直くんの懺悔
「直くん、私、回数間違ってた。」
いつも唐突な彼女がまたしても唐突に言う。
「何の?」
「告白!私、直くんに好き好き言いすぎて、何回だったか数えてない!」
「!そんな大声で言わなくても。」
「…小、中、高で三回かと思ってたけど、高校に入って何回か言った。」
「うん、覚えてるけど…」
今更どうしろと?
「何回か覚えてるの!?」
―しまった。何回か好きと言われた事は覚えてるが、回数までは覚えていない。
しかし、目の前の彼女は俺が全て覚えてると勘違いして、期待に満ちた目を向けている…
…どうしよう。
「…回数は数えてない。」
嘘はつけない。ここは正直に言うしかない。…怒るだろうか。
「そっかー。」
明らかに落ち込んでいる。…俺はとんでもない事を仕出かした気分だ。
なんとかして、彼女の気持ちを浮上させてあげたい。
「ごめん。そんなに回数を気にしてると思わなくて…」
結局どうしたら彼女の気持ちが浮上するか分からなくて謝るしか出来ない。情けない。
「ううん。何回言ったか数えたかった訳じゃないの。只、告白って沢山すると重みがなくなるって聞いて…」
「?うん。」
「直くん鬱陶しいって思った時もあったかなって思って…」
罰ゲームって思ってたし。と彼女が呟き、落ち込んでいる。
…本当に悪い事をしたなと思ってる。今だに思い返すほど彼女の心に傷を付けた。
「ッ!ごめん直くん!忘れて!」
思い出したかのように急に彼女が叫ぶ。
「過去の事、何回も言ってごめん!直くんに受け入れて貰えたのに、更に謝らせて!グチグチ言ってごめんなさい…」
本格的に落ち込ませてしまった。
彼女はいつもこうだ。ふと思い出して口にするけど、言って後悔する。
―そして謝る。
「謝らなくていいから。」
「でも…。」
「心の中でモヤモヤした気持ちを抱えるくらいなら言ってほしい。昔の事とか今更どうする事も出来ない事もあるけど、その…百子にとって何でも言える存在になりたいと思ってるから。」
そう、どんな些細な事でも言ってほしい。
「鬱陶しいとか思った事は無いから…。」
結局、百子の質問の答えになっただろうか?
「―ありがとう。直くん。」
「いや…」
この後に、なんと言えばいいか。彼女が喜ぶ言葉を言ってあげたいのに、やっぱり少しも浮かばない…
「直くん、嬉しい。」
良かった。浮上したみたいだ。微笑んでいる彼女に安堵すると同時に愛しさがこみ上げる。
―彼女の話を聞くのは楽しい。
改めて俺を好きになってくれた事に感謝する。
何回も告白してくれて…過去に戻れるなら噛み締めて告白を聞きたい。―今度はちゃんと数えて覚えておくから…