直くん、弱音言って。
「直くん、弱音言って。さぁ、どうぞ。」
いつも唐突な彼女がまたしても唐突な事を言う。
今回もまた、意図がみえない。
「無いよ。」
いきなり弱音を言えと言われて言うものなんだろうか。
「弱みじゃないよ。弱音だよ?」
いや、分かってるって。
「今回は急に何?」
毎回振り回されていては身が持たない。早々に意図を聞き出すのが得策だ。
「直くんが、私に弱音を言って欲しい。」
俺としては、そう思った経緯を知りたかったのだが…
「例えば?」
例を出してもらえば意図が分かるかも知れない。
「うーん。“寂しいー”とか、“悲しいー”とか?」
「…。」
何か俺の弱みを握りたいんだろうか…
いや、弱みじゃなくて弱音か。
「無い。」
すぐに思いつくものでも無いし、彼女に弱音など言えない。
どちらかと言えば、頼りにされたい。格好良くいたい。
「えっ!!無いの!?」
そんなにびっくりしなくても…
「何かあるでしょ?一つくらい。ほら、絞り出して。」
考えて、絞り出すような答えは弱音とは言わないのでは…
弱音…弱音……こうして彼女に言われるまま本当に絞り出そうと考える自分はもはや末期だ。
「無い。」
できる限り答えてあげたかったが、“寂しい”や“悲しい”といった感情は今の俺にはない。
…それは百子がいるからで。…考えたら恥ずかしくなるが。
「無いのかー…。」
がっかりする彼女に申し訳なく思う。
「…私は直くんの女神になりたいのに…。」
「!」
ボソッと、とんでもない事を彼女は言う。慌てて咳き込む所だった…
何でこう、いつも想像出来ない事を彼女は言えるんだろう。
「…何で急に女神?」
取り敢えず、聞いておこう。聞かなかった事にするのは失礼だ。
恥ずかしいけど。
「思い出したの。直くんが私に弱音が言えるような存在になるって。」
「?…はあ。」
「何でも言い合える関係になりたかったの…。」
ああ、なるほど。意図はこれか。
これをいつも一番先に聞けると分かりやすいのに…。
「俺も、そう思ってるよ。」
俺も、彼女が抱えることなく何でも言える、そんな存在になりたいと願ってる。
「本当に?」
疑うように下から俺を見上げる彼女がかわいい。
もう既になってる。―俺の女神に。
………恥ずかしくって、絶っっっ対言えそうにない。




