付き合ってるから
「ただいま。」
繋いでいた手を離して、玄関の扉を開ける。
俺以上に緊張しているのは百子だ。
ここは男らしく。エスコートしなければ。
「直くん、おかえり。……あれ?ももちゃん?」
「こっ!こんにちは!!」
兄貴が出迎え、百子が挨拶する。
「こんにちは。ももちゃんどうぞ。上がって。」
兄貴が百子に家に上がるよう促す。
少し、驚いてたようだけど、兄貴はいつも通りだ。
「直くんの会わせたい人ってももちゃんだったんだ。」
…俺達の事知ってたのかな。
「…うん。」
なんだ。貴が告げ口したのかな。…貴の口は空気より軽いしな。
もう一度兄貴を見る。やっぱり兄貴の顔に動揺はない。
俺と百子が付き合ってたの、知ってたんだ。…なんだ。
「てっきり男の子だと思ってたから、意外だった。」
…は?兄貴何言ってんだ?
「直くんは男の子とだろうなと思ってたけど、そうだよね。ももちゃんは小学校の時から一緒で、よく直くんがお休みの日にも色々届けてくれてたし、そういう仲になるよね。」
…な、なんだ?俺は兄貴にゲイかホモになるかと思われてて、百子と長い付き合いだから交際に発展したと思われてるのか?
チラリ、と百子を見ると緊張と動揺と…好奇。うん、そんな顔をしている。
「二人は行き先は決めてるの?」
…は?兄貴はなんの話をしてるんだ?
「はい。ハワイかモルディブに。」
えっ!?百子、兄貴と話が通じてるのか!?なんで!
「…ハワイ?ロサンゼルスとかかと思った。」
ん?ロサンゼルス?
「ハワイに憧れがありまして…。」
あ、これ多分、このまま行くとコントになるやつだ。
「兄貴、何の話してんの?」
早々に切り上げないと。後で百子が悶える。
「え?夏休みの短期留学の話じゃないの?各国、二人以上の参加で申し込みが出来るから…。」
やっぱり…。チラリと百子を見ると、熟したトマトのように赤くなっていた。…かわいい。
それで、俺が同じ国に留学する人を紹介すると思ってた、と。だから〝男の子だと思った〟って訳だ。
これは明らかに俺の責任だ。アポ取った時にしっかり言えば良かった…。
赤くなって動揺してる百子に申し訳なく思う。
やはり罪悪感に襲われてしまった。
(後で謝ろう…)
「じゃあ、ももちゃんを紹介したい理由って?」
やっぱり、兄貴は知らなかった。そして貴は以外と口が硬かった。
兄貴は…気が利いて、何でもお見通しの癖に変な所で鈍感。
「俺達、付き合ってるから。…兄貴にも知ってて貰おうと思って。」
和室に百子を通してからとか、兄貴の前で正座してとか、色々と考えていた俺のシミュレーションはいつも意味を持たない。今回は廊下で歩きながら。俺は本当に格好がつかない。
「え?」
兄貴は心底驚いている。当然だろうな。知らなかったなら。
「えっ!?」
…そんなに驚かなくても。