第十八話の二
「では、これよりゲームを始めるのじゃ! ルールは簡単――このコインを宙に投げ、落ちたと同時に互いに魔法を放つ。相手の武装を先に解除した方が勝ちなのじゃ!」
と、尻尾をふりふり言ってくるシャロン。
(ゲーム……勝負ではなくゲームですか)
シャロンは意識していないに違いないが、確実に舐められている。
ティオにとっては勝負でも、シャロンにとってはただのゲーム――要するにお遊びなのだから。
(それでも勝って見せます……油断するならしていればいい。私は絶対にアッシュさんを守る……ただそれだけです)
ティオはそんな事を考え、杖を握りしめる。
武装解除魔法は学生が習う初期の初期魔法。
だいたいの者ならば「無力化せよ」などの、極短い詠唱で発動が可能だ――必要なのは魔力と、相手の武装を取り上げる明確なイメージ。
「くくくっ……では、そろそろいくのじゃ」
と、シャロンは天高くコインを弾く。
その直後。
「…………」
ティオは極限の集中をする。
意識するのはコインと自身のみ。
心を乱す存在は完全に視界から消え失せる。
(相手より早く、ただ早く魔法を撃ちこむ……ただそれだけに意識を)
魔法のぶつかり合いになれば、シャロンには確実に勝てない。
力で勝てない以上、速さで勝負するのは当然の事。
「っ……!」
そしてついに、その時が来る。
ティオの中で魔力が練りあがり、イメージが定まったのだ。
ティオはここに来てようやくシャロンを見――。
「弾け……っ!」
武装を弾き落とせ。
そんな意味を込めた詠唱をする。
すると、同時放たれるのは武装解除魔法。
(この勝負、もらいました……!)
ティオの中で、自らの放ったそれは最高の出来であり、最速だった。
しかし、彼女はその確信の中で見てしまう。
「くくくっ……」
と、武器を構える事無く余裕といった表情のシャロンを。
(いったいどういう……)
まさかシャロンは勝負などする気がなかったのか。
ティオを煽り、一人本気で勝負しようとしているのを、内心笑っていただけなのか。
ティオはそんな事を考えるが、それはすぐに違うとわかる。
なぜならば。
「我はな、人間……絶望が好きなのじゃ。喜びから反転するその直後の感情、表情がとても好きなのじゃ」
シャロンはそう言った直後、急に動き始めたのだ。
「圧倒的な力の差というものを、おぬしに見せてやるのじゃ」
と、シャロンは腰をやや下ろす独特な態勢を取り、片手を腰の刀へと回す。
そこからの行動はティオには目視できなかった。
ティオに理解できたのは二つだけ。
シャロンがいつの間にか刀を抜いた事。
それと同時に武装解除魔法が放たれていた事。
(早い……っ! これは、無詠唱魔法? しかもこの速さ、これは――)
間違いない。
シャロンは刀に魔力を纏わせ、腕力により押し出すように魔法を放ったのだ。
(魔法の推進力には本来、魔力以外では干渉できない……なのにそこに腕力を使う?)
ありえない。
どれだけ繊細な技を使おうと、どれだけ知識があろうと、絶対に出来ない芸当だ。
もしもそれが出来るとしたら、人の知識が及ばない領域に住まう――。
と、ティオの思考はそこで強引に打ち消される。
「っ……!」
ティオの持つ杖に、凄まじい負荷がかかったからである。
理由は簡単。
(陰湿ですね、シャロン……私より後に魔法を放ったのはこのためですか)
シャロンが放った魔法は、寸分たがわずティオの魔法にぶつけられていたのだ。
つまり、今二つの魔法はせめぎ合いを続けている――それ故、ティオの杖にフィードバックが来ているのだ。
一番避けたかった展開だが、こうなればやるしかない。
相手の技量に見惚れるのは後だ。
「……!」
ティオは改めて杖へと魔力を込める。
魔法と魔法の押し合いに勝利するために。




