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ワープに怯える姫騎士と、対艦レーザー12基を隠し持つ輸送艦

「「「皇帝陛下ばんざーい!」」」


「「「我らの姫騎士ばんざーい!」」」


 祝砲代わりにレーザーを乱射する銀河帝国軍(元宇宙海賊たち)に見送られ、輸送艦『フリーキャッスル』が出航する。

 商材を満載したコンテナを限界まで積んでいるので加速が鈍い。

 推進剤もたっぷりあるとはいえ、この状況で戦闘はしたくないな。


「可愛げがあるではないか」


 『姫騎士』リゼは見送りに満足そうだ。

 本人に隠すつもりがあるのかどうか分からないが、リゼは褒められるのが大好きだ。

 リゼの強さに魅せられて慕ってくる帝国軍兵士を、かなり熱心に鍛えていたみたいだしな。


「見込みのある奴はいたか?」


「……意欲は評価している」


 即断即決のリゼらしくない、歯の間にものが挟まったような言い方だ。

 兵士に見込みがない奴ばかりというのも問題だが、俺には他に気になることがあった。


「魔法はどうだ。あれはリゼしか使えないのか?」


「向き不向きはあるが、人間に限らず訓練をすれば使えるようになる力だ」


 リゼは断言する。

 ただ、リゼは圧倒的戦力を持っているのに、それを特別誇った様子はない。


「もっとも、これだけ技術が発達しているなら、魔法を学んで鍛えるより武器や艦の扱いを学んだ方がよかろう」


「姫さんみたいにレーザーを防げるようになるだけでも凄い力だぜ?」


「これはただの事実だが、私は魔力量は多いし魔力を直接操る才能もある。私を基準に考えても不毛だぞ」


「なるほどな。ってことは、姫さんに近い才能の持ち主がいれば、是非スカウトすべきか」


「うむ……。私と同等以上の才の持ち主は全員敵だったからな。ああ、騎士としての才能のことだぞ。文官や令嬢としての才能とは別だ。うむ。別なのだ」


 リゼの表情が暗くなる。

 石化される前は、あまり人生がうまくいっていなかったんじゃないかと思う。


「陛下ぁ! 連れて行って下さいよぉ!」


 まだ見送りは続いているが、地位がある奴は職権濫用して同行を頼み込んでくる奴もいる。

 最初にリゼに撃退された機動兵器パイロットもその一人だ。


「加速力が違うから『フリーキャッスル』単独の方が安全って言っただろう」


「百歩、いや一万歩譲って船は諦めますけどぉ、同乗させてくださぁい! 陛下と姫騎士様に護衛もなしってのはまずいでしょぉ!」


 こいつは煽っているのでなく、全身全霊の懇願をしているだけだ。

 それもそうかも、と思ってリゼに目で意見を求めると、困ったような顔でため息を吐かれた。


「おぬしたちの戦い方は地の利を重視する戦い方だ。訓練もなしで遠征に連れていけるわけがなかろう」


「俺たちの中に命を惜しむ奴はいませんぜぇ!」


「命の無駄遣いをするなと言っておるのだ。いずれ星間国家と戦うこともあろう。そのときに数が減って対抗できぬとなったら、それまでに死んだ仲間が浮かばれぬぞ」


「……な、納得しかできねぇですが、納得するわけにはいかんのですぅ!」


 リゼ個人に対する崇拝で、熱く燃えていた。



  ☆



「容赦ねえな」


 俺の声には非難が濃かったかもしれない。

 あの後、リゼは説明する気もなくして俺に「早く行くよう」に強く勧めたのだ。

 予定が遅れるのもまずいので俺は普通に『フリーキャッスル』を加速させたが、血涙を流しながら懇願する声は、数日間は夢に見そうだ。


「個々の部下の不満をいちいち聞いていては、戦争などできんぞ」


「戦争じゃなくて交易だぞ?」


「運ぶものを考えれば戦争よりも重要な交易だ。万一失えば銀河帝国の経営が破綻するほどにな」


「そりゃまあそうだが」


 ボード型輸送艦は特別大きな艦ではない。

 だからコンテナの数はそれほど多くはなく、しかし積み荷の価値はボード型輸送艦数隻分に匹敵する。


「ただの家畜や野菜にそれほどの価値があるとはな」


 リゼは納得していない顔だ。


「僻地の安い労働力で限界まで浄化した水で育てた家畜だ。星間国家の中心領域なら天井知らずだぜ」


 俺はいくらで売れるか考えて気分がよくなる。

 リゼは冷静な表情で懸念を口にする。


「高価な品は賊だけでなく通過する土地の領主にも狙われるものだ」


「分かっている。宇宙海賊が星系の有力者と繋がりがあるなんてのはよくあることだからな」


 俺はもう気楽な一人旅ではない。

 リゼもいるし、銀河帝国なんて夢に賭けた連中から巨大な出資を受けている。

 今運んでいる荷物だってそのうちのひとつだ。


「だが、安全を優先し過ぎると儲けが少なくなるのも事実だ」


「決断は艦長に任せる。どんな状況でも私が力になる」


 リゼは自信たっぷりに微笑む。

 俺に全ての判断と責任を任せるというより、俺がどんな判断をしても物理的に道を切り開く自信があるのだろう。


「頼りにしてるぜ、姫さん」


「うむ! ところで、そろそろちょーこーそく、んんっ、超光速飛行を始めるのか? 実はこれを知ったときから楽しみでな」


 リゼの背中から光の翼が『にゅっ』と伸び、興奮を隠せない様子で『ぱたぱた』動く。

 ……いや待て。

 今の発音、ひょっとして。


「姫さん、ひょっとして自動翻訳機を切ってるのか?」


 艦内の自動翻訳機は作動していない。

 予備をリゼに渡したからそれを使ってると思っていたんだが。


「うむ……。銀河標準語はエルフ語に近いと言ったであろう? 兵達と話している間に、自然とな」


 こいつ、現代の教育を受けたことがないだけで、頭の性能はとんでもなく高性能なのかもしれない。

 まあ、一星系を制圧したのに『荘園ひとつ』しか要求してこない無欲な奴だ。

 過剰に恐れる必要はない、はずだ。


「そうか。ならしっかり見ていてくれ。安全で高速な超光速は俺の得意技だ」


 星系の最も外側の惑星の近くを通過したのを確認してから、超光速機関を始動する。

 光速の一割程度が限界の通常機関とは違い、光速の数十倍やそれ以上の速度を平然と出す化け物機関だ。

 惑星に接触すれば大惨事だし、移動方向をミスすればどこにも辿り着けずに酸素が尽きても飛び続けることになる。


「か、艦長っ。魔法は使えないと言ったではないか!?」


 リゼが慌てている。

 光の翼は『ぱたぱた』するのを止めて、怯えたように縮こまっている。


「すまんが後にしてくれ。このタイプの超光速機関は途中で止めようとしたら暴発する。一応安全装置はあるがな」


「理論上は可能と言われた異世界転移の術式だぞこれはっ!」


 ひえぇ、なんて声がリゼの口から出てくるとは予想外だった。

 からかってやりたい気もするが、俺も本当に余裕はない。


「隣接星系の外縁部へ超光速移動を開始する。気をしっかり持てよ」


 超光速機関が発する力場が俺たちを含む『フリーキャッスル』全体を包み込んだ瞬間、暗黒の宇宙にわずかな星の光があるだけだった外が、極彩色の何かが蠢く超越空間に変わる。


「みぃっ」


 リゼの怯え方は尋常ではない。

 まるで、大型犬に怯える子猫のようだ。


「外には何もないはずだぞ。妙な物や場所にぶつからないよう細心の注意を払っているからな」


「あれに気付かなっ……いや、分からないなら分からない方がいい。それより到着までの時間を教えてくれ」


「船の中では数分、外の時間では数時間のはずだ。おい、姫さん、本当に大丈夫か?」


「艦長、超光速移動の際の事故率を教えてくれ」


 リゼは、うっすら汗を浮かべながら、必死に冷静さを保とうとしている。


「通常の使用なら惑星内で飛ぶよりも安全だ。事故が疑われる事例は、どれも戦闘中かルール違反での使用のはずだ」


 超光速機関は開発されてから数十世紀使い続けられている。

 初期と比べれば性能は劇的に向上したが、基本の設計は同じだ。

 だから、事故の発生確率は極めて低いとされている。


「そう、か。分かった。気にしないことにする。艦長もそうしてくれ」


「そう言われると気になるんだがな。……そろそろだ。いきなり戦闘ってことはないと思うが、気を抜かないでくれよ」


「もちろんだ! 早く目的地につくといいな」


 リゼ本人は不敵な笑みを浮かべてはいるが、光の翼は完全に怯えて固まっていた。



  ☆



「通常空間まで後三秒、二秒、今!」


 極彩色は一瞬で消え、暗黒とわずかな光だけで構成された通常空間へ到着する。

 艦のセンサーが恒星と惑星の位置を捉え、目的地から一光秒未満のズレで済んだと報告してきた。


「肝が冷えたぞ」


「姫さん、体調が悪いなら少し休むか? この星系の宇宙港についたら、交渉や警戒でクソみたいに忙しくなるぞ」


「すまぬ。少し時間をくれ」


 リゼは大きく息を吸って、吐く。

 それを二度繰り返すだけで、『危険な場所から抜け出してほっとした子猫』から『姫騎士』へ変わる。


「艦長、宇宙港はあの惑星の近くにあるのか?」


 リゼが指差したのは、出発前に渡された『地図』では、無人であり宇宙海賊すら寄りつかないはずの不毛の惑星だった。


「戦闘の気配がする」


「光速で五時間はかかる距離のはずなんだがな」


 超光速通信回線を使い、不毛惑星の静止軌道へ浮かんでいるはずの衛星へアクセスする。

 使用料金が高いので、あまり使いたくないんだがな。


「隊商を襲う山賊か」


 中央に映ったのは優美な流線型デザインの大型輸送艦だ。

 艦のあちこちに『シールド』発生装置があるのに、赤熱した状態で沈黙している。

 周囲を取り囲む、対艦レーザーを積みまくった『駆逐艦』艦隊が、高価な『シールド』発生装置がオーバーヒートするまで攻撃したからだ。


「隊商の大型馬車に襲いかかる山賊か」


 リゼが端的に要約する。

 俺はそれに頷く余裕もない。

 襲っている側に、データだ見ただけだが見覚えがあったからだ。


「人類保護機構の遊撃艦隊? 銀河共和国と戦争してる星間国家が、銀河共和国を挟んだ反対側まで遠征しているだと?」


 わけが分からん。

 人類保護機構の識別信号を偽造した宇宙海賊と言われた方が納得できる。


「たすけてー! ヘルプミー!」


 その、襲われている大型輸送艦から救難信号と音声が届く。

 可愛らしい少女の声に聞こえるが、何故か人工音声っぽい。

 自動翻訳機の誤動作かと思い実際の音声を再生させると、少なくとも生身による音声でないことが分かった。


「艦長。罠かもしれん」


「罠なら食い破ってやるだけだ。積み荷は家畜や野菜だけじゃないからな」


 最も外側にあるコンテナを遠隔で『開く』。

 宇宙海賊の宇宙船の群れを、帝国軍艦隊に再編したときに余った対艦レーザーが、左右それぞれ六基で合計十二基も現れた。


「救難信号の悪用は縛り首レベルの重罪だ。そのときは大型輸送艦から全部奪ってやるさ」


 推進剤に余裕はある。

 頑丈さとパワーと大火力を備えた『フリーキャッスル』が、戦場めがけて加速を開始した。

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