「そんな態度では私が悪逆非道の魔王に見えるではないか」物理無効の大魔法を超光速で斬り伏せた姫騎士。震える幼女エルフの顎を剣で持ち上げる姿は完全に『魔王』でした
『ドラゴン』は進路を変えない。
光速でも数分はかかる距離にいるリゼに向かって……リゼが乗っている『フリーキャッスル』に向かって一直線だ。
「亜光速、いや、光速を超えているのか。どういう理屈で動いているんだ」
俺は現実逃避気味につぶやく。
「ギョーショーちゃんもよく分かってないのです! 向こうの銀河の謎生物が使う謎パワーにちょっと似てるです!」
「絶対に隣の銀河には行きたくないな」
俺は『フリーキャッスル』の『積荷』の投棄を開始する。
高価なデータチップやコンピュータの部品、亜光速ミサイルなどの高級品製造の際に必要なインゴットなど、通常なら加速力低下と被弾を覚悟してでも運び続けるものをどんどん捨てる。
残すのは、陸戦隊を含む俺たちが生き延びるための酸素や水や食料くらいだ。
「艦長。追いつかれるまで後一分だ」
「加速しやがったか。超光速機関の制限さえなければな」
惑星や宇宙港がピンチなら制限が緩んで星系内超光速移動が可能になるんだが、今のところ『ドラゴン』は俺たちしか狙っていないので制限はそのままらしい。
「艦長。わざとダメージを受けて制限を緩めるのは無理か?」
「それだと制限が緩まないときもあるんだ。外れたら命がなくなるに賭けをするのは、な。……クソっ。見えてきやがった」
艦の外を映している画面に『ドラゴン』が表示される。
『目』が据わっている。
この『ドラゴン』が幼女エルフのサイズだったとしても、悪夢を見てしまいそうな凶悪な目だ。
「姫さん。あのデカイのは飛び道具を使うのか。それとも体当たりだけか?」
「もとの魔法は魔力を加工したものをぶつけるだけの魔法だ。かなり手を加えているようだから、どんな動きをしてもおかしくない」
「姫さんは魔法使いじゃないってことか。……そろそろだな」
俺は要塞をちらりと見る。
既に無人だが、撤退前にプログラムを仕込んでおいたのだ。
ミサイルが発射される。
要塞のあちこちから噴射光と共に飛んでいく様子は、なかなかの迫力だ。
「艦長。あれだけのミサイルを買う金があれば、ランス級が三隻建造できるな」
「ミサイルも必要ではあるんだがなあ」
俺はミサイルに向けて情報を送信する。
超光速の『ドラゴン』を『見て』から狙うのは難しいが、超光速通信を採算度外視で利用すれば可能ではあるんだ。
通信費がリアルタイムで引きとされていく口座の残高も意識しながら、俺はミサイルの『弾幕』を稲光で構成された『ドラゴン』へ向ける。
これなら『当たる』と確信して誘導を止めた俺が改めて戦場を見たとき、とんでもない予算規模のホロムービーだと一瞬勘違いしてしまった。
「艦長。今さら言っても意味のないことではあるが、最初から要塞で迎撃した方が良かったのではないか?」
リゼは自分自身のARメガネをかける。
メガネ越しに見える金の瞳孔と白い目のコントラストが美しい。
「即座に動き出すのを優先して判断が雑だったのは認めるよ」
要塞に搭載された大型レーザー砲が『偏差射撃』を開始する。
ARメガネを通して見ると、『ドラゴン』の進行方向へ『置く』ような形でレーザー照射が行われている。
レーザーと『ドラゴン』が交差する。
互いに影響を与えず通過すると予想していたのに、『ドラゴン』が眩しそうに目を閉じて進路を変えたことに気付いて、俺は驚愕した。
俺は無意識の行動で追加の命令をミサイルへ送る。
ほんの少しだけ輝きが弱くなった『ドラゴン』に、進路を変えながら加速したミサイルが次々に突入して、爆発する。
俺はこれで決着がつくと思っていたのに、短くも激しい爆発は『ドラゴン』は何の影響も受けていない。
ダメージも、おそらく皆無だ。
「どうなってんだ」
「うむ。物理無効の属性を付与されているようだ。レーザーも物理であると私『は』知っているぞ?」
リゼがそんな解説をしてくれる。
「謎生物は『気合いで現実を動かす』んだって言ってました! わけわかんないですけど本当に現実が動いちゃってるので、研究職の機械人間は理屈が分からないまま研究開発に応用してるのです!」
おしゃべり好きなギョーショーは、ひょっとしたら機密かもしれないことまで気軽に話している。
これが演技で偽情報を流している可能性もあるが、こちらからは行けない銀河について嘘をつかれても問題はない。
俺は『特に隠す必要がない情報をギョーショーが言っている』だけだと思う。
「艦長」
リゼが警戒を促す。
『ドラゴン』が再び進路を変えて、要塞を『通過』する。
超光速通信で見る限り、減速は一切なしで、要塞のコンピュータも兵器も全て焼き尽くしている。
リゼと『フリーキャッスル』に向き直り、最初以上の速度で追跡を再開した。
「陛下ぁ!」
「ランス級は予定通り撤退しろ。第二星系で共和国の艦隊を迎撃するときに必要だから、ミサイルを捨てて加速しようなんて考えるなよ」
俺が言い終える前に、ミサイルを後ろ向きにぶっ放す作戦案が送信されてきた。
「姫さん。二度目は効くって魔法、存在するのか?」
「見たことはないな」
「なら却下だ却下」
超光速機関の様子が『少しだけ』変わる。
星系内で超光速移動する『ドラゴン』に気付いて制限を緩めたのだろう。
「……途中で追いつかれるか。姫さん、いけるか?」
「そこは行けというべきだぞ、艦長」
リゼが不敵に微笑む。
「姫さんしか判断できないことが多いんだからまずは聞くさ。それじゃ行くか」
『フリーキャッスル』を反転させて『ドラゴン』へ向かう。
置いていかれた艦長たちからは悲鳴が、一蓮托生に突撃させられた陸戦隊からは歓声が響く。
超光速回線を介して届いている『ドラゴン』の映像には、戸惑うように『目をまたたかせる』姿が映っている。
「艦長、すまぬが剣の間合いまで近付いてもらう」
リゼは慣れた足取りで艦の外に出て『フリーキャッスル』の装甲を『踏みしめる』。
既にヒートソードは強い光を発し、リゼのネックレスは『羨ましそうに』自ら揺れている。
「了解。少しずれても勘弁してくれよ。なにせ相手は超光速だ」
「……感謝する」
リゼ本人は静かに礼を言うが、光の翼は『ばさっ』と勢いよく広がり、凄まじく上機嫌で『ぶんぶん』上下している。
「ダンジョンに入る前から、いや、海を渡る前から、ずっとひとりで戦ってきた。それに比べて、今がどれほど恵まれているか」
リゼは『ドラゴン』を見てはいるが脅威として認識していない。
最初に自称自警団の基地へ切り込んだときと同じように、ただの障害物に向けるような目をしている。
一瞬、艦外カメラが『ドラゴン』の姿を捉える。
怒り狂い、『フリーキャッスル』よりも大きな『光のドラゴンブレス』を吐く姿だ。
ヒートソードが一閃する。
斬撃の延長線上に極細の『光』が伸びて、『光のドラゴンブレス』が斜めに斬り捨てられる。
威力が激減した『飛沫』が降り注ぎ、新装甲で覆われている『フリーキャッスル』の外殻に小さな穴がいくつも開いた。
「ちょっと待て、新装甲が効いてないのか!?」
操縦室の中で無数の警告が表示される。
船倉にいる陸戦隊が、大慌てて艦の応急修理を始めている。
「ポーターさん! 新装甲は完全に機能を発揮してるのです! 発揮してそれです! すごいのです!」
俺が慌て、ギョーショーが興奮する中、リゼは『フリーキャッスル』の外殻を蹴り光の翼を羽ばたかせ、『ドラゴン』へ斬りかかる。
俺が認識できたのはそこまでだ。
『ドラゴン』が加速して超光速になり、リゼもそれに合わせて超光速に到達……したらしい。
「うひょー! すごいのですっ!」
「ギョーショー! 後で俺たちでも見れるデータでくれ!」
「分かったのです! ポーターさんには特別で割引してあげるのです!」
「帝国軍全体でも割引してくれよ」
「や! なのです!」
暗黒の宇宙を白い斬撃が切り裂いた。
直前まで何もなかった空間に、両断された『ドラゴン』が浮かび上がるようにして出現する。
その、二つに分かたれた『ドラゴン』の真ん中に、力なく漂う幼女エルフと、ヒートソードを突きつけている元気なリゼが見えた。
「また、魔王が……。ごめん。みな。ごめん」
「そんな態度では私が悪逆非道の魔王に見えるではないか。殺したのも殺されたのもお互い様だろう」
「どの、口でっ」
幼女エルフから感じる憎悪は最初と変わらず、しかし迫力は激減している。
見た目通りの幼女にすら感じられる。
「うむ。どうしたものかな。今後も私を付け狙うなら、帝国のためにも殺すしかないのだが」
ヒートソードの温度を『常温』まで下げて、絶妙の力加減で幼女エルフの顎を持ち上げる。
酷く凄惨で、とても退廃的な、悪い意味で歴史に残ってしまいそうな光景だ。
リゼが『舌なめずり』しそうな表情になってるし。
「姫さん。捕虜にできるなら捕虜にしたいんだが、いけそうか?」
「んんっ。な、なんでもないぞ。もちろんいける!」
「了解。陸戦隊に捕虜用の部屋を用意させる。警備は全員女性でな。それとギョーショー!」
「なんなのです? 値引き交渉は断固拒否なのです!」
「しねーから高貴な捕虜用の物資を頼む。逃げるときに全部捨てたから、エルフ族のお偉いさんを迎えるためのあれこれが足りないんだよ」
足りないというより、皆無だ。
「しかたないですねポーターさんは。超光速移動が始まるまでに合流するので、それまで待つのです!」
「頼んだ」
一通りの指示を出し終えた俺は、全身に強い疲れを感じる。
しかし肩は軽く、胃の痛みは極小だ。
「姫さん、これでなんとかなりそうだ。後は第二星系まで戻って、第一と第二の守りを固めながら共和国に『剣』と『捕虜』の交換を要求する」
「うむ。共和国には早く決断して欲しいものだ。エルフ……今の時代のハイエルフは好きではないが、人類保護機構も好かぬ」
リゼは幼女エルフを荷物のようにかついで『フリーキャッスル』へ飛ぶ。
『着地』まで後数十秒か。
「次はエルザとの談合か。頭が痛くなってくるな」
やることは山積みでも気分は軽い。
リゼに直接勝利を祝うことを考えるだけで、自然と鼻歌をしてしまうほど上機嫌になっていた。




