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【コミックス8巻、発売中!】無能と呼ばれた『精霊たらし』 実は異能で、精霊界では伝説的ヒーローでした  作者: 佐藤謙羊
第3章

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54 パイススの村4

「チョコレートと、同じだ……」


 思わず、俺はそうつぶやいていた。


 チョコレートは、高級な菓子として人間の王族や貴族に親しまれている。

 だがその裏で上流階級の人間たちは、精霊の村でカカオを育てさせては安く買い叩き、加工して何倍もの値で売りさばいているのだ。


 儲かるのは人間ばかりで、精霊の村は貧しいまま。カカオを育てている村の子供たちは、チョコレートの味さえ知らないという。

 この村のスパイスと、まるで同じだった。


 魔王の出現をきっかけに、人間は正義の名のもとで精霊たちを迫害してきた。その名残で、精霊への搾取が、当たり前のように続いている。

 俺は奥歯を強く噛みしめた。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 その頃、ピラミッドの頂上でもカレーキングがぎりぎりと拳を握りしめていた。


 ――カレーは高貴なる食べ物……! それを、あんな下賤な精霊どもに与えるなど、カレーへの冒涜にほかならない……!

 しかし、それよりも由々しきことがある……! まもなくこの村へ、ナナホシ女王とワルメシアン筆頭大臣がお越しになるのだ……!


 最高のカレーを献上し、王宮料理人として召し抱えていただくつもりなのに……!

 もしあの光景をご覧になった女王が、「あの男のカレーも食べてみたい」などと言いだして……!


 万にひとつ、このカレーキングのカレーより美味だと評されでもしたら……!


 カレーキングは、想像するだけで腸が煮えくり返る思いだった。


 そんな最中、彼は目にしてしまう。

 村人たちに混じって、ちゃっかりユニバスカレーのご相伴にあずかっているカレイラの姿を。


 カレイラは幸せそうにカレーを平らげると、すっかり味の(とりこ)になった顔でユニバスを見つめていた。

 カレーキングの目にはそれが、「あなた様こそ真のカレーキング、どうか弟子にしてください」と擦り寄っているように映った。


「お……おつカレーぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 かん高い奇声とともに、カレーキングはピラミッドから飛び降り、カレイラへ挑みかかった。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 カレーキングはカレイラの胸倉を掴むと、無理やり引きずり立たせた。


「この、裏切り者ぉぉぉ!」


 顔を真っ赤にして、怒りを露わにしている。


「や……やめろ!」


 俺は何度も止めようとした。だが、頭に血がのぼったカレーキングには、まるで届かない。


「おっ……お許しくださいっ……!」


 カレイラが苦しげに顔を歪める。


「ど……どうしても、確かめてみたかったんです……! 村のみなさんが、あまりにも美味しそうに食べているから……!」


「なら、おっしゃい! 正直な感想を! このカレーキングのカレーに比べれば排泄物同然だと! そう声高(こわだか)に叫ぶのです!」


「は……はいっ……! た……太陽みたい、でした……!」


「なんですと?」


 締め上げられて苦しいはずなのに、カレイラはカレーの味を思い出したのか、夢見心地の顔になっていく。


「ひと口食べると、カッと熱くなって、身体じゅうがぽかぽかしてくるんです……! まるでお腹のなかに太陽が生まれたみたいで……幸せで、元気になれて……! こんなに美味しいカレーは、初めてです……! これこそが、本物のカレーですっ……!」


 とろけきった顔のまま、カレイラは容赦のない一言を放った。


「これに比べたら、カレーキング様のカレーなんて、お尻から出たみたいな味で……!」


「おつカレーぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーいっ!」


 カレーキングは怒りに任せ、カレイラの身体を力士が差し上げるように高々と持ち上げる。

 そのまま天高くへと放り捨てた。


「きゃあっ!?」


 カレイラがぬかるんだ地面へ背中から落ちていく。

 俺はとっさに地を蹴った。


 ……ガシイッ!


 地面にめりこむ寸前、その身体をしっかりと抱きとめる。

 お姫様抱っこの格好で受け止められて、カレイラはキョトンとしていた。


「「「い……いいなーっ!」」」


 精霊姫たちの大合唱。


「大丈夫か?」


「は……はい……」


 カレイラはなぜか頬を染めていた。

 俺は彼女をそっと立たせてやる。


 すると、カレーキングが忌々しげに眉を吊り上げていた。

 自分の前では決して見せないカレイラの顔を、俺が引き出したのが我慢ならないといった様子で。


「ぐぬぬっ……! この、不届き者っ! 王の神聖なる指導を邪魔するとは……!」


 俺はカレーキングを正面から見据え、言い返した。


「こっ……こんなのは、指導なんかじゃない……! た……ただの、暴力だっ……!」


「ただの暴力……? ふふん、暴力というのは、こういうことをいうのです……!」


 直後、カレーキングの鼻の穴が、グパァと大きく広がった。


「ばるぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!」


 座ったまま鼻から大きく息を吸い込むと、その身体は風船のようにぷっくりと膨らみ、ふわりと浮き上がる。

 カレーキングはその勢いのまま大地を蹴り、さらに宙へ。彫像の台座も蹴りつけ、俺の頭上はるか高くへと舞い上がった。


「なにっ!?」


 ピラミッドの上で、誰かが声を張り上げた。


「カレーキング様が本気になったぞ! あのお方は一流のカレー職人であるだけでなく、超一流の格闘家なんだ!」


「あれこそ、カレーキング様の奥義、『バルーンボンバー(カレー味)』!」


「空から急襲して、相手をぺちゃんこに押しつぶす……! あの技で生き埋めになった者は、数え切れない!」


「あ……あぶないっ!」


「なんかヤバそう!」


「どうか、お逃げください!」


 精霊姫たちが口々に訴える。

 まんまるに張りつめたカレーキングが野太い声で笑った。


「ほっほっほっほ! この技から逃れられた者は、いまだかつておりません……! さぁ、覚悟なさいっ……!」


 見上げれば、カレーキングの作り出した丸い巨影が俺をすっかり覆い尽くしていた。


「ボンバぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 その咆哮の直後、落石のような勢いでカレーキングが急降下してくる。誰もが、俺が押し潰される瞬間を思い浮かべたはずだ。

 だが、次の瞬間。


 ……ドッ……! ベチャアッ……!!


 俺は寸前で身を引き、その一撃をサッとかわす。

 狙いを外したカレーキングは、まともに地面へと埋没していた。


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