「主役は誰か、分かってるな?」無敵装甲の輸送艦を盾にして、最強の白兵戦力(姫騎士)を敵要塞へ『デリバリー』する極悪戦術
「直ちに艦隊の進路を変更してください」
「直ちにセキュリティを解除し査察に応じろ。その要塞に賊がいる疑いがある」
要塞からの要請も、俺からの命令も形だけのものだ。
要塞側には譲る気はなく、俺たちもやる気十分。
お互い戦力を持った上でこういう状況なのだから、開戦は不可避だ。
「超光速移動終了から交戦可能距離まであと三十分ですかー。やっぱり、位相跳躍機関を導入しません?」
「ギョーショー。圧倒的に強い艦が一隻だけあっても商売も国も成り立たないんだよ。……おいそこの艦長ども。物欲しそうな顔をしても導入しないからな。新装甲の技術購入費だけでもきついんだから」
「海での航海と比べれば短時間なのだがな」
俺たちはそれぞれに忙しい。
ギョーショーは銀河帝国だけでなくその周辺星系まで商売の対象とする超光速通信網の整備に夢中だし、俺は距離が近づくにつれて詳しくなる敵の情報を作戦に反映させる作業に集中しているし、リゼはリゼで宇宙船の操船操縦の練習をしたりこの銀河の常識を学習したりで忙しい。
「む。艦長。そことそこにトラップだ」
「対デブリレーザーを使え!」
「「「了解!」」」
外部をそのまま映している画面には変化がないが、ARメガネには青いレーザーが表示されている。
敵艦相手に使っても『装甲を温める』程度の効果しない『弱い』レーザーも、長期間宇宙に放置されるのが前提の『機雷』や『砲台』相手には結構な効果がある。
宇宙という広大な場所で使うには数が膨大に必要だから、一つ一つの性能は低くならざるを得ないんだ。
「この『操縦室』ってのはイイですな。数人がかりの操船か艦長一人でする操縦になっちまいます」
艦長の一人が、思わずといった感じで呟いた。
俺にとってはもともとこんな感じだ。
俺の腕が艦長連中より圧倒的に上、ってわけではない。
人を雇う余裕がなくて、簡易AIを駆使して一人でもなんとか操縦できるようしていただけだ。
「クソっ。海賊どもが」
要塞からの通信に出ていた『美形のオペレーター』が消えて、すさんだ雰囲気の男が登場する。
「たった五隻の『巡洋艦』で要塞を襲う馬鹿どもめ」
「もう一隻いるぜ?」
「お前の名は知っているぞ、ポーター・ジャバウォック。ただの海賊の首領が皇帝を名乗るとは、無様なものだ」
ちょっと否定できない。
建国後数日して皆それなりに冷静になったときに『銀河帝国は名前が立派すぎないか?』という話になった。
最終的には『我らの姫騎士が気に入っているからこのままいこう』ということになったが。
「無様かどうかは後少しで分かるさ」
今から攻撃する相手だ。
俺は雑に対応しながら、別の画面でハッキングの試行結果を確認する。
「要塞のセキュリティは最低でも星間国家の正規軍レベルか。少なくとも企業の持ち物じゃないな」
「企業の持ち物だ。お前たちを撃退した後で、お前たちの所属組織への賠償請求と取り立てを執行してやる」
「あんた、どこかの星間国家から辺境の要塞へ島流しされたか? ご苦労なこった」
俺は意図して邪悪な表情を作る。
要塞の男は、一瞬目を見開いた後、憎悪で目を光らせる。
俺の表情より、俺の本気の『憐れむような目』が逆鱗に触れたのかもしれない。
「ポーターさーん。僕がハッキングしちゃ駄目なのです?」
「ギョーショーは銀河帝国と関係ない一般セールスマンってことにするんだろ? 公然の秘密でも建前は維持するのがお得だと思うぞ」
俺はギョーショーに答えながら、修正が終わった作戦を送信する。
ランス級の艦長たちだけでなく、リゼからも了解信号が返ってくる。
「後十一分だ」
「ふん。賊が我が要塞に近づけるものか」
要塞が本格的に動き出す。
『駆逐艦』より一回り小さな、『駆逐艦』より高加速の艦が連続で要塞から発進する。
数は……六隻か。
「な、なんなのです!? 位相跳躍機関も超光速機関も積んでないのです!」
ギョーショーが動揺している。
向こうの銀河には存在しないんだろうか。
「最大でも光速の一割程度の速度しか出せない小型艦だ。ジャンルとしては『艦載機』か。金持ってるなー」
「そんなこと言ってる場合ですかポーターさん! 星系内ではランス級も超光速は出せないのです! 超光速機関という重りがない分、あの小さな船は見た目より強いのです!」
サイズの割に強いかもしれないが、ひとつの星系でしか使えないので費用対効果は最悪だ。
よほどの重要拠点でしか使われないはずなんだが、どうしてここに?
『剣』の騒ぎを知って即送り込んだとしても、戦力が豪華すぎる。
「ひょっとすると侵略のための橋頭堡だったか。こいつはラッキーだ」
俺は本気でそう考え、本気で笑った。
要塞だけでなく、要塞に駐留する大規模艦隊相手に戦うなんて展開は最悪だ。
要塞と『艦載機』だけを相手に戦えるという展開は、理想的すぎる。
「今なら降伏を受け入れても……」
要塞の男が何かを言っているが無視だ。
「お前ら! スコアを稼ぐより効率を優先しろ。主役は誰か、分かってるな?」
「「「おう!」」」
艦長どもの士気が上がる。
もちろん主役は俺はなく、リゼだ。
我らが姫騎士を、要塞の中に送り込むのが俺たちの仕事ってわけだ。
「やることは変わらん。障害を排除しろ」
ランス級五隻が、要塞への進撃を継続したまま艦同士の距離を詰め、艦首だけに『シールド』を展開する。
要塞や、要塞から発進した『艦載機』から見れば、被弾面積が小さい、艦首の分厚い装甲に『シールド』が追加されたことになる。
要塞に搭載された大型レーザー砲や、亜光速は無理でもかなりの初速な質量弾でも、ちょっとやそっとでは破壊できない重防御だ。
なお、『フリーキャッスル』は少し離れてランス級五隻の後ろにいる。
「艦長。『艦載機』が左右に別れて挟撃を狙っているようだ。要塞からも噴射炎が小さなミサイルが大回して接近中だ」
ランス級のセンサーでも『フリーキャッスル』のセンサーでも『そこまでは分からない』ことを、リゼは『当たり前』のように知らせてくれる。
これで負けるようなら、俺たち銀河帝国の船乗りは無能の集団だ。
「助かる。さて、要塞の連中、どこまでやれるかな」
ランス級は正面には攻撃しない。
やろうと思えばできるが、この戦場では『必要ない』からだ。
要塞の攻撃はまず『シールド』で受け止め、限界で割れて長時間使えなくなる前に『シールド』を解除して分厚い装甲で要塞の攻撃を『受ける』。
結構なダメージを受けはするが『操縦室』にもそれ以外の重要パーツにも被害は届かない。
効率を極めたランス級は、全体の三割のダメージ程度では、性能へのダメージは皆無だ。
ランス級の反撃が始まる。
ARメガネで見える青い、無数のレーザーが、『艦載機』の一機へ集中する。
複数ある推進機のちょうど『半分』を狙い撃ちだ。
新装甲ではないただの装甲では、距離で減衰しているとはいえランス級五隻分のレーザーに耐えるのは不可能だ。
帰還不能の旅立ちを嫌った『艦載機』は、無事な推進機を使って減速を始め、結果として戦場から高速で遠ざかっていく。
要塞の攻撃は続く。
回復した『シールド』が再び展開され、ダメージを受けたランス級の『撃沈までの時間』が伸びる。
『艦載機』の攻撃も始まる。
残り五機によるレーザーによる『掃射』と短射程大威力のミサイルの攻撃は、普通の『巡洋艦』五隻に対しては致命的な攻撃のはずだった。
しかし、ここにいるのは大勢の元海賊や元自警団から選抜された精鋭と、機械人間という圧倒的計算能力が持つ存在が出し惜しみなしで設計したランス級だ。
少し『身をよじる』だけでレーザーの威力は広範囲に『散らされ』て装甲にまともなダメージを与えられなくなる。
ここまで温存されていた銃弾型質量弾が『適度にゆっくり』放たれ、『艦載機』が放った『短射程大威力のミサイル』を爆発させながら明後日の方向へ『押しのけて』しまう。
『艦載機』とランス級との距離は既にわずかだ。
何を狙うか、どう攻撃してどう防ぐか、艦載コンピュータでも簡易AIでも追いつかない速度で判断し決断した艦長たちが多数のレーザー砲で狙い、少数のミサイルを叩き込む。
二機の『艦載機』が『パイロット』がいる場所ごと砕かれ、三機の『艦載機』が一部の推進機を失い、なんとか恒星がある方向へ逃げていった。
「申しわけありません陛下。撤退します」
「おう。遺族年金も高いから第二星系まで確実に撤退しろよ」
中破したランス級一隻が撤退を開始する。
大きなダメージを受けた艦の超光速機関は制限が緩む。
攻撃を行わず、逃げに徹するようになった艦は特にだ。
艦首は無事でも『艦載機』により側面を傷つけられたランス級が、急減速からの逆噴射を始めて要塞から離れ始める。
狙いに気付いた要塞が攻撃を集中させるが、ほぼ無傷の艦首装甲と『シールド』を、短時間で破壊し尽くすのは不可能だ。
「いくぞ」
「「「うおおおっ!」」」
残りのランス級が要塞に向かって加速する。
『フリーキャッスル』も速度をあわせてついていく。
要塞のレーザーが艦首に集中して『シールド』を消滅させて装甲を熱で赤くする。
だがランス級はまだ壊れない。
自ら『シールド』を解除して、質量弾とミサイルの残弾全てを、要塞の一区画に叩き込んだ。
「破孔を複数確認。姫さん!」
「うむ!」
ランス級四隻が、それぞれ別の方向へ『逃走』する。
要塞が繰り出す追撃のミサイルはレーザーで打ち抜き爆発させ、打ち抜いても進み続ける質量弾やそもそも打ち落とせないレーザーは『シールド』と残存装甲で『受ける』。
ランス級とは違って『フリーキャッスル』は止まらない。
要塞が気付いて攻撃を集中させようとする。
レンズで狙いを変えるタイプのレーザーなら即座に狙いを変えることができるが、発射塔や砲の向きを変える必要のあるミサイルや質量弾ではそうはいかない。
レーザーだけが『フリーキャッスル』に直撃する。
光速なので躱すことは不可能。
『輸送艦』一隻なら全てを熱で溶かすことの可能なエネルギーは、全体を覆う新装甲を越えられない。
生身のままのリゼが『フリーキャッスル』の甲板に現れる。
リゼは魔力で全身を覆い、新装甲以上の性能でレーザーを防いでいる。
「突入する!」
リゼが要塞へ『飛び移る』。
手に持つのはヒートソードと、通信用の『アンテナ』だ。
どちらも大きいのにバランスを崩すことなく、とんでもない速度で、要塞に開いた小さな穴から突入する。
「陛下! 出撃の許可を!」
『フリーキャッスル』の船倉から、凄まじい熱意の提案が届く。
「姫さんの合図を待て」
要塞に複数開いた小さな穴から、光や煙や逃げ出した機動兵器が見えてから数秒後、リゼからの通信が入った。
「艦長! 短時間だけ戦えば終わりというのは素晴らしいな! これほど楽な戦いは、ダンジョンに入る前も含めて初めてだ!」
見た目通りの年齢の少女のように、普段は白い肌をうっすら朱に染めて熱く語っている。
その背後には『生きてはいるが明らかにまずそうな怪我をしている』重装備の兵士が無数に倒れている。
「さすがだな、姫さん」
俺は心からの賛辞を送りながら『フリーキャッスル』を操縦する。
要塞中枢からの命令が途絶しても、レーザーだけでなく質量弾やミサイルが次々に飛んでくる。
新装甲は、この銀河の戦力相手には無敵かもしれないが、新装甲以外は壊れるし消耗もする。
実は、新装甲も壊れはしなくても消耗はするのだ。
「今増援を送る」
迎撃が『薄れた』タイミングで、リゼが要塞中枢に突き刺した『アンテナ』を利用して、俺が外から要塞の『港』をハッキングして解放する。
もとは『艦載機』がおさまっていた空間だ。
『フリーキャッスル』で飛び込んでも、要塞も『フリーキャッスル』も壊れはしない。
なお、要塞内の兵器は、ネットワークへ繋がっている兵器は全て俺が掌握済みだ。
「姫騎士さまに続け!」
倉庫を開くと同時に、機動兵器に乗り込んだ帝国軍陸戦隊が要塞へなだれ込む。
様々な種類で構成されていて、塗装すら統一できていないが、熱意とリゼへの忠誠はどいつもすごい。
「おのれっ、おのれぇっ!」
聞き覚えのある男の声からその位置を推測し、リゼと陸戦隊に伝達する。
要塞司令官が捕縛されるまで、たいした時間はかからなかった。
☆
「参加ぁ、し損ねたぁ……」
この世の終わりみたいな表情をした艦長を筆頭にしたランス級艦隊が、制圧済みの要塞へ入港してくる。
既にいたランス級もあわせて十隻を越えているのに、まだ空間に余裕がある。
「艦長。ここは良い拠点だな。この星系を第三星系にするか?」
リゼは表面上は落ち着いているが、戦闘後も出しっぱなしの光翼が得意げに広がり『ぱたぱた』動いている。
「いや。できれば『剣』を確保した後、譲歩としてこの要塞は銀河共和国へ引き渡すことを考えている。姫さんとランス級艦隊があれば共和国の一方面軍には勝てると思うが、全面戦争だと契約国連合に従属するしかなくなるかもしれん」
「戦いはときに賭けも必要だが、無用な賭けをする意味はない。さすが艦長だ」
リゼは満足気に頷いた。
そしてすぐにシリアス顔になる。
「ひょっとして、この宇宙では、要塞とは弱いものなのか? 要塞を攻めると、勝っても負けても凄惨な被害が出るものだと思っていた」
「要塞が弱いというより艦が強いんだ。しっかり整備した艦なら、追い詰められた時点で超光速機関の制限が緩むからな。勝つまで挑める奴は強いぞ」
俺はリゼに説明する。
確実に逃げられるとは限らないが、ランス級のように頑丈な艦なら撤退成功確率はかなり高い。
「なるほどな。『剣』の奪取は苦労しそうだ」
「姫さんのエルザに対する『説得』、期待してるぜ」
「任せろ!」
決戦は、すぐそこまで迫っていた。




