67 ミドリとキミドリ2
十字路で対峙する、ふたつのグループ。
まずはギャルたちが名乗った。
「うちは『逆流出立苦泡』の頭、ミドリ! 今日はただ、話したかっただけなんだけど……。まあ、せっかくだからその強さ、見せてもらうよ!」
ギャルたちもこの『ケンカストリート』においては、スケバン仕様の格好をしていた。
制服の上着の丈を特攻服のように長くしていて、スカートもスリット入りのロング丈になっている。
『愛羅武勇』『夜露死苦』『天下無敵』『ギャル魂』『阿下阿下』『矢刃棲義』などの刺繍もちゃんと入れていた。
ミドリの武器はカミソリの刃。それを両手の指に挟み、両腕をクロスさせてポーズを決めていた。
対するグループのリーダー、キミドリは、例の女番長らしい不敵な決めポーズで応じる。
「『怨殲斗羅流Z會』総長、キミドリ! アタイは、おめぇなんか知らんのう……!」
手にした独楽を、グググッ、と握りしめる。
「それにアタイは、男の次にギャルが嫌いなんじゃ……! 毒の蝶みたいな化粧して、ぶよぶよの身体のクセしてイキがるお前らが……!」
……バキーン! 独楽が握り潰され、粉々になる。まるでギャルに恨みがあるような怒りっぷりだった。
ミドリはその怪力に少し気後れしながらも、言葉で応じる。
「キミドリ、あんた少し見ない間に変わったね。中学の時はあんなに……」
「ふん、ビビッちまったのか。やっぱりギャルってのは口だけじゃのう。その減らず口も、すぐに叩けなくしてやるけぇ」
睨み合うミドリとキミドリ。走り出したのは同時であった。
ミドリはクロスさせていた両手をシュバッとYの字に広げ、メイクに彩られた顔を夜叉のごとく歪める。
「こんのブサイク女っ! 眉毛くらい、整えろやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
しかしキミドリはこれまで、容姿をさんざん罵倒されてきた。
相手が男であってもびくともしなかったのだが、ミドリの罵倒は多少の効果があったのか、カマイタチのような風で頬や額、マント代わりの特攻服の端がピッ! と切れていた。
しかしそれは、火に油を注ぐ結果となってしまう。
顔から血を垂らすキミドリの顔は、地獄の悪鬼のような恐ろしさだった。
「この眉毛は、アタイの意地じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
ズドォォォォーーーーンッ!!
今回のキミドリの顔圧はいちだんとすさまじく、近隣の建物が破壊され、ギャルたちが全員吹っ飛ばされるほどであった。
……バリーン!
空中でギャルたちの上半身の服がビリビリに破れ、サラシを巻いた胸が露わになる。
この時点で、勝負はついたも同然であった。しかしキミドリは、鬱憤を晴らすかのように挑みかかっていく。
「そんな細い眉をしとるから、柳みたいに吹っ飛ぶんじゃあ! こましたるーーーーっ!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その後、キミドリはボコボコになったギャルたちを見下ろしていた。
「う……うう……!」と、身体をくの字に曲げて呻くギャルたち。
ふとキミドリは、魔導真写装置が落ちているのを見つける。シニストラの封印確認クエストでも使われたものだ。
キミドリは「どおら」と、それを拾いあげる。
「修学旅行の思い出じゃ、お前らの顔を踏みつけてる真写を撮ったらぁ」
キミドリが太い指で魔導真写装置を操作すると、背面の液晶に、ふたりの少女の過去の写真が映った。
それは、ミドリとキミドリが同じ中学のクラスメイトだった頃の真写だった。
ミドリはウインク、キミドリは少し恥ずかしそうにして、ふたり仲良く頬を寄せ合って映っている。
この頃のミドリはギャルではなく、キミドリもスケバンではない。純朴な中学生だった。
液晶の中で頬を寄せ合う、幼い自分。その画面の上で、太い指がほんの一瞬、止まった。
だがすぐに、その顔から表情が抜け落ちる。
思い出の真写を、キミドリは「ふん」と鼻で一蹴した。
その真写を送って、次に出てきたのは……。
シニストラの洞窟内での、ユニバスの姿であった。
「こ……これは、ゆ……ユニバスっ……!?」
思わず、手にしていた魔導真写装置を地面に落としてしまうほどのショックを受けるキミドリ。
直後その額に、ビキビキビキィーーーーーーッ!! と、稲妻のような青筋がいくつも走る。
キミドリは顔飛ばしの時ですら見せたことがないほどの、恐ろしい形相になっていた。
キミドリの手下たちがざわめく。
「そ……総長の、あのお顔はっ!?」
「く、来るぞ……! 総長による、『嫌いな人間発表スケバン』が……!」
キミドリの身体から放たれた闘気が、周囲の空気をゴゴゴゴゴ……! と、ドラムロールさながらに震わせはじめる。
「アタイが嫌いな人間っ……! 第三位は、ギャル……! 第二位は、男……! そして……そしてそして、そしてっ……!」
噴火寸前のように、顔は真っ赤っか。
「ダントツの第一位は……ユニバスなんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
ドカーンという音が聞こえてきそうなほどの、怒りの大爆発。
そのまま怒りにまかせて足を振り上げ、魔導真写装置を踏み潰そうとする。
「ま……待って!」とミドリ。「キミドリ! それは、うちらの……!」
一瞬、キミドリの足がピタリと止まった。
しかし過去を絶ちきるかのように、魔導真写装置を踏みつけ、粉々にする。
そして、天に向かって野獣のように吠えた。
「ユニバスっ……アイツだけは絶対に、ぶちこましたらぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
説明を終えたミドリ。
そのまわりでは地の精霊たちが、砕けた魔導真写装置の破片を手分けして拾い集めている。
その様子をぼんやりと目で追うミドリの瞳には、悲しげな色が滲んでいた。
「うちとキミドリは、中学の時の親友だったんだ」
「へぇ、ミドリちゃんって共学だったんだ」とティフォン。
「共学というのは、人間様とわたくしたち精霊がいっしょに学ぶ学校のことですよね」とイズミ。
「ざぁこ、底辺校じゃん」とガミメス。
「うちらは中一の時に同じクラスになって、うちから声を掛けたんだよね」とミドリ。
ふたたび回想。
桜舞い散る校庭で、ふたりは出会った。
『あなた、キミドリっていうんでしょ? あたしはミドリ』
『ミドリ……ちゃん?』
『ミドリでいいよ。あはは、なんか名前が似ててウケるよね』
「うちとキミドリはすぐに仲良くなれたんだけど、ふたりして上位グループのリーダーに目を付けられちゃって、中学の時はずっといじめられてたんだよね」
いじめの回想。
ふたりでトイレで水をぶっかけられたり、まくりあげたスカートを頭の上で縛る茶巾ズシにされて笑われたり、黒板に悪口を書かれたり。
「だから、卒業の時に誓ったんだ」
卒業式の日。
桜の花びら舞う校庭で、ふたりは別れを惜しんでいた。
『「魔導女学院」に行ってもがんばって、ミドリなら立派な魔導女になれるよ』
『もちろん、最強の魔導女を目指すよ。でも、その前に……』
ミドリはキミドリの手を握りしめて言う。
『あたし……いや、うちは高校デビューするって決めたんだ。キミドリを守れるくらいに、強くなってみせるよ』
『ミドリ……。じゃ、じゃあ、私も高校デビューする。ミドリを守りたい』
『あはは、じゃあどっちが強くなれるか競争だね』
「そしてうちは、『魔導女学院』でギャルグループに入ったんだ。メイクも髪型もファッションもバッチリキメて、ナメられないように……。キミドリも高校デビューするって言ってたから、どんな風になってるのかなと思ったんだけど、まさかアッチ方面にデビューしてたなんて……」
ミドリはユニバスに、困惑しきりのまなざしを向ける。
「中学の時のキミドリは、あんな乱暴な子じゃなかった……。それにユニバスさんのことも、当時は知らなかったのに……。高校に入ってから、なにかあったんだと思う……」
木の精霊であるキミドリが、いつどこでユニバスと関わったのか。それはミドリにも、見当がつかないようだった。
思い出に浸るミドリだったが、大切なことを思いだしてハッとなる。
「って、浸ってる場合じゃなかった! とにかく逃げて、ユニバスさん! キミドリの怒りようは、マジで超ヤバかった! 見つかったら、本当に殺されちゃう!」
「ユニバスくんのことが嫌いな精霊が、レセプルちゃん以外にもいたなんて……」と、ショックを受けているティフォン。
「お逃げになったほうが、よろしいのでは……?」と心配そうなイズミ。
「ざぁこ、相手は木の精霊なんでしょ? あたしが燃やしてあげよっか?」と、フッと小さな炎の息を吐くガミメス。
ユニバスは考えるまでもない、といった様子で言った。
「よし。キミドリと会って、話をしてみよう」
キミドリの恐ろしさを知るギャルたちは「ええっ!?」と驚く。
「マジ、やめといたほうがいいって、ユニバスさん!」
「キミドリのヤバさを知らないから、そんなことが言えるんだよ!」
ギャルたちは必死に止めようとするが、ユニバスは後ずさって逃げる。
ドン、と、なにかにぶつかった。振り返ると、ニコニコ笑顔の精霊姫たちがいた。
「じゃあ、準備しよっか!」とティフォン。
ティフォンは白い長ラン、イズミは白いボンタンズボン、ガミメスはリーゼントのカツラを持っている。
長ランには『帝威婦音』『威澄』『牙美女巣』の刺繍がなされていた。
















