32 精霊金術1(前編)
ナハーン草からようやく解放された一行は、リングラッドの森の道を、馬車でのんびりと進んでいく。
その馬車のなかにあるシャワールームでは、ティフォンとガミメス、ふたりの精霊姫が蜜まみれになった身体を流していた。
「うぅ、身体べっとべと。なかなか落ちないじゃん」
ガミメスは、べたつく肌をゴシゴシと乱暴に擦りながら、さっきからずっと不機嫌そうだ。となりのティフォンは、やけにニコニコしている。
「でも、ミツアツメさんからお花をいっぱいもらえて良かったね! ユニバスくんが言うには、蜜のお返しなんだって!」
「ざぁこ。ティフォンはバカみたいにもらってたけど、あたしは一本ももらってないし。まあ、宝石なら、もらってあげてもよかったけど」
「えーっ、あたしは、お花のほうが好きだけどなぁ」
「そりゃ、雑魚には雑草がお似合いだし」
「もう、そんなこと言って! でも、みんなで旅してたら、そのうちきっと、宝石だっていっぱいもらえるよ!」
キュッ、とガミメスがシャワーの栓を閉め、ティフォンのほうへ向き直る。
濡れた前髪から、ぽたぽたと雫が滴り落ちる。その奥からのぞく瞳は、どこか蔑むような色をたたえていた。
「あたしは、みんなで旅なんかしたくない。旅をするなら、ユニバス様とふたりっきりがいい」
「えっ」
「ついでだから、ハッキリ言っとく。もしユニバス様がいないときに、ティフォンが今日みたいに捕まるようなことがあっても、あたしはすぐに見捨てるから」
「そんな……」
「当然じゃん。ただでさえこれから、ライバルが増えるっていうのに」
「ライバル?」
「ざぁこ。タンブルクイーンを見て、なにも思わなかったの? 木の精霊って美女ぞろいなんだよ? しかもみんなスタイル抜群! そんなのが、これから雑草みたいにワサワサと出てくるんだからね!?」
「そんな、勇者じゃあるまいし。ユニバスくんはこれまで一度だって、精霊をエッチな目で見たりしなかったよ」
「そりゃそうでしょ。だってそばにいたのが、イズミみたいなクソまじめと、ティフォンみたいなちんちくりんだけなんだから」
「ち、ちんちくりん!?」
不意を突かれて、ティフォンが目を白黒させる。
「どーせ、『よとぎ』もロクにできなかったんっしょ?」
「うっ……!」
グサッ、と胸に何かが突き刺さったような顔になるティフォン。だが、彼女はすぐに落ち着きを取り戻す。そして、自分もシャワーのレバーをひねって湯を止めた。
「でも……。それでもやっぱり、わたしは……。ガミメスちゃんが危ない目にあったら、助けたいな」
「は?」
「わたしも最初は、ユニバスくんとふたりっきりで旅してたの。すごく最高で、ずっとこのままふたりでいたいって思ってた。……でも、イズミちゃんがいっしょになってからは、イズミちゃんもいなくちゃイヤだって思うようになって……。そしていまは、ガミメスちゃんもいっしょじゃなきゃイヤになっちゃった。だから、わたしは助けるよ」
「ウソばっかり」
「ウソじゃないよ。だって、ユニバスくんのためだもん。最初からずっとふたりきりならともかく、途中から誰かがいなくなって、ふたりきりになるなんて……。そんなの、ユニバスくんは喜ばないと思うから」
「……」
ガミメスは、めずらしく言い返さなかった。
「それに言ったでしょ、わたしはガミメスちゃんのことが好きだって。だからガミメスちゃんが危ない目にあってたら、絶対に助ける。……それも、全力で! 約束するよ!」
言っているうちに気分が昂ぶってきたのか、ティフォンは鼻息も荒く、ガミメスの手を握ろうとする。だが、ガミメスはその手をパシッとはたき落とした。
「ざぁこ。あたしは、助けなんかいらない」
そう言い捨てると、ガミメスは話を打ち切るように背を向け、シャワールームを出ていく。
「そうやって、ひとりで仲良しこよししてればいいじゃん。……バッカみたい!」
















