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初めての揚げ菓子(餌付け)と、ついでの賞金首捕獲

「ふにゃっ!?」


 リゼの目の前に『クッション』が出現する。

 宇宙港の検疫ゲートによる、緊急の通行止めだ。


「な、なんなのだこれは」


 可愛らしい悲鳴を上げたことに本人が動揺しているらしい。

 リゼの顔がほんのり朱に染まって可愛らしい……というには気配が剣呑だな。


「おいおっさん。機材の故障か」


 俺は顔馴染みの税関職員に話しかけながら、『クッション』を出現させている門をノックする。

 俺の船以上にオンボロな宇宙港だからな。

 結構な頻度で故障するんだよ。


「故障じゃないと思うんですが。おかしいな」


 穏やかな雰囲気の職員が門のチェックを始める。

 強面の船乗りや密輸業者や自警団を名乗っている海賊と普段からやりあっているだけあって、周囲から『早くしろ』と急かされても動じない。


「なあ姫さん。まさかと思うが防疫処置やIDチップの埋め込みをしてないとか?」


「なんだそれは。私は赤子の頃から健康だぞ。亜じ……んんっ、異種族が攻め込んで来て病が広がったときも、一度も体調を崩さなかったくらいだ」


 こりゃ、防疫処置もIDチップもないな。

 本人の生命力だけで病気を防いでいるのかもしれん。


「うーん、やっぱり門は正常ですね。最近情報の更新ができていませんから、たまたまIDや処置履歴が読み取れなかったかもしれません」


 税関職員は穏やかだが、目には油断のない光がある。

 一見ひ弱な気配に騙されると酷い目にあいそうだ。


「ふむ。賄賂の無心か?」


「アホなことを言うんじゃない!」


 俺は思わず、姫さんにツッコミを入れようとした。

 姫さんは俺が手を伸ばしたことに気付いていたし、対機動兵器戦の動きの十分の一でもすれば簡単に躱すこともできただろうが、甘んじて俺のツッコミ(そっと触れる程度の威力の裏拳)を受け入れた。


「なるほどなるほど」


 税関職員のおっさんは、人が良さそうな笑みを浮かべる。

 姫さんは誤解に気付いて素直に頭を下げている。

 相変わらず偉そうだがな!


「いいでしょう。くれぐれも騒ぎは……」


「うむ。剣は抜かないぞ」


「いえ、暴力は賊相手にだけ、宇宙港への被害はなしでお願いします」


 おっさんはとんでもないことを笑顔で言った。

 正気かよおっさん。


「承知した! 真面目な役人を見るのは久々だ! ここは良い所だな、艦長!」


「お、おう……」


 上機嫌な姫さんに引っ張られた俺は、税関のおっさんに見送られて宇宙港の旅客区画へ入っていった。



  ☆



「姫さんにとっては異星人ばかりで驚きだろ」


 好き勝手な増築や多数の屋台で歩きづらい通路には色々な種族がいる。

 首から上が剛毛の生えた熊族(通称だ)とか、腰の後ろから大きな白翼が生えた天使族(これは自称だ)とか、俺のような人間とは違った見た目の奴が大勢だ。

 リゼが『俺の目にはネジより小さく見える』看板について質問を繰り返すので、それを止めさせる意図もあった。


「彼らはここでは異星人なのか?」


「異星人だろ。大昔、人間だけが一つの惑星に住んでたって言うぜ。姫さんがどこの出身か、どこ時代の出身かは知らないがよ」


 ひょっとしたらリゼは『ウラシマタロウ』なんだろうか。

 俺は、似合いもしないことを考えて感傷的になっていた。


「獣人と人間の混血ばかりだ。熊獣人の要素が濃い者や、鳥獣人の要素が濃い者も……んんっ」


 俺は慌ててリゼの口を押さえた。

 『何をするのだ』とリゼが非難の目で見てきてはいるが、野良の弁護士が嬉々として『被害者』に営業をかけそうな問題発言を放置できるわけないだろ!


「姫さん、『郷に入りては』だ。不必要な喧嘩は避けるってことでよいな? よいって言え」


「んんん(分かった)」


「よし。頼むぜ姫さん。あんたの武力をあてにしてるんだからよ」


 安堵したら、俺の手のひらにあたる唇の柔らかさに気づく。

 ホロムービーの主役級の美貌に直接触れていることにも気付いて、動揺してしまった。

 リゼは『するり』と俺の腕から抜け出す。

 顔色が変わっていないのが、少し悔しい。


「任せるがいい。ところで艦長、風邪か? あれは症状が重くなると戦えなくなるから注意した方がいい」


「病気じゃないから大丈夫だ。……それよりメシだ。食えないものや苦手なものはあるか」


「ない、と言いたいがこの地を訪れたのは初めてだ。どれが食べ物か確信を持てぬ」


 リゼは、人の良さそうな爺さんが屋台で売っている『原色の飴玉』を見て困惑している。

 甘い香りは感じ取っているのに、食べ物に見えていないらしい。


「推進剤を買わずに済んだから予算には余裕がある。ここにあるものなら何でも買ってやるぞ。一食分だけだがな!」


 リゼの金と白の目が俺を見る。

 『借金があるのに無駄遣いするのか』という呆れた目だ。

 だが、リゼの腹が『くるる』と可愛らしい鳴き声をあげたことで、リゼも上から目線は不可能になった。


「あれを頼む」


 リゼが示したのは『その場で揚げているお菓子』だ。

 小麦粉を練ってブドウ糖につけ込んだものを熱した油に放り込むだけの単純な『お菓子』だが、甘味と油と炭水化物の組み合わせは空きっ腹に効く。

 濃厚な甘さと揚がった直後の生地の匂いがたまらない。

 俺は、腹回りが心配だから買えないけどな。


「お嬢さん、お綺麗なのにこんなの食べていいのかい? 作っている俺が言うのもなんだけど太るよ?」


「店主。いいから寄越すのだ。補給を断たれてから数ヶ月、甘い物は一欠片とて口にしておらんのだ!」


「ちょっとそこの兄さん。お嬢さんに甘味断ちさせてるの?そりゃ、これだけ美人なら体型を維持させたくなるのは分かるけどねえ」


「違う違う! 姫さんとは今日会ったばかりだ」


 石化状態なら一ヶ月以上同じ船にいたわけだが、事実を言っても信じてもらえないだろう。

 信じられた方が危険だけどな。

 普通じゃあり得ないことは金になるから、ヤバイ奴らを引き寄せる。


「それじゃお一つどうぞ!」


 俺から金を受け取った屋台の主は、特に綺麗ではないが清潔な紙へ、揚げたての『お菓子』を載せてリゼへ渡す。

 生身で船外活動をして無傷なリゼなら熱さも感じないのかと思ったが、リゼは危なげなく『お手玉』して、丁度良い温度になるまで待った。


「よし!」


 ぱくり。

 口の中を見せず、揚げたての『お菓子』を小さく齧りとる。

 桜色の唇が辛うじて食用の油で濡れて、背徳的で官能的になる。


「んんーっ!」


 リゼが感極まって目を閉じる。

 風のないのにピンクの髪がふわりと浮き上がり、背中から光の翼が『にょきり』伸びた。


「姫さん、天使族だったのか?」


「私は天使などという空想上の存在ではない。あむっ。生まれたときからずっと人間だ! あむっ」


 リゼは白い頬を淡い桜色に染めて、本当に幸せそうに『お菓子』というかカロリーの固まりを食べている。

 俺なら一口で腹一杯だ。


「だがよ姫さん。肩から翼が出てるぜ」


「にゃっ!?」


 リゼの表情が固まった。

 『ぱたぱた』動いていた光の翼が『にゅんっ』と体の中に引っ込む。


「ききき気のせいだろう。この歳になって魔力制御に失敗するなんて恥を私が晒すわけが……」


 動揺している。

 金の瞳孔が高速で動いている。

 これが『目が泳ぐ』ってことか。


 まあそれはどうでもいい。

 俺が今後の方針について相談しようとしたとき、リゼを見ようと集まっていた群衆を押しのけて体格の良い男たちが現れた。


「おいおいおい。AI作の偽動画じゃなくてマジだったのかよ!」


 俺より一回りは太い腕に、これ見よがしに腰に吊るされた大型レーザーガン。

 ナンパにしては物騒すぎるな。


「艦長。この者たちは賞金首か?」


 リゼは半分ほど残った『お菓子』を名残惜しげに口から離し、冷静な声と表情で俺にたずねる。

 『お菓子』にちらちら視線が向いているのが、妙に子供っぽい。


「今調べる」


 度の入っていないメガネを、長年使って色褪せたパイロットスーツのポケットから取り出す。

 装着すると、自動で起動して宇宙港の役所とアクセスする。

 男たちと重なる形で、賞金額が表示された。


「姫さんが今食ったやつ三つ分だ」


「何の話だ」


 リゼは自然体だ。

 機動兵器を生身で圧倒できるんだからこの程度楽勝だとは思うが、相手は銃を持っているから心配だ。


「賞金額だよ。一人三つ分で全員あわせて九個分。支払い条件は捕縛限定。……お前らそのナリで食い逃げの常習犯なのかよ」


「賞金額はどうでもいいだろ! このレーザーガンが見えないのかよ!」


 危なっかしい手つきで銃を構えようとしたので、俺は引き金には触れないよう注意して自分のレーザーガンを連中へ向けた。

 大きくて威力があっても、使うべきときに素早く使えないなら意味がないんだよ。


「銃からゆっくり手を離せ。先に抜いたのはお前らだが、俺だって好き好んで人殺しなんてしたくないからな。いいか、ゆっくりだぞ」


 宇宙海賊を撃ち殺したことなら何度かあるが、賊が相手でも気持ちがいいものじゃない。

 暴力なんてのは、必要なだけ使えば十分だ。


「艦長。この者たちでも賞金首になるのか? 死者の怨念を感じない、ただの街のごろつきだぞ?」


「僻地の宇宙港や惑星では治安組織は小規模で賞金首制度で治安を保っているんだよ」


「なるほど。では、騎士でも戦士でもないのに数十人の怨念を背負っている者は、高額賞金首だな」


 リゼは男たちを警戒していない。

 騒ぎに怯えて店じまいを始めているように見える、『原色の飴玉』を売っていた爺さんに厳しい目を向けていた。


「えっ」


 俺が爺さんを見た数秒後、ARメガネに映像分析結果が表示される。

 『大規模な整形と身体改造の痕跡を確認』

 『違法薬物密輸犯である確率九割以上』

 『高額賞金首。生死不問』


「重犯罪者だ!」


 俺はその場を飛び退いて屋台の一つを盾にする。

 人の良さそうな爺さん……今では無機質な『作り物の目』でこっちを見ている奴が、『原色の飴玉』の屋台から大型のレーザーライフルを取り出し俺に向けた。

 慌てて首を引っ込める。

 俺のレーザーガンの数倍強力なレーザーが、寸前まで俺の頭があった空間を貫いた。とARメガネが表示した。


「「「おたすけー!」」」


「こっちへ来い!」


 リゼに導かれて男三人が俺の背後に逃げ込んでくる。

 巻き込まれて死ぬよりマシだろうが、お前らそれでいいのか?


「姫さん! 機動兵器のときのように倒してくれ!」


「光の速さで飛んでくるものは躱せん! 今の枯渇した魔力ではあれを受けたら火傷をしてしまう」


「火傷ですむのかよ。俺なら骨までこんがりだぜ」


 宇宙港にいる商人や通行人は荒事には慣れっこのようで、とっくに安全な場所まで移動している。

 爺さん(重犯罪者)も逃げて姿を隠せばいいのに、執拗に俺たちを狙っている。

 正体を看破した俺やリゼを殺すつもりか、ブラックマーケットならとんでもない値段で売れるだろうリゼを狙っているのかは分からない。

 確実なのは、俺たちを逃がすつもりはないってことだ。


「艦長、打つ手がないなら全力で強化して突撃する」


 リゼの金の瞳は冷静で、覚悟が決まっている。

 無傷での勝利は不可能ってことか。


「それはナシだ。姫さん、俺のレーザーガンを少しだけ突き出して、完全に固定して欲しい。できるか」


「それだけなら可能だ。しかし私はそのマジックアイテムの使い方は知らんぞ」


「頼んだ」


 俺はレーザーガンを遠隔操作モードに切り替えてからリゼに渡す。

 ARメガネを使って近くの監視カメラをハックして、狙いをつけるために必要な情報を集め、計算する。


「レーザーガンは、腕じゃなくて数字で撃つんだ」


 リゼが屋台の横から銃口(レーザー発振用レンズ)を『こっそり』突き出してから二秒後に計算が完了し、それから一秒後にレーザーを照射させる。

 レーザーガンはリゼの腕で万力のように固定されている。

 普通なら再計算が膨大に必要なのに、再計算そのものが不要だ。

 爺さん(重犯罪者)が構えていた銃の銃口(レーザー発振用レンズ)が焼き溶かされ、その機能を失った。


「姫さん! 生死不問だ!」


「任せろ!」


 固いはずの床に、リゼのブーツの先の形が残る。

 一瞬で加速したリゼは、それまでの激戦が嘘のようにあっさりと重犯罪者を捕縛する。

 今になってようやく、サイレンを鳴らした治安組織がこちらに向かってくる。


「姫さんの言う通り、軍資金は手に入りそうだ」


 俺は『フリーキャッスル』の改造プランを考え、にやりと笑った。

 まあ、この後やってきた治安部隊に、リゼが踏み砕いた床の弁償と、ハッキングの違法行為の罰金を請求されて、賞金がほとんど消えることになるんだが。

 世の中、そう甘くはねえってことだな。

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