俺はユニバス。キミと話がしたいだけだ」
すると、キミドリの顔から笑顔が消え去った。
額にビキッ! と青筋がひとつ。
「そうか……おめぇ、『代理ユニバス』か……! アタイが一番きらいな男のフリをして、アタイの前に現れるなんて……!」
ビキビキビキィーーーーーーッ!!
「命が……惜しくないんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
まるで落雷のような一喝。
ユニバスの後ろにいた精霊姫たちやギャルたちが、ビクッと身体を縮こませる。
キミドリは手から独楽を出し、いつもの女番長らしいポーズを決め……。
るかと思いきや、相撲の塵手水のような大仰な構えを取る。両手を打ち合わせると、手にあった独楽は蚊かなにかのごとく、あっさりと潰れた。
パァーン!
これには精霊姫たちもビックリ。
「わあっ!?」
「すごいお力です……!」
「サルじゃなくてゴリラだった!」
舞い散る木くずの向こうには、鬼そのものになったキミドリの顔があった。
「『怨殲斗羅流Z會』総長、キミドリ! こましたるっ……! ……いいや、ぶちこましたるっ!!」
ユニバスはついに覚悟を決めた。
「こうなったら、仕方がないか……。よし、こいっ!」
ユニバスは両手をぶらりとさせたまま言う。
キミドリが橋板を蹴って走り出した。
まるで象が走ってくるかのようなプレッシャー。橋が軋んでグラグラと揺れる。
「く、来る……! 『顔飛ばし』が……!」
自分が受けたときの恐怖を思いだしたかのように、震えるミドリ。
グワッ! キミドリの顔は鬼を通り越し、地獄の閻魔のような最凶フェイスになっていた。
「ユニバス、死ぃぃねぇぇやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
……ビシィィィィッ!!
キミドリの足元の橋板から、蜘蛛の巣のような亀裂が走る。
橋の下の川が逆巻き、魚が跳ねた。
爆風じみた顔圧が、ユニバスのリーゼントのカツラを吹き飛ばす。
後ろにいたキミドリの手下たちや精霊姫たち、ギャルたちは衝撃のあまり、バタバタと将棋倒しになっていく。
倒れながらも、ギャルたちは見ていた。
「う……うそ……!? ユニバスさん……!」
「あれほどの顔圧を受けても、びくともしないなんて……!」
ユニバスは台風のただ中にいるかのような圧を受けているというのに、微動だにしていなかった。
「いてて……そりゃそうだよ」とティフォン。
「ユニバス様は、伝説の悪魔を前にしても笑っておられましたから」とイズミ。
キミドリは「なにっ!?」と目を剥いた。
――アタイの最大級の『顔飛ばし』をまともに受けても、立っとるじゃと!?
そして彼女はさらに、信じられないものを見てしまう。
ユニバスは嵐のなか、キミドリを見据えたまま無言で頬の傷に左手を当てた。
傷を伸ばすように手を反対の頬へ滑らせると、傷跡は崩れ、フェイスペイントのように筋となって顔に広がる。
これにより『目くらましの薬』の効果が薄れた。
「キミが、俺をどんなに嫌っても……!」
「!!!!」
キミドリは、まるで自分の愛する我が子を車で轢いてしまった親のような、これが夢であってくれと祈るような、凄惨なる顔になっていた。
――まっ……まさか……!? まさかまさか、まさかっ……!?
ユニバスは思いのたけをぶつけるように叫んだ。
「俺は……キミが好きだぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
世界が真っ白に飛んだ。
……ズドォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!
「うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
真っ白な世界で吹き飛ばされるキミドリ。
特攻服のマントが剥がれ、セーラー服がビリビリになった。サラシを巻いた胸板が露わになる。
ズダァン! と、閉じた門に背中から叩きつけられ、そのままズルズルと落ちていって尻もちをついた。
「……うう……! ううっ!?」
痛みに歪んでいた顔が、驚きに見開かれる。
目の前にはなんとユニバスがいたのだ。少女漫画タッチの。
「あっ……あわっ! あわわわっ! わわわわわっ!」
顔を耳まで真っ赤にし、乙女のように取り乱すキミドリ。
キミドリは逃げようとしたが、ユニバスはダン! と門に手を突いて行く手を遮る。
どこからともなく「あっ、壁ドンだ!」「いいなー!」と声が聞こえてくる。
ユニバスは真剣な顔でキミドリに問うた。
「教えてくれ。キミがなぜ、俺を……いいや、なぜ人間嫌いになったのかを」
「ひぃぃぃぃっ!? あわ、あわ、あわ……!」
キミドリは胸を隠すように身体を抱き、チワワのように震えている。
顔をそむけたのだが、ユニバスはそれを許さなかった。
……クイッ! キミドリの顎を指でつまんで、目が合うように上を向かせる。
どこからともなく「ああっ、顎クイまで!」「ずるーい!」と声が聞こえてきた。
ユニバスはさらに真摯に問う。
「たのむ、教えてくれ。キミの力になりたいんだ。教えてくれるまで、離さないぞ……!」
そのイケメン顔がぐっと近づいてきて、キミドリはついに決壊した。
「ひっ……ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!?!?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それからしばらくして、キミドリは門の隅で縮こまって泣いていた。
「うっ……うっ……うううっ……! ひっく! ぐすっ……!」
その姿をユニバスと精霊姫たち、ギャルたちはやれやれといった様子で見ていた。
「あーあ、泣かせちゃった」とティフォン。
「そんなつもりはなかったんだが……」とユニバス。
「でもなぜ、泣かれているのでしょうか?」とイズミ。
「ざぁこ、そんなの決まってんじゃん」とガミメス。
「キミドリは、ユニバス様のことが大好きだったんだよ」
「えっ、そうなの? なんでわかるの?」とティフォン。
「チラッと見えちゃったんだよねぇ」と、ガミメスは落ちていたキミドリの特攻服を拾いあげる。
その特攻服の背中には、『怨殲斗羅流Z會』という文字が大きく刺繍されていた。
しかしガミメスが裏返すとリバーシブル仕様になっていて、その背中に刺繍されていたのは……。
『幽仁刃棲Z會』
「ゆ……ユニバス!?」と、驚く一同。
「なんで……!? キミドリちゃんはユニバスくんのことが大好きだったのに、なんで大嫌いなんて言ってたの!?」とティフォン。
キミドリは壁のほうを向いたまま、観念したように話しはじめた。
「わ……私がユニバス様のことを知ったのは……オンセントラルにある精霊高校に入学したばかりの頃……でした……」
















