入港拒否された機械人間と、姫騎士の眼力が暴く「慈善団体」の真っ黒な正体
「宇宙港が骨董品です!」
「初手侮辱はやめろ三頭身」
「ギョーショー、艦長、手続きの途中だ。静かにしろ」
俺たち三人は宇宙港の至近で足止めされていた。
『フリーキャッスル』には入港の許可が出たんだが、ギョーショーの大型輸送艦の入港が拒否されたからだ。
通信越しの宇宙港職員が、非常に困った顔で応対してくれている。
「接舷の規格もあわない艦に許可を出せるわけないでしょう。それになんなんです、機械が艦長って」
「機械人間差別はんたーい!」
ギョーショーの奴、自分自身は人形のふりをして人間の見た目のアバターでも使って通信で話せばいいのに、三頭身の体で行動することにこだわってやがる。
一般的な意味では頭は良く、情報処理能力はちょっとした高性能コンピュータ並『は』あるが、性格が独特すぎる。
「百歩譲ってあなたが人間と呼べるレベルの高度な機械だとしましょう。……そんな高性能機械、宇宙港ごとクラッキングされるかもしれないのに入港の許可出来るわけないじゃないですか」
宇宙港の職員は全力拒否の構えだ。
至極もっともなので俺も反論し辛い。
「そんなー。リゼさんもなんとか言ってくださいよー。一分間だけなら『なでなで』していいですから!」
「くっ……だが……艦長!」
『クッコロ』な追い詰められた表情で言われても、困る。
宇宙港職員は、リゼのあまりの美形っぷりかつ『姫騎士』っぷりに興味と動揺を隠せていない。
「何度も言うが、俺は新興の星系国家の外交使節、実質は星系規模の交易船だ。市場へのアクセスを希望する」
「家畜を売るなんてカルチャーショックです! ひょっとして残虐ショーに出演させられちゃったり?」
ギョーショーはドン引きしている。
「人聞きの悪いことを言うな。眠らせている間に無痛で殺して精肉だ。……そうだよな?」
宇宙港職員に話を向けると、職員は困ったような曖昧な表情になる。
「特殊な趣味の持ち主がいる可能性はありますが、基本はそういう扱いです。ただ、野菜はともかく家畜は買い手がつかないと思います。大安売りするなら話は別でしょうが」
「俺たちの国と同じくらい田舎の星系だからな」
出没する宇宙海賊の数が(銀河帝国建国以前と比べてだが)少ない以外はほとんど差がない星系だ。
まあ、ここの星系の方が人口も産業も少し発展してるが。
「私から見ると発展はしていると思うぞ。環境は良くはないがな」
「姫さんの故郷と比べないでくれ。星間国家のリゾート惑星レベルだぞ、姫さんの故郷は」
遠い過去あるいは遠い惑星であることは口にしない。
ただでさえ目立つリゼがこれ以上目立つことになる。
絶対に面倒事が増えるからな。
「話が脱線してすまん。このデカブツをその辺に浮かべる許可をくれないか? 最低でも一人、中で待機させる」
「それなら許可は出せます。ようこそ当星系へ。実りある取り引きができるといいですね」
「お互いにな」
俺と宇宙港職員が通信越しに向かい合ったまま微笑む。
まず間違いなくただの職員ではなく一定以上の『お偉いさん』だ。
黒字なら最低限の成功、『ジャバウォック銀河帝国』へ参加するなら奇跡的大成功って奴だ。
「ギョーショー! お前の艦の修理用資材は足りるか? 足りないなら外付けの推進器を探してくるが」
俺はギョーショーに質問する。
「この銀河……んんっ、この付近で使えるお金を持っていないですからね。今ある資材でなんとかしてみます」
「ならば私も残ろう。船外活動には自信があるのだ」
「抱えるな! 撫でるな! 機械人間虐待はんたーい!」
ギョーショーの言葉はツンツンしているが、表情はとても明るかった。
☆
「高く売れるもんだな」
家畜の取り引きは成立しなかったが、それ以外は予想以上の値で売れた。
「生産地の保証付き、しかも量が量ですから。定期的な取り引きを望む声が大きすぎて抑えるのが一苦労ですよ」
宇宙港職員という肩書きも嘘ではない『お偉いさん』が、安堵の表情で言う。
もう隠す気もないな。
「いきなり銀河帝国加入を希望した奴もいるが、あれは本気か?」
「本気、でしょうね。しかし主流派でも有力派閥でもありません。今加入して『揉め事を持ち込んだ異分子』と見られるだけでしょう」
宇宙港職員は独り言じみた言い方をする。
詳しい話を求めてもいいんだが、確実にはぐらかされそうだ。
「次の便は俺の担当じゃないかもしれんが、そのときもしっかり対応してくれよ?」
「もちろんです。大口顧客は大事にしますとも」
今回の取り引きはかなりの大成功だった。
銀河帝国の主星系(唯一の星系)で朗報を待っている連中も大喜びするはずだ。
ただ、なんだろうなこの違和感は。
目の前の職員は『抜け目ないが信用はできる』相手だと感じる。
だがこの宇宙港全体が、妙に浮ついてやがる。
「今は大規模イベント開催中か? でかいホロ広告があちこちに見えるが」
職員は、困ったように微笑むだけで、何も答えてくれなかった。
☆
「戻ったぞー」
宇宙港に停泊中の『フリーキャッスル』に入っても、中には一人もいない。
とても寂しく感じてしまった俺は、数年間単独で行動していた少し前の俺とは別物じみて変わってしまったのかもしれない。
「お帰りなさいポーターさん!」
ギョーショーの奴には『フリーキャッスル』の権限は一切与えていないのに、俺の視界内にある画面にギョーショーの姿が映し出されている。
リゼが権限を渡したのか?
「取り引きどうでした? 駄目でした? 僕に任せてくれたらすごくうまくいったと思いますよ! 手数料はたったの三割!」
「三割とられたら利益なんてほとんど消えるだろ。こっちは順調だ。そっちの修理はどうだ」
ギョーショーの映像が停止した。
いや、これはギョーショー自身が固まってるのか。
「契約国連合外でも修理できる艦種なんですけどー、技術が-」
「そりゃ、一つの銀河まるごと勢力圏にしてる超大国とは違うだろ」
「いえ、技術水準にはそれほど差はないんです! せいぜい数十年分! でもですね、超光速移動の仕組みが別物すぎて僕の艦の修理に使えません!」
「そっちが数十年で進歩しすぎってオチか? しかし超光速機関が使えないなら星系間航行も実質不可能か」
大型輸送艦という、使いようによっては膨大な利益を生み出す艦も、星系内航行しかできないなら維持費だけが馬鹿高い不良債権と化す。
「ならばこの銀河の超光速機関で置き換えればどうだ。技術力に勝っているのであれば、その程度可能だろう?」
リゼの声が響く。
現在地は……ギョーショーの大型輸送艦の甲板というか表面か。
人類保護機構の遊撃艦隊に破壊された装甲を取り外す作業をしているらしい。
「それがですねー。試しにこの銀河の超光速機関を取り付けたら、僕の艦の動力がクラックされて緊急停止しました。あれ、なんなんです?」
「厳重な安全装置がついた超光速機関だ。ギョーショー。まさかと思うが、惑星破壊兵器とかを積んでいないよな?」
「積んでるわけないじゃないですか! そんなことしたら一発でパイロットライセンス取り上げですよ。契約国連合は建国から今まで、居住可能惑星を破壊されたことはあっても反撃以外で破壊したことはありません!」
短い手足を全力で使って抗議してくる。
目が激しく明滅しているのに、ギョーショー本人は気付いているのだろうか。
俺は『破壊したことはあるんじゃねーか。こっちの銀河では反撃でも論外な行動だよ』という言葉を飲み込んだ。
「ギョーショー。俺にはお前が嘘を言っているかどうかは分からない。だがそのセリフは詐欺師が言うセリフと同じだからな」
「ぐぬぬっ!」
短い手足では『じたんだ』がうまくできないようだ。
ギョーショーは、怒りを表現するダンスを高速で踊り始めた。
体のうねりと手足のキレのある動きが、荒々しくも美しい。
「うむ! ギョーショーは感情豊かだな! ところでギョーショー、融けた装甲が船の亀裂に入って固まっているときはどうすればいい」
「ぎゃー!? メインの跳躍機関が修理不可能になってるー!?」
これが演技か予めプログラムされた言動なら、契約国連合ってのは文化面でも恐ろしい国だと思う。
俺やリゼに自然に反応しながらの、人間より人間らしい言動だからな。
「む。艦長。客人のようだ。ギョーショー、悪いが修理の手伝いはここまでだ。私は『フリーキャッスル』へ戻る」
「ううう。僕のおふねー」
機械人間ってのは、幼児退行までするのもなのかもしれない。
☆
「俺が会う」
「止めておけ」
俺と姫さんの意見が真っ向からぶつかった。
大量に来ている面会希望の全てに応じるつもりはない。
しかし、慈善事業で長年実績がある団体には、通信ではなく直接会って敬意を示したい気持ちがあった。
「偽善が悪いとは言わぬ。欲や他の意図があったとしても、その偽善で助けられた者がいるなら間違いなく善行だ。だがな。人類保護機構を名乗る者たちと同じ種族(混血ぐあい)というのは、非常に怪しいぞ」
「……何?」
リゼの発言を理解し、納得するまで時間が必要だった。
このあたりの星系では数少ない良心と呼ばれていた連中が、本当に?
俺は無意識にARメガネに触れていた。
この宇宙港のデータベースを違法ぎりぎりのやり方で調べてみるが、俺には『苦労はしているが潔白』にしか見えない。
「ギョーショー。情報収集は可能か」
俺は本当にしぶしぶ、ギョーショーに助けを求める。
リゼがただの思い込みでこんなことを言うとは、どうしても思えなかったからだ。
「いーんですか? 機械人間の情報処理能力って肉人間と桁が違いますよ? まあ、中央のエリート肉人間さんには負けちゃうんですけど」
「グレーゾーンの手段までなら使っていい。超光速通信の履歴を中心にあたってくれ」
「はいはーい! 物理回路に直接繋げられるなら簡単ですよ簡単! ほーらこの通り! お小遣い期待してますよ!」
俺の目では追うのが不可能な速度で『どばっ』と情報が表示される。
リゼは明らかに目で追えているだけでなく理解しているようで、興味深そうに何度も頷いている。
「多種族の会。正式名称は多種族が共存共栄するために行動する者たちの会。設立は百年ほど前で、近年は人類至上主義の隆盛に対し言論で抗議する団体としての面も持つ、か」
「政治色はあるが真っ白じゃないか?」
「ポーターさん! 続き! 続きがあります!」
「うむ。複数の星系の複数の企業を介して人類保護機構の支援を受けているな。ここ数年は金銭だけでなく、人材、おそらく兵士も受け取っているようだ」
「……嘘だろ、おい」
俺は、面会を申し込んでいた『多種族の会』代表の映像を画面の端に表示させる。
長年の苦労を感じさせる老紳士の顔が、今では作り物にしか見えなくなっていた。




