冷却水を楽しむ機械人間と、大義名分を得た銀河帝国の宇宙港侵攻
「陛下に挨拶しようとするのは殊勝であるが、直接会おうとするのは不遜であるな」
俺は画面越しに会話を聞いている。
この星系を中心に名声を持つ『多種族の会』の代表を相手にしているのに、リゼの上から目線の態度が『とても自然なこと』に感じられる。
こうして見ると、リゼは本当に『騎士』で『姫』だな。
「リゼさんって本当に肉人間です? 遺伝子と素材のレベルから強化された人間だったりしません?」
本人に聞かれたら耐久『なでなで』が確定する暴言を吐いているのはギョーショーだ。
普段はリゼが座っているガンナー用の席に座って、何かを『もちもち』と食べている。
「……いやちょっと待て。お前、食事が必要だったのか?」
「冷却水です! 食感を楽しめる形に加工して摂取するのが、契約国連合の機械人間の文化なんです!」
饅頭にしか見えない『冷却水』を食べ終えたギョーショーは、今度はスティック上のクッキーにしか見えないものを取り出し『カリカリ』食べ始める。
「水?」
「はい! 肉人間さんは食べちゃ駄目ですよ。肉人間さんが食べても問題ない『冷却水』は高級品ですから僕じゃ買えません!」
「そもそもそんな『冷却水』、この銀河で売ってないと思うぞ。星間国家の研究所あたりならあるかもしれんが」
俺たちが雑談している間にリゼと『多種族の会』の交渉あるいは雑談は終わったようだ。
リゼは『ジャバウォック銀河帝国』の高官として『多種族の会』の存在を認知することを公言し、『多種族の会』は『ジャバウォック銀河帝国』の領域でも真っ当な団体として活動することを約束した、って感じか?
「うーん、リゼさん本人は性能が高いだけの肉人間にしか見えないのに、頑丈さも迫力も中央評議会にいる謎生物っぽいんですよねー」
スナック感覚で『冷却水』を消費していたギョーショーの指が何もない空間を通過する。
『冷却水』を食べ尽くしてしまったのだ。
「じー」
「買おうとしても買えないからな」
「そこは『俺が開発して作ってやる』とか言ってくださいよー。甲斐性見せないとマスターにはなれませんよ!」
「お前、自分自身を人間だと主張してるのにご主人様が必要なのか?」
「分かってませんね! マスターというのは……」
機嫌よく続けようとしたギョーショーを、いつの間にか戻ってきたリゼが抱き上げる。
そして、ガンナー席に座ってから自分の膝にギョーショーを座らせる。
丁度よい、おさまり具合だった。
「うまいことやったじゃないか。あれなら『多種族の会』は敵にまわらないだろう?」
「すまぬ。こちらが『多種族の会』の正体に気付いたことに気づかれたかもしれぬ」
リゼの肩から光の翼が少しだけ出ていて『しょぼん』としていた。
ギョーショーは何故か光の翼に反応しない。
こいつ、珍しく気を利かせて気付いていないふりをしているんだろうか。
それとも、機械人間には見えないのか?
「気にするな。人類保護機構とは既に揉めている。その傘下とも揉めるのは避けられん」
「そのことですけど、あまりよくない情勢ですよ」
ギョーショーが勝手に『フリーキャッスル』内の設備を使う。
俺たちが停泊中(ギョーショーの大型輸送艦は近くに浮いている)の宇宙港内の勢力図が、室内で一番大きな画面に表示された。
「ごちゃごちゃしているな」
これが俺の感想で。
「案外単純なのだな」
こっちがリゼの感想だ。
「歴史が短いからでしょうねー。一度も絶滅していない銀河腕なんて、ごちゃごちゃしすぎてて自治権だけ与えられて放置されてましたよ。契約国連合に併合されることを望んだのにですよ!」
リゼを超える上から目線なのがギョーショーだ。
「別銀河の話は今は関係ない。問題は、俺たちと銀河帝国のどの程度関係あるかだ」
「なんだそんなことか。この程度、艦長が出る必要もない。私に任せておくがいい」
密かに尊敬していた組織の実体を知った俺は、俺の予想以上にショックを受けていた。
だからリゼの自信たっぷりな態度に、つい頷いてしまったんだ……。
☆
「銀河帝国陸戦隊の初の遠征だぁ! 陛下と我らの姫騎士さまに恥をかかすんじゃねーぞぉ!」
「「「うおぉぉぉっ!」」」
連絡を受け、民間船に乗ってここまでやってきた元海賊たち(現銀河帝国陸戦隊)が騒いでいる。
これって宣戦布告なしの侵略じゃないか?
「艦長が何を考えているかは分かるが、この星系に統一された政府は存在しない。あの小惑星は無主の惑星、ということになっている」
リゼは『フリーキャッスル』の中にはいない。
自分の足で『フリーキャッスル』の甲板を蹴って加速して、今では慣性飛行で小惑星へ接近中だ。
「やっぱりリゼさんは謎生物です!」
「お前、技術力がある銀河の出身なのに、発言が雑なときがあるな」
「分からないことを理解できるのはすごいことなんです!」
胸を張るギョーショーがいるのは『フリーキャッスル』ではなくギョーショーの大型輸送艦だ。
高性能な装甲に包まれた『船倉』は荷物でほぼ埋まっているが、残ったわずかな空間でも帝国陸戦隊全員を余裕をもって乗せられる。
「これより敵小惑星に着地する」
「姫さん、支援は必要か?」
「戦力的には不要だが人手は大量に必要だ。敵は弱いが要救助者の気配が多い」
リゼはヒートソードで外殻に穴を開け、穴を補修用の『瞬間接着剤』で塞いでから奥へ進む。
「リゼさんはハッキングもできるんですか!?」
「できない。あれは『感じて』いるだけらしい。五感で感じられるものかは知らないがな」
宇宙空間では慣性移動しかできないリゼも、床があるならどこまでも加速可能だ。
重力が弱いのも、酸素が薄いのも、何の障害にもならない。
民間の警備にしては重武装すぎる兵士を圧倒的な速度で置いてけぼりにして、リゼは小惑星に隠された基地の動力区画まで侵入する。
そして、基地の通信用コネクタに俺の通信機が接続される。
「艦長! 繋げたぞ!」
「よしきた!」
ARメガネに表示されたデータをもとに、俺は『民間にしては』固いセキュリティをこじ開けて酸素供給システムとエネルギー供給システムを掌握する。
そこまでやったところで敵の反撃が始まる。
「ほう。接近戦を忌避するとは、分かっているではないか」
リゼはレーザーを防ぐ『盾』を展開してから遮蔽物の陰に隠れる。
常識外に強い彼女も無敵ではない。
回避も移動も難しい場所で集中砲火を浴びれば、倒れはしなくても消耗はする。
俺たちの目的は賊の殲滅ではなく、賊に捕らわれた人々の救出だ。
このままでは、決して目的は果たせない。
この銀河の技術だけでは、な。
「じゃあそろそろ行きますねー!」
ギョーショーが大型輸送艦を発進させる。
その速度は、信じられないほどの短時間で光速の五割まで到達する。
この銀河では『片道飛行』を覚悟しない限り光速の一割が上限(ただし超光速機関使用時は除く)なので、まさに異次元の技術で速度だ。
「陛下ぁ! この輸送艦ぃ、本当に動くんですかぁ?」
人型機動兵器に乗り込み済みの帝国軍士官が質問してくる。
「気持ちは分かるが、実際に光速の半分に到達している。すぐに出番だ」
「到着しましたぁっ!」
全長で小惑星基地の三分の一はある大型輸送艦が、リゼが開けた穴の前で『ぴたり』と停止する。
とんでもない技術水準で、とんでもない操縦技術だ。
「あ、ずれた。跳躍機関が足りないからですねー」
「げぇっ、まさか星系内ワープしたんですかぁっ!?」
「いいから突入しろ。姫さんひとりじゃ要救助者の救助と敵の打倒の両方は無理だ。頭数が足りん」
「へへっ、任せてくだせぇ! 行くぞお前らぁ!」
「「「うおぉぉぉっ!」」」
人間、熊族、天使族、他にも多種多様な野郎どもと一部女性たちが、好戦的な叫びをあげながら『わらわら』と大型輸送艦から飛び出す。
三分の一くらいが小惑星にとりつくのに失敗して、大型輸送艦から伸びる小出力トラクタービームで回収されている。
「僕の船は戦闘用じゃないですからね! 今回は人命救助だから特別です!」
「感謝してるぜギョーショー。『多種族の会』の悪事をばらすって目的もあるが、それ以上にこんなのを放置するのは俺の趣味じゃなくてな!」
「うむ! そうでなくてはな、艦長!」
帝国海兵隊の突入に気をとられた兵士を、リゼが瞬く間に制圧する。
ヒートソードで切り捨てるのはリゼにとっては簡単だろうが、熱を止めて冷えた刀身で『軽く』打つことで気絶させる。
「げぇっ」
「ひどいことをしやがるっ」
「おいカメラ止めろ。こんなもん記録映像にも残すな!」
陸戦隊は少々揉めているようだ。
ほんの少し前は賊(一部は自称自警団)だったが今は正規軍だ。
『格好良さ』や『正しさ』に、無邪気な子供めいた憧れが存在した。
「ポーターさん。僕の船は機械人間の搭乗が前提の船ですから、肉人間用の医療設備は限られています」
「この星系の宇宙港まで、被害者の命をもたせられるか?」
「はい! それなら余裕です! 任せてください!」
ギョーショーは得意げに胸を張る。
「艦長、どうする」
リゼは好戦的に微笑み、俺に期待する目を向けてくる。
「この星系の宇宙港に全員で乗り込んで、病院やリハビリ施設として使える施設を占拠する。『多種族の会』の本拠とかは、特に向いていそうだな?」
その過程で『多種族の会』の悪事が全て(ただし被害者の個人情報は除く)明らかになるだろうが、やむを得ない被害って奴だ。
「行くぞ帝国軍! 凱旋だ!」
「「「おおーっ!!」」」
大義名分を物理的に得た『ジャバウォック銀河帝国』が、宇宙港に対して侵攻を開始した。




