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利用して


――俺、百子と別れる気無いから。


私を抱きしめて直くんが言う…




直くんは律儀で、真面目。分かってる。


(分かってるよ。…直くんが今日待っててくれた。だから、分かってる。)


別れ話じゃない事は充分、伝わってる。



直くんは嘘をつかない。



私を待ってて、


“彼女です”って言ってくれて、


抱きしめてくれて、


絞り出すように私の名前を呼んでくれて…




「う〜。」


喋りたいのに泣いてしまう。直くんが自分を責めるのに。


また謝らせた。…私が直くんを責めてる。


「兄貴には…ちゃんと言うから、俺達のこと。

それと、百子のお母さんの事。知ってるなら彼氏としてもっとちゃんと挨拶したかっただけなんだ。

百子のお母さんに気に入られたいって

…俺の器の小ささが百子を傷つけた。…ごめん。」


直くんはお兄さんの事とママの事で私が怒ってるって思ってる。



違う、


違うよ。




私が…




「――私が、直くんを…利用した。」


ようやく、喋る。涙声で声がおかしい。


「直くんが好きなのに…」


そう、原点はこれだ。


直くんが好き。


それなのに周りに認めて貰えなくてモヤモヤして、直くんを利用して一緒に帰って、お兄さんにも言えない。ママにも言ったらダメだったって…




“直くんの彼女”という自信が傷ついたんだ。




ずっと片思いだった。直くんにフラれた事もある。


だから私は自信が無い。


直くんがいくら私を思ってくれていても…


簡単に不安になる。


直くんは私の事、大事にしてくれてる。


大切にしてくれてる。好きでいてくれてる。


分かってるのに…


私は弱い。だから人から少し言われただけで簡単に揺らぐ。



その自信を満たすために、一番大切な直くんを利用した…







「百子が…俺の事好きでいてくれるなら、いくらでも利用していいよ。」


(………へ?)


びっくりして涙も引っ込んで、思わず直くんの顔を振り向いて見る。


(――あ…。)


直くんがものすごく切ない顔してて、こんな顔してるの見たことなくて…


なんだか、胸がギュッとして、切ない。


直くんにこんな顔させてるの、私だ。


「…いっぱい泣かせて…ごめんな。」


ほら、やっぱり直くんは自分を責めてる。


「直くん、私に愛想つかしてない?」


恐る恐る尋ねる。好きな人を利用したんだよ?


「…それはこっちのセリフだろ。」


直くんが私の涙を指で拭ってくれる。


「直くん利用して、怒って、連絡無視した。てっきりもう愛想つかされたかと…」


言って、思い出して、悲しくなる。


「だって私可愛くない〜。」


うっ…うわーん。また涙がでちゃう…


「直くんと釣り合わないし〜」


うえーん。誰が見てもお似合いのカップルになりたいのに。


結局また泣き出してしまった。しかも豪快に。


子供のようにワンワンと泣く私は面倒くさい女だ。


「うっ、うっ、三重野くんと付き合った方が良かったんだー」


そしたら、釣り合いも取れたかもしれない。


直くんもこんな腹黒女に振り回されなくて済んだ。


私が、直くんを好きにならなかったら…


あー。もう駄目だ。止まらない。前よりもっとひどい。


自分を責めてる直くんに私、最低だ。

元はお兄さんの事でもママの事でも何でもない。



私の八つ当たりと、自己顕示欲だ。





「…なんで三重野が出てくるの?」


(…。)


あ…。




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