第二十七話 ダンジョンに潜ってみる
時はあれから数十分後。
場所は目的地であるダンジョン入り口。
「それにしても、あの人間の話はやたらと長くて、退屈だったのじゃ!」
と、言ってくるのはシャロンである。
彼女が言っているあの人間とは、ギルドのお姉さんの事に違いない。
ギルドのお姉さんは、あれからもずっとアッシュ達に注意喚起をしてきた。
しかもそれだけでなく、露骨にクエストに行かせないよう引き留めていた。
「…………」
アッシュはそんなお姉さんの顔を思い出しつつ、シャロンへと言う。
「まぁ、あの人は俺達の事を心配してくれてたんだよ」
「心配? 我の事を心配? くははははははははははっ!」
と、シャロンは自信に満ちた表情で言ってくる。
「我を心配するなど論外なのじゃ! この程度のクエスト、我だけでも頑張ればなんとかなるところ、今回はアッシュもいるのじゃ! 心配する要素などないのじゃ!」
「確かに戦力評価を正しく出来る俺達からしたら、その通りかもしれないんだけどさ。あのお姉さんからしてみれば、初心者冒険者とちょっと特殊な上級冒険者だ」
「初心者冒険者と上級冒険者……つまり、どういうことなのじゃ?」
「つまり、あくまで俺達は冒険者二人組って事。超超高難易度クエストの必要人数を満たしていないから、不安なんだよ――あの二人は死んじゃうかもしれないって」
それでもお姉さんが最終的に行かせてくれたのは、アッシュとシャロンが譲る気がなさそうだったのと――。
(多分、シャロンは腐っても上級冒険者で同時に一国の主だから、危険だったら冷静な判断で退いてくれる。そんな期待をしているからだろうな)
その場合、アッシュに全く期待されていないのが悲しい。
だが、お姉さんからしてみれば、彼の実績はないに等しいので、仕方ない事だ。
お姉さんを見返すような実績など、これから作ればいいのだ。
というか、今日ここで作ればいい――暗黒騎士ゾンビを二人だけで倒し、アッシュも一気に上級冒険者の仲間入りをすればいいのだ。
「ふんっ! 人間の心配性は全く理解できないのじゃ!」
と、そんな事を考えるアッシュに言ってくるのはシャロンである。
彼女は狐尻尾をふりふり更に続けて。
「どんなに心配されようと目的地は目の前、早く中に入るのじゃ!」
「おい、待てって! いくら自信があるからって、勝手な行動は控えろよ!」
アッシュはため息一つ、シャロンに続いてダンジョンに足を踏み入れるのだった。
●●●
場所は変わってダンジョン内。
現在、アッシュとシャロンは絶賛魔物と戦っていた。
「よっと!」
アッシュは手刀を振い、襲ってきた目前の魔物――人型の樹木を両断。すぐさま方向転換し、背後に迫ってきていた巨大な蝙蝠へ、鋭い蹴りを繰り出す。
しかし、敵の数は一向に減らない。
先ほどからアッシュは戦いっぱなしである。
正直少し面倒くさい。
(スキル《変換》でステータスを底上げしてるから、どの敵も軽く蹴ったりするだけで倒せるんだけど……だからこそ、この量は面倒だというか)
場所が場所故、高威力の魔法で薙ぎ払う訳にも行かな。
見ればシャロンも同じように、面倒な様子で刀で一体一体対処している。
「いや、待て」
アッシュは戦いながらふと思う――これ、俺が戦わなくてもいいんじゃね?
というのも。
(スキル《変換》で自分のステータスを底上げしてたけど、もっと効率的な使い方があるだろ。例えば召喚獣だ――強力な召喚獣を複数召喚して、ダンジョンを踏破してもらう)
ややセコイかもしれないが、そうすればアッシュとシャロンはただ歩くだけでいい。厳密に言うのならば、トレジャーハントしながら進むだけでいい。
「……よし」
一瞬、ゲーマーとしてダンジョンを自分で攻略しない。そんな背徳感に迷うが、ここはリアルだと完全無視。
アッシュはすぐさまスキル《変換》を使いスキル《召喚》を自らに付与。
(召喚するのは最高位の人型召喚獣、白騎士と黒騎士だ。本当は幻獣クラスを呼びたいところだけど、ダンジョンでそんなの呼んだらとんでもないことになるからな。それに騎士たちも充分強い――なんせ、本来冒険者五人で一体を召喚する特殊召喚獣だからな)
アッシュは周囲の敵に打撃を入れ、消し飛ばすと同時シャロンへと言う。
「今から召喚獣を召喚する! 数秒だけ時間を稼いでくれ!」
「召喚獣……よかろう、我に任せろなのじゃ!」
直後、アッシュは再び迫って来る新たな敵を無視。
彼は床に膝をつき、床に手を伸ばす。
そして、召喚に必要な魔力をスキル《変換》で作り出したのち――。
「スキル《召喚》!」
アッシュは心の中で白と黒の騎士をイメージしながら、そう叫ぶのだった。




