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海賊基地制圧! そして高らかに叫ぶ『ジャバウォック銀河帝国』建国宣言

 自称自警団、他称海賊の拠点(小惑星基地)への侵入は簡単だった。

 人間が宇宙服も着ずに、デブリを蹴って加速して突撃してくるなど誰も考えない。

 高性能なセンサを全方位へ向けていれば見つけることもできたかもしれないが、それが用意できるような奴ならこんな僻地で宇宙海賊などしない。


 旧式のレーザー砲塔が異音と共に旋回する。

 通路に無理矢理取り付けられた、本来は艦載機用の対空レーザーだ。

 ヒートソードで開けた穴から侵入した直後のリゼに、生身の人間など秒で骨まで炭にできるエネルギーを光速で叩きつける。


 通路が光に包まれた。

 リゼのピンクの髪が爆風で煽られているが、傷一つない。

 リゼの全身を隠すサイズの半透明の盾が浮かび、レーザーが照射された場所だけが白く光っていた。


「化け物だぁ!」


 レーザー砲塔を操作していた宇宙海賊が泡を食って逃げ出す。


「誰が化け物だ」


 リゼが一瞬で音速近くまで加速してレーザー砲塔のエネルギーセルを破壊する。

 そのまま速度を維持して、逃げる宇宙海賊を追い抜いた。

 それを見ている俺がどこにいるかというと、『フリーキャッスル』の全力加速で数分はかかる宇宙空間(もちろん船に乗っている)だ。

 リゼにかけてもらったARメガネと俺のARメガネを連動させて、大迫力の映像を楽しんでいる……というより酔いに耐えている。


「通信用コネクタを強調表示する。通信機を差し込んでくれ」


「うむ」


 リゼは振り返りながら、減速しきれなかった宇宙海賊の胸を『軽く』叩く。

 内臓だけを揺らされて宇宙海賊は死にはしないが痛みで気絶し、着込んだ宇宙服ごと通路へ転がった。


「差し込んだぞ」


「よーし。いい感じだ」


 それなりの強固なプロテクトがあったが、この小惑星基地には複数の『自警団』が『入居』していたようだ。

 互いに出し抜くためにクラッキングをしかけあっている跡があり、それをこじ開けることで簡単に中枢へ侵入できた。


「てめぇかぁ! 娘っ子ぉ!」


 特大のヒートソードを背負った機動兵器が奥から現れる。

 切っ先が床に深い傷をつけているのにお構いなしだ。


「無事であったか。骨を折った感触があったので心配していたぞ」


「ふざっけんなこの野郎!」


 一度リゼが倒して捕虜にして推進剤他いろいろと交換した、小柄な宇宙海賊だ。

 客観的に見て機動兵器パイロットとしては平均以上ではあるんだが、リゼとは実力が違い過ぎる。


「野郎ではなく女だ」


「どうでもいい! お前はここで死ぬんだからな!」


 大柄な機動兵器より大きなヒートソードが強い熱を持つ。

 周囲にいた宇宙海賊が慌てて逃げだす。

 放射される熱だけで焼け死にかねないからだ。


「レーザーが効かないならぶった切れば」


 口上の途中でリゼが動いた。

 相変わらず『エネルギー切れ』のヒートソードを振るい、特大ヒートソードを掴む『手』を『解体』する。

 速度や力だけでなく技もとんでもないな。


「はぁ!?」


 機動兵器パイロットが現実を受け止めきれずに脳がバグる。

 俺もARメガネによる解説がないとついていけないぜ。


「姫さん、動力とセキュリティを掌握した! このまま隔壁を封鎖してから宇宙港へ引き渡そう」


「待て艦長。それでは一時的な金にしかならん。ここは任せるがいい」


「おい姫さん!」


 リゼは一方的に通信を操作する。

 俺の声が宇宙海賊どもに聞こえなくしたのだ。

 いつの間にハッキングを身につけたんだ、と思ったんだが、リゼの背後にいつの間にか光の翼が現れて『ぴかぴか』光っていた。


「久々の妨害魔法だが成功したか」


 不敵に微笑むリゼは、エルザが夢中になるのも分かるほど美しく格好良い。

 してやられた俺も、見惚れてしまった。


「ものども! 聞け!」


 凛と響く声は魔性じみた魅力がある。

 リゼの武力を間近で見ることになった宇宙海賊は、真っ赤になったり『ぶるり』と震えたりと反応が激しい。


「我が主君がこの地を旗揚げの地に選んだ。私と共に覇業に参加するか、ただの賊として怯えて逃げ隠れするか、今ここで選ぶがいい!」


 光の翼で物理的にも輝いているリゼに、宇宙海賊どもは極上の酒に酔っ払ったような陶酔顔だ。

 『リゼの主君』を実際に知っているはずの機動兵器パイロットまで「そんな大望を隠してたのか」と夢見る少年のような表情でつぶやいている。


「今ここに、ジャバウォック銀河帝国の建国を宣言する! ジャバウォック陛下を称えよ!」


「うおぉぉぉっ!」


「皇帝陛下ばんざい!」


「ジャバウォック陛下ばんざーい!」


 俺はリゼに対して抗議の通信を送ろうとクラッキングまで駆使しているのに、光の翼が『今いいところだから』という感じで情報的に迎撃して俺の通信を邪魔している。


「まずはこの星系を攻め落とす! ものども! ついて来い!」


 『姫騎士』を先頭に、直前まで宇宙海賊だった銀河帝国軍が進撃を開始した。



  ☆



 それからは同じことの繰り返しだ。

 元自警団(宇宙海賊)の帝国艦隊が普通の『宇宙海賊』に襲いかかり、消耗を嫌った『宇宙海賊』が本拠地(小惑星基地や外惑星の宇宙港)まで撤退する。

 艦載兵器より本拠地の兵器の方が大型なので、帝国艦隊が攻めても良くて相打ちだ。

 これまでの常識なら『すごすご』と逃げ帰ったんだろうが、こっちには『姫騎士』リゼがいる。


「艦長、差し込んだぞ」


「おう。ここも雑なセキュリティだな」


 海賊どもが大慌てで基地の設定を『半自動』から『手動』に切り替える。

 簡易AIやAIの補助がなければ、よほどの凄腕じゃない限り兵器の命中率は激減する。

 機動兵器に乗り込んだ帝国海兵隊(元自警団)たちがリゼの開けた『穴』に殺到し、既にリゼによってぼろぼろにされた海賊本拠地を物理的に制圧していく。

 今回でこれが四回目だ。


 二回目からは宇宙港が積極的に『ジャバウォック銀河帝国』に協力を始め、三回目からは惑星上にいくつもある自治区から志願兵が集まりだした。

 リゼが勝手に言い出した『ジャバウォック銀河帝国』は、冗談のような速度でこの星系に出現したのだ。


「皇帝陛下。物流に関する規則についてですが」


 宇宙港で税関職員をやってたおっさんが、俺を皇帝陛下あつかいしている。

 服装は以前のままなのに雰囲気が全然違う。


「あんたそれでいいのかよ」


「皇帝陛下の輝かしい戦果と比べればささいな問題でございます。詳しい説明をお求めですか?」


「……頼む」


 俺は平然を装ったつもりだが、口から出た声は不機嫌な声だった。

 不機嫌な『皇帝陛下』を目にしたのに、おっさんは姿勢は低いが謝罪なんてしない。


「星系内の武装勢力の争いで、もともと乏しい星系の富が食い潰されていたのです。惑星が貧しいのはもともとですが、以前は星系外との取り引きが今よりはマシだったのですよ」


「治安悪化と星間取り引きの無限ループか」


「はい。このまま星間航行技術まで失うと予想されていたとこに現れたのが皇帝陛下というわけです。……奇跡ですよ」


 最後の一言にだけ、狂おしいほどの熱が籠もっている。

 よく見るとおっさんの目のぎらつきが狂信者レベルだ。


「だ、だがよ。結局のところ姫さんが吹いた法螺だぜ、『ジャバウォック銀河帝国』は」


 それは『夢』だ。

 リゼの圧倒的な個人戦闘力が、その『夢』に説得力を持たせただけにすぎない。

 元自警団や元宇宙海賊が『夢』から覚めたときに何が起こるか考えると、今から胃がストレスで痛くなる。


「法螺でもその場限りの嘘でもいいのです。この星系が統一できる絶好の機会を逃すような愚か者は、この星系から『退場』してもらうだけですので」


 俺が乗る『フリーキャッスル』に星系各所から忠誠を誓う通信が届く。

 条件は『今の権益を取り上げないこと』だ。

 それは宇宙港も同じだ。

 その条件を『ジャバウォック銀河帝国』が受け入れるなら、『ジャバウォック銀河帝国』に対し納税と人員の提供が行われるってわけだ。


「無茶苦茶だぜ、本当によ」


 だが悪くない。

 一隻の艦長から始まって一星系の支配者に成り上がるってのは、宇宙船乗りが夢見る最も大きな夢のひとつだ。

 それがかなうなら、少々の理不尽は十分に飲み込める。

 ただ、なあ……。


「自警団と海賊の艦隊を再編して星系防衛艦隊を整備したら、その維持費で『納税』が全部もってかれるんだが」


「治安の改善が周辺星系へ知られるようになれば納税額も増えますよ」


 おっさん、一瞬目を逸らしかかったな。

 まあ、皇帝陛下として最優先で推進剤や物資や兵器まで購入できるのは、とんでもない特権ではある。

 しかもリゼがいるんだ。

 周辺星系を併合していって自称『銀河帝国』から本物の『銀河帝国』に成り上がるのも、夢物語ではない。


「……堅実にいこう」


 俺は深呼吸して、伝染しかかった熱狂を振り払う。

 調子に乗って破滅した同業者は何人も直接見てきた。

 それに、星系の支配者とはいえ銀河共和国と比べると機動要塞と戦闘機ほどの規模の差がある。

 調子に乗るのは早すぎるぜ。


「無理なく輸出できそうな品をリスト化してくれ。皇帝陛下の初仕事は、演説や宮殿を建てるんじゃなく、お隣の星系との商売だ」


 俺は『権益の保障』に合意する文章を送信する。

 考えてみればやることは変わらない。

 輸送艦の『フリーキャッスル』のオーナー船長兼、『ジャバウォック銀河帝国』の皇帝陛下になっただけだ。


「承知いたしました」


 おっさんが頭を下げる。

 ほんの少しだが、本心からの敬意が感じられた気がした。


「どうだ艦長! この星系を拠点にしたぞ! 私の取り分は荘園一つで良い! そのくらいの活躍はしたと思うぞ!」


 入れ替わりでリゼからの通信が届く。

 とても得意げで、本人は間違いなく気付いていないが背中の光の翼が『やったぜ!』という雰囲気で得意げに広がっている。


「自治区に手を出さないなら惑星まるごとでも構わんが、収入より維持費の方がかかるぞ?」


 星系にある、人間が居住可能な惑星についてのデータを送信する。

 受け取り、読んだリゼが、『すんっ』と冷静になった。


「複数の惑星があるのに、私の故郷と同程度しか居住者がいないではないか。それに、酸素生産プラント? こんなものまで必要なのか」


「ダンジョンがあるようなファンタジーな惑星だったら良かったんだがな。ここは宇宙の僻地なんだよ。……明日中に出稼ぎに出発するからな」


「むう。何事も一気に解決とはいかぬか。よかろう。これからも頼むぞ、陛下!」


「艦長でいい。こっちも姫さんって呼ぶからな」


「うむ!」


 本物の『銀河帝国』を目指して、俺たちの戦いが始まった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

プロローグ(建国編)はこれにて完結です。

明日からも、勘違いと無双で銀河を切り拓いていきます!


「リゼが可愛かった!」

「続きが気になる!」


と少しでも思っていただけましたら、

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