第二十六話 伝説の始まり
「さて、超超高難易度クエストを受けるとしても、どれが一番いいかな」
アッシュの視線の先にあるのはクエスト掲示板――そこにある無数のクエストの数々である。
その光景そのものはゲームで見慣れている。
だが。
(クエスト内容も全部一緒ってわけじゃないのか。やっぱり差異は結構あるみたいだな)
アッシュはそんな事を考えながら、一枚のクエスト用紙へと手を伸ばす。
そこに書かれているのは――。
●ダンジョンに潜む暗黒騎士ゾンビの討伐
見た限り報酬もかなりいい。
しかも、目的地はここから遠くないので、立地的にもいいといえる。
「にしても、だいぶ古ぼけたクエスト受注用紙だな」
「あぁ、そのクエストは色々と問題があるからの」
と、クエスト掲示板から用紙をペリっと剥がすシャロン。
彼女はそれを見つめながら、アッシュへと言ってくる。
「超高難易度クエストは百人規模で受けるのが必須。しかし、このクエストの目的地は見ての通り――」
「なるほど、ダンジョンの中か」
「うむ。ダンジョンの中は狭いのじゃ。つまり、数の優位がまるで生かせないどころか、数が多い事による弊害も多くなってしまうのじゃ」
暗黒騎士ゾンビ。
アッシュの記憶が正しければ、そいつはゲームにおいてエンドコンテンツ――レイドイベント『バベルの塔』におけるフロアマスターだった。
暗黒騎士ゾンビはその名の通り騎士――故に、近距離がとてつもなく強いのは当然なのだが、真に気をつけるべきはそこではなかった。
(斬撃を飛ばしてくるっていう特殊スキル持ってるんだよな。しかも、かなりの広範囲攻撃。ゲームの時はワンフロア丸々使えたから、避けるのも容易だったけど……)
ダンジョン内でそんな範囲攻撃やられたら、確実に避けられない。
(そりゃあ、そんなクエスト誰も受けないよな。高威力の疑似必中攻撃撃って来る奴とか、どんなに報酬が多くても嫌すぎる)
と、アッシュがそんな事を考えていると。
「で、どうするのじゃ?」
シャロンである。
彼女はクエスト用紙をひらひらと振りながら。
「このクエストは見た限り、この掲示板にある中でもっとも報酬がいいのじゃ。だがそれは同時に危険という事でもあるのじゃ――ここに書いてある通り、多くの冒険者を殺してきた魔物みたいじゃからの」
要するに、シャロンはこう聞きたいに違いない。
報酬がいい、立地もいい。だが、危険だから他のを探すか。と。
そんなもの、アッシュの答は決まっている。
●●●
「えっと……本当にこれを受けるんですか? アッシュさんと、シャロンちゃんのお二人で? 他に仲間がいるとかではなく?」
と、言ってくるのはクエストカウンターに居たお姉さんである。
彼女はアッシュが例のクエスト用紙を渡し、「シャロンと二人で受ける」と言ったところ、この調子で――。
「シャロンちゃんはともかく、アッシュさんは絶対に無理ですよ! アッシュさんはまだ、駆け出し冒険者、それも何の実績もないんですよ!? この前も初心者用クエストに失敗したばかりですし!」
「大丈夫ですって、勝算はちゃんとありますから」
「そう言ってこのクエストを受けて、最終的に帰ってきた人達はいないんです! しかもその人達は、しっかりとした準備を整えてました――つまり、適正人数を集めていたんです! それを二人でって――」
「わかってますよ、シャロンからも聞きましたし、相手の力も把握してます。俺も死にたくはないんで、確信がなかったら言ってないですよ」
「うぅ……でも」
と、お姉さんはそれから悩みまくるのだが。
「くふふっ、安心するのじゃ人間! 我等がこの魔物を人界から排除してやるのじゃ! それにじゃ……我の記憶が間違っていなければ、冒険者がクエストを受けようとするのを止める権利――そんな物をおぬしらは持っていなかったはずだがの」
などと言うシャロン。
お姉さんにとってはそれが決めてだったに違いない。
彼女は「うっ……そ、それは……」と苦そうな顔して言ってくるのだった。
「はぁ、わかりました……けど、絶対に死なないでくださいよ」




