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社会人に。


それからというもの…


デート


「百子、もう17時。帰ろう。」


「はっ!?」


「時間には余裕を持って。17時50分には帰りつけるように。10分前行動を心がけよう。」


「はあー!?」


いやいやいや…直くんったら…


……直くんは真面目で…律儀…



それ、こんな所で発揮する!!??






✽✽✽



「パパ!!直くんが手繋いでくれない!!デートも10分前行動って…直くんは私がびっくりするくらい超真面目でジェントルマンなんだから!!もう!殆ど一緒にいられないじゃない!パパのバカ!!」


家に帰って直談判。パパは野球中継を見ながらダイニングテーブルに座って晩ご飯を待っている。


「百子、明日は入社式だな。忘れ物はないか?準備は出来てるか?」


「パパ!話をすり替えないで!」


私は怒っているのよ!


「挨拶は肝心だぞ。よし、パパと今から挨拶の練習をしよう!」


「パパ!」


「百子、ママに良い提案があるわ。今度から直くんと会うとき、直くんを家まで連れてきたらいいのよ。」


ママが料理を運びながら言う。


「いつも送ってくれてるよ?」


直くんは紳士。マンションの下までいつも私を送ってくれる。


「18時までに家に帰り付けばいいんだから、直くんと一緒に帰って来て、家で一緒に晩御飯を食べたらいいわ。」


「おい!なんだそれは!」


パパが間に入る。私の耳には入らない。


そっか…そっかー。


「ありがとうママ!!直くんに聞いてみる!」


明日は入社式!社会人、頑張ろう!





✽✽✽



「直くんももう社会人かー。大きくなったなぁ。」


明日の入社式を控え兄貴がしみじみと言う。


ずっと兄貴を支えたいと思ってた。ようやく、そのスタートラインに立つことが出来た。


そして、俺は兄貴の性格を見越して、釘を差す。


「会社で、絶対話しかけないようお願いします。」


あえて敬語だ。


「…なんで?」


今の〝間〟はなんだよ。普通疑問に思う事もないだろう。大体、経営者と新入社員は接点などないはずだ。


「社会人だから。」


「俺だったら〝お兄ちゃーん〟って言って手を振るけどな!」


…出た。


「俺は今、兄貴と話してるんだけど。」


弟の貴将が間に入ってきた。

話がウヤムヤになったらどうする。


「本当?じゃあ、お兄ちゃんも〝貴ちゃーん〟って言って手を振ろうか。」


この兄弟は気持ちが悪い。兄弟愛が異常だ。


「俺はしないから。兄貴もしないでね。」


…俺は至って一般的な感覚のはずだ。





✽✽✽


入社式当日


「この度はおめでとうございます。」


沢山いる新入社員の前で兄貴が挨拶する。

その姿を見て急に昨夜の事が恥ずかしくなった。


兄貴が家で見せる顔と今、職場で見た顔が全然違う。

堂々とした、――経営者の顔だ。


家と会社の線引きが出来ていないのは俺の方だ。

会社での兄貴は、住む世界の違う遠い存在だった。


〝彼は立派な男だ〟

〝若いのにしっかりして、礼儀正しいし、頭も切れる。彼はとても有能だ。あの年であれだけの会社を動かしているんだからな〟


…今の俺には何もない。社会的地位も、信頼も。



百子のお父さんに認められたい。娘を任しても安心だと。



〝お兄さんは若くして働いて苦労してるのに、君はうちの百子をたぶらかして遊んでいたんだろう!?〟


その通りだ。


俺は足元にも及ばない。

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