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【コミックス8巻、発売中!】無能と呼ばれた『精霊たらし』 実は異能で、精霊界では伝説的ヒーローでした  作者: 佐藤謙羊
第3章

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32 精霊金術1(前編)

 ナハーン草からようやく解放された一行は、リングラッドの森の道を、馬車でのんびりと進んでいく。

 その馬車のなかにあるシャワールームでは、ティフォンとガミメス、ふたりの精霊姫が蜜まみれになった身体を流していた。


「うぅ、身体べっとべと。なかなか落ちないじゃん」


 ガミメスは、べたつく肌をゴシゴシと乱暴に擦りながら、さっきからずっと不機嫌そうだ。となりのティフォンは、やけにニコニコしている。


「でも、ミツアツメさんからお花をいっぱいもらえて良かったね! ユニバスくんが言うには、蜜のお返しなんだって!」


「ざぁこ。ティフォンはバカみたいにもらってたけど、あたしは一本ももらってないし。まあ、宝石なら、もらってあげてもよかったけど」


「えーっ、あたしは、お花のほうが好きだけどなぁ」


「そりゃ、雑魚には雑草がお似合いだし」


「もう、そんなこと言って! でも、みんなで旅してたら、そのうちきっと、宝石だっていっぱいもらえるよ!」


 キュッ、とガミメスがシャワーの栓を閉め、ティフォンのほうへ向き直る。

 濡れた前髪から、ぽたぽたと雫が滴り落ちる。その奥からのぞく瞳は、どこか蔑むような色をたたえていた。


「あたしは、みんなで旅なんかしたくない。旅をするなら、ユニバス様とふたりっきりがいい」


「えっ」


「ついでだから、ハッキリ言っとく。もしユニバス様がいないときに、ティフォンが今日みたいに捕まるようなことがあっても、あたしはすぐに見捨てるから」


「そんな……」


「当然じゃん。ただでさえこれから、ライバルが増えるっていうのに」


「ライバル?」


「ざぁこ。タンブルクイーンを見て、なにも思わなかったの? 木の精霊って美女ぞろいなんだよ? しかもみんなスタイル抜群! そんなのが、これから雑草みたいにワサワサと出てくるんだからね!?」


「そんな、勇者じゃあるまいし。ユニバスくんはこれまで一度だって、精霊をエッチな目で見たりしなかったよ」


「そりゃそうでしょ。だってそばにいたのが、イズミみたいなクソまじめと、ティフォンみたいなちんちくりんだけなんだから」


「ち、ちんちくりん!?」


 不意を突かれて、ティフォンが目を白黒させる。


「どーせ、『よとぎ』もロクにできなかったんっしょ?」


「うっ……!」


 グサッ、と胸に何かが突き刺さったような顔になるティフォン。だが、彼女はすぐに落ち着きを取り戻す。そして、自分もシャワーのレバーをひねって湯を止めた。


「でも……。それでもやっぱり、わたしは……。ガミメスちゃんが危ない目にあったら、助けたいな」


「は?」


「わたしも最初は、ユニバスくんとふたりっきりで旅してたの。すごく最高で、ずっとこのままふたりでいたいって思ってた。……でも、イズミちゃんがいっしょになってからは、イズミちゃんもいなくちゃイヤだって思うようになって……。そしていまは、ガミメスちゃんもいっしょじゃなきゃイヤになっちゃった。だから、わたしは助けるよ」


「ウソばっかり」


「ウソじゃないよ。だって、ユニバスくんのためだもん。最初からずっとふたりきりならともかく、途中から誰かがいなくなって、ふたりきりになるなんて……。そんなの、ユニバスくんは喜ばないと思うから」


「……」


 ガミメスは、めずらしく言い返さなかった。


「それに言ったでしょ、わたしはガミメスちゃんのことが好きだって。だからガミメスちゃんが危ない目にあってたら、絶対に助ける。……それも、全力で! 約束するよ!」


 言っているうちに気分が昂ぶってきたのか、ティフォンは鼻息も荒く、ガミメスの手を握ろうとする。だが、ガミメスはその手をパシッとはたき落とした。


「ざぁこ。あたしは、助けなんかいらない」


 そう言い捨てると、ガミメスは話を打ち切るように背を向け、シャワールームを出ていく。


「そうやって、ひとりで仲良しこよししてればいいじゃん。……バッカみたい!」


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