第二十五話の二
超超高難易度クエスト。
推奨攻略人数は百人であるが、それはあくまで攻略するのに必要な最低人数である。
ゲームにおいてそのクエストのマックス受注人数は推奨の倍――すなわち二百人。
実際、安定してそのクエストをクリアするならば、そのくらいの人数が必要になるのである。
要するのにこの超超高難易度クエスト。
レイドである。
「あったな」
「あったのじゃ」
そして現在、アッシュとシャロンはギルドのクエスト掲示板の前へと来ていた。
目的は当然、超超高難易度クエストを二人だけで受けるためである。
アッシュとシャロンが話し合って導き出した、大金を稼げる方法。それがこの超超高難易度クエストを、二人だけで受ける事になった理由……それはとても簡単な事だ。
本来、レイド系のクエストは参加者全員に討伐報酬が公平に分配される。その後、それぞれ活躍に応じてボーナス報酬がつくのだ。
アッシュとシャロンが狙ったのは、前者――討伐報酬だ。
例えばレイドクエストを二百人で受ければ、報酬は当然二百分割されてしまう。
けれど、二人で受ければ二分割されるだけ。
「そうすればかなりの報酬が見込める」
「けれど、超超高難易度クエストはその名の通り、かなりの難易度なのじゃ。当然危険が付いて回る……それでもおぬしは二人でやるのか?」
と、言ってくるシャロン。
アッシュはそんな彼女へと言う。
「あたりまえだ。俺とシャロンなら、二人だけでも絶対にクエストをクリアできる。それより、シャロンこそ本当にいいのか?」
「いい、とはいったい何の事を言っているのじゃ?」
「いやほら、俺とシャロンの戦力はかなり整っているとはいえ、敵はかなり強くて危険な事には変わらない。つまり――」
「ほう、我がたかが野生の魔物に負けるのではと……おぬしはそう心配しているのじゃな?」
シャロンは「くくくっ」と笑みを浮かべ、言葉を続けてくる。
「論外なのじゃ! 我は全ての魔物の頂点……魔王! 例えどんなに強い魔物でも、一人で確実に勝てるのじゃ――まぁその場合、多少は苦戦するかもしれないがの。それにこのクエスト、我にも受ける理由があるのじゃ!」
「受ける理由?」
「うむ! 超超高難易度クエストは知っての通り、二百人ほどで受けるのが普通。それをたった二人――それもうち一人は駆け出し冒険者のおぬしじゃ! 世間はどう反応すると思う?」
「世間の反応……」
優秀な冒険者と認められているシャロン。
無名な駆けだし冒険者のアッシュ。
そんな二人だけで超超高難易度クエストをクリアしたとする。そうなれば、当然世間はシャロンが活躍したと考えるに違いない。
つまり。
「なるほど、お前の目標である英雄に近づくってわけか」
「その通りなのじゃ!」
と、シャロンは狐尻尾をふりふり、狐耳をピコピコ。とても自慢げな様子で言ってくる。
「我は人々に認められ英雄に、そこからさらにのし上がり、一国の王に! そうして我は人界を征服するのじゃ……くふ、くふふっ、くははははははははははっ!」
「…………」
「どうしたのじゃアッシュ? 我が恐ろしいか? 恐ろしくて声が出せないのか?」
(いや……呆れてるんだよ。冒険者ギルドでそういう事を、大声で叫ぶなよ。っていうか――)
と、アッシュは未だ笑っているシャロンを放置。そのまま冒険者ギルドの中を見回す。
すると。
「シャロンちゃんみたいな子が魔王でよかったわね。冒険者ギルド本部も、シャロンちゃんとは良好な関係を築く気まんまんみたいだし」
「あぁ、本当。ああいうガキが魔王なら、人界も安泰だろ!」
「わかるわかる。それにシャロンは何だかんだ優しいし、可愛らしいしな!」
以上、受付のお姉さん及び、冒険者達の会話である。
そう。
要するに、シャロンの正体はすでにばれているのだ――それも、アッシュがシャロンの正体を知る遥か前からばれているのだ。
その事に気が付いていないのは、シャロンだけである。
この調子では、人界を掌握するのにあと何年かかる事やら。
「うっ……可哀想な子」
「え、なにがじゃ!? 何が可哀想なのじゃ?」
アッシュはそんなシャロンを見ながら、一人泣くのだった。




