第十八話 ティオは狐と戦ってみる
時はあれから数分後。
場所はティオ、エリス家の庭。
「くくくっ……」
と、不敵な様子なのは、現在ティオと向き合い立っているシャロンである。
彼女は同じ調子でさらに続けてくる。
「我からの勝負を逃げずに受けるとは、本当に面白い人間なのじゃ」
「逃げるわけには行きませんよ……私は……私はアッシュさんが好きですから」
「我にアッシュを取られまいと、その一心という事か。くくくっ……これは歴代魔王が倒された『愛の力』というやつが見れるかもしれないのじゃ」
「?」
「いや、こちらの話なのじゃ」
と、話を打ち切って来るシャロン。
もっとも、ティオとしてはそんな事をされなくても、一々話につっこむ余裕などない。
なんせ。
(勝負は受けましたけど……シャロンは上級冒険者、どう考えても私より強いです)
こうして向かい合っているだけでわかる。
シャロンから感じる圧倒的魔力。
この敵には決して勝てない――そんな魔法使いとしての直感、本能。
シャロンは何かがおかしい。
向かいあい、睨み付けられると、その場で跪きたくなる圧の様なものを感じるのだ。
(でも、負けられません……アッシュさんを失わないために、絶対に負けることはできません)
けれど、どうすればいい。
このままで純粋に勝負したのでは、ティオの負けは確実。
と、彼女がそこまで考えたその時。
「さて、我としては全力と全力をぶつけあうのも、とても楽しくていいと思うのじゃが……ここは民家建ち並ぶ地。そして、今の我は正義の上級冒険者なのじゃ」
シャロンは意味深な言葉を呟き、さらに言ってくる。
「周囲に被害が出ないようにこの勝負、ルールを設けるのじゃ」
「ルール……ですか?」
願ってもないことだ。
単純な戦闘ではないのなら、ティオにもまだ勝機はある。
となると、問題はそのルール。
ティオが聞き逃すまいとシャロンの言葉に耳を澄ますと、彼女は言ってくる。
「こうして互いに距離を空け向かいあっていることじゃし、うむ。そうじゃな……武装解除魔法の早撃ちというのはどうじゃ?」
「武装解除魔法の早撃ち……」
「うむ。つまり、この場から一歩も動かず、合図とともに魔法を撃ちあい――」
「先に相手の装備を解いた方が勝ちと言う事……ですか」
「その通りなのじゃ! もっとも、互いの魔法が同時に放たれぶつかり合った場合は、単純な魔力量の勝負になるが……まぁ、そうなった場合は多少手を抜いて――」
「いえ、そうなった場合でも手加減はいりません……おまえの全力に、実力で勝って見せます」
「ほーう……」
シャロンは笑っている。
ティオはあの笑みを知っている――強者が自らの勝ちを確信している時の笑み。弱者を見下す時の笑みだ。
つまり、ティオがよくエリスにしている笑みだ。
(これは……されるとイラっとしますね、屈辱です。シャロン……おまえはお遊びのつもりなんでしょうけど、私は本気です。本気でおまえを倒してアッシュさんを――)
「おもしろい、面白いのじゃ人間! ではこのルールで勝負を受けると、そういうことでいいのじゃな?」
と、言ってくるシャロンに対する返答は当然。
「受けます……そのルールで、おまえを倒して見せます」
「くくくっ……よかろうなのじゃ。では、おぬしが人間の持つ力――愛の力とやらを、我に見せてくれるのを期待しているのじゃ」
と、またも邪悪な笑みを浮かべるシャロン。
ティオはそれを見て、再び心に火をつけるのだった。
(アッシュさんは……私が守ります)




