「今回の目標は装甲だ。賊は殺して構わんが敵艦を爆散させるのは避けろ」睡眠不足のハイエナ皇帝と、無敵装甲の輸送艦
「やですー! ポーションはぜんぶ僕のですー!」
「ギョーショー。駄々をこねるでない。運転資金を全て使えば倒産するものなのだろう?」
「お船の中にある商品と技術を全部売るのです!」
「この星系では買い手も買い手の財力も足りぬ。ギョーショーは商売で成り上がるのだろう? ポーションを諦めろとは言わぬ。順番を考えるのだ」
お隣の銀河の超大国出身の商人を、無双系ファンタジーから能力を維持したまま来たような姫騎士が宥めている。
誰も口は出せない。
オークション参加者では『格』が足りないし、皇帝陛下なので『格』というより『仲裁する義務』がある俺は、現状の把握で精一杯だ。
「要するに、宝箱から出てきた品も、ギョーショーが扱っている商品も、価値が高すぎて『適正価格』ってものがないってことか」
「む。分かり易い説明だな」
リゼは感心した様子で頷いてる。
ギョーショーはポーションをかき集めて死守の態勢だ。
個人所有の財産という面ではギョーショーが圧倒的に『強い』ので、法的には制止できるんだが実際に制止しようとする者はいない。
「このポーションが騒動の原因になるとはな。私も頭では分かっているつもりだが、ダンジョンで一生分……どころではないな。もう二度と見たくないほど飲んだからな」
リゼは大きなため息を吐く。
背中の光翼が『しおしお』と力なくたれている。
「姫さん、もしかして寿命が残り何十世紀とかになってるのか?」
「分からぬ。だが、寿命が来なくても怪我か病で死ぬだろう。私は安全な場所に隠れ住んだりはしないぞ」
リゼはとにかく目立つ。
平和に生きようとしてもトラブルの方から近付いてくるだろう。
俺が、まあ、結婚してリゼを守ろうとしても、今の銀河帝国で守りきれるかどうか考えると、正直あやしい。
「がるるる!」
ギョーショーが俺たちを威嚇している。
リゼは困った顔をしている。
他の連中は、これまで俺や銀河帝国を強烈に支援してきたはずのギョーショーの『造反』に恐怖すらしている。
「なあ姫さん。そのポーションはもう手に入らないのか?」
「モンスターを倒せばドロップする可能性はあるはずだぞ。……なるほど。ダンジョンのモンスターを見つけることができればいいのだな」
リゼが『うんうん』と頷く。
ギョーショーは威嚇をやめて聞き耳を立てている。
「探して見つかるものかどうかは知らないけどな。俺は姫さんと関わる前は、モンスターなんて架空の存在だと思っていた」
「私も、あの『ミミズ』に遭遇するまでは、もうモンスターは絶滅したと思っていたぞ。ダンジョンも見当たらないしな」
俺は、そこまで言われてようやく気づけた。
ダンジョン。
それがあれば問題の多くが解決する。
新しい問題も大量に発生しそうだが、既に問題は膨大なんだから大量に増えた程度では今とほとんど変わらないはずだ。
「姫さん。あの『ミミズ』の近くにダンジョンがあったと思うか?」
「少し待て」
リゼは、自分の首にかかっているネックレスを手に取る。
大好きなご主人に呼び止められた猟犬のように、かつて魔王の剣の一部だった金属が、『どうしたの?』とリゼに反応する。
「……こやつの力ではないようだ。あの『剣』の機能……性質か? よくは分からんがそういうことらしい」
オークション後半の会場が騒がしくなる。
ポーションを『量産』できるなら、技術開発だけでなく社会情勢まで激変しかねない、と話しているようだ。
「宝箱は全部回収したわけじゃない。銀河共和国も回収していると判断すべきだろう」
「うむ。問題は、宝箱の開け方を知っているかどうかか? 私の知っているエルフなら知っていて当然だが」
「銀河共和国が宝箱を開封してポーションの効能に気付いたなら、既に銀河帝国に攻め込んで来るか、そうでなくても引き渡し要求くらいはしているはずだ。エルフ族も不老じゃないんだし、ポーションを欲しがる権力者は大勢いるはずだ」
共和国とやりあってる人類保護機構だけでなく、遠くにある星間国家もポーション狙いで遠征してくるかもしれない。
「不老ではない?」
リゼが戸惑う。
「エルフは病気や負傷以外では死なないだろう」
「……非常に! 本当に非常に! 気になる情報だが今は後回しだ、姫さん。ポーションの情報がどこまで広まってるかと、ダンジョンについて話し合いたい」
俺ができることは、話し合いが迷走しないよう、誘導することくらいだ。
「そうなのです。ダンジョンなのです!」
ギョーショーが少し冷静さを取り戻したようだ。
ポーションを確保したままだが、周囲を威嚇する様子はなくなっている。
「ダンジョンに入ってモンスターを倒してポーションを無限に入手するのです! ……でもダンジョンどこにあるのです?」
ギョーショーの発言により、議論が始まった。
「あるとしたら銀河共和国の第四十七星系と思われます。ダンジョンなら、『戦艦』複数を含む艦隊を駐留させる理由として十分かと」
「いや、もしダンジョンが存在するなら、もっと戦力を送り込んでくるのでは?」
「共和国は人類保護機構と戦争中です」
「まだ全面戦争というわけでは……」
「いずれにせよ、ポーションについての詳細な情報を知るのはこの場にいるのが全員だと思われます。共和国が知っているだとしたら、それを隠しているのだとしても共和国の動きが『温い』です」
元税関のおっさんが議論の結果をまとめてくれた。
「艦長すまぬ。あの『剣』はダンジョンに関係しているのだろう。あのとき、回収すべきだった」
「法的には銀河共和国かエルフ族の所有物だろうし、あのとき回収すれば最悪戦争だ。気にするな」
俺は当たり前のことを口にする。
欲の皮が突っ張ると当たり前が当たり前でなくなってしまうからな。
国のトップが公に発言して、責任のない奴が責任を負わされないようにするのも大事なことだ。
「とりあえず、俺たちもポーションの詳細については知らないことにする。『マジックバッグ』は銀河帝国で買い取ってギョーショーに貸与する。しっかり儲けてレンタル料も弾んでくれよ?」
「任せるのです!」
ギョーショーが目を物理的に光らせて胸を張る。
俺はひとつ頷いて答え、話を続ける。
「ジャバウォック銀河帝国は、ダンジョンの確保を長期目標にする。中期目標は艦隊戦力の増強。短期目標は装甲の大量入手だ」
ダンジョンを確保するのはゴールではない。
ダンジョンを利用して資源や利益を得ると同時に、ダンジョンを防衛し続ける必要がある。
そのための軍拡。
そのための新装甲。
そのための装甲の大量入手だ。
「そしてポーションは」
俺がポーションに言及すると、ギョーショーの目の光が暴力的なほど強くなる。
俺は、それに気づかないふりをして言葉を続ける。
「すぐに使う予定はないんだろ? 所有権は保留したまま厳重保管しとけ。どうせギョーショーがぼろ儲けするんだから、その儲けで買っていけばいい」
要するに先送りだ。
「……それでいいのです?」
「今ギョーショーに抜けられると銀河帝国の経営が傾くんだから、多少の融通は利かせるさ。今後ポーションが大量に手に入るなら、ギョーショーだって全部欲しいとは言わないだろ。ギョーショーは、何十人もマスターにするつもりはないんだろ?」
「マスターはひとりだけですよ?」
『何を当たり前のことを言ってるんだ』という顔をされても困るんだが。
「そうか。いいマスターが見つかるといいな」
「ちょっとポーターさん! マスターは見つかるとか見つからないとかそういう存在じゃないのです! いいですか? マスターというのはですね……」
とても長い、遮ると逆鱗に触れるような長話が始まった気がする。
助けを求めるためにリゼを見ると、リゼはシリアス顔だが背中の翼が『しーらない』という雰囲気で投げやりに『ぱたぱた』していた。
「陛下とギョーショーはこれから話し合いだそうだ。今回のオークションはこれで終了とする。皆のもの、ご苦労だった」
リゼの言葉に参加者全員(俺とギョーショーは除く)が納得する。
俺は今も助けを求めているし、ギョーショーは『マスターとは何か』を語るのに夢中だ。
「ポーターさん! 今大事なとこなのです!」
「艦長。差し入れは持ってくる。ではな」
逃げ出すように去っていくリゼに、俺は切ない目を向けていた。
☆
「艦長! そろそろ超光速移動が終わるぞ!」
ぼんやりした意識に、リゼの明瞭な言葉が届いた。
疲労しきって鈍くなった脳が、ようやく普段の半分くらい機能し始める。
「ああ、確か、遠征だったか? あの『魔王の剣』がある星系にちょっかいをかけるための……」
「やはり半分寝ていたか。銀河共和国へ向かうのは後だ。ここは隣の星系。名目は通商。実際の目的は現地の海賊を狩ることだ。……いけるか?」
「ちょっと待ってくれ」
画面に場所と予想敵戦力とこっちの同行艦の情報を表示させる。
辺境、小規模の宇宙海賊がいくつか、ランス級が四隻だ。
「クソっ。意識を集中しないとギョーショーの講釈が幻聴で聞こえる」
圧倒的性能を持つ機械人間が『心から切望する』存在がマスターだ。
機械人間ひとりひとりで求める属性は異なるが、要求水準はファンタジーそのものだ。
「艦長。この星系は外縁部に宇宙港があるのだな」
「ああ。珍しいが皆無では……まずいなこりゃ」
宇宙港周辺の艦の配置がおかしい。
無関係な客でも、宇宙港を警備するための護衛でもなく、他星系からの来訪者を襲うつもりの連中で、配置だ。
「陛下ぁ! 逃げてくだせぇ!」
ランス級の一隻が俺が乗る『フリーキャッスル』に呼びかけながら加速する。
宇宙港周辺の艦『ではなく』、宇宙港からの攻撃を盾になって防ぐための行動だ。
艦載レーザー砲より一回り以上大きなレーザー砲が『フリーキャッスル』を狙う。
それも複数だ。
ランス級に当たったレーザーは『シールド』で弱められてランス級の装甲を『温める』だけで済んだ。
しかし、残る全てのレーザーは、『フリーキャッスル』のメイン推進器を正確に照射していた。
「ふふ」
「くくく」
リゼと俺が気持ち良く笑い出す。
複数のレーザー砲に狙われているのに『フリーキャッスル』のメイン推進器は壊れず、融けず、機能が正常なままだ。
「良い装甲だ」
「超大国でも使っている装甲はものが違うな」
俺が寝ぼけていたのはギョーショーに付き合ったからだけではない。
予備の装甲全てを注ぎ込んで『新装甲』を作り、わずかにできた『新装甲』を『フリーキャッスル』の急所に取り付ける作業をしていた故の睡眠不足だ。
「「「すげぇ」」」
「「「馬鹿なっ」」」
ランス級の艦長たちが感嘆し、一つの星系を支配するにまで至った海賊たちが動揺する。
「今回の目標は装甲だ。賊は殺して構わんが敵艦を爆散させるのは避けろ。以上だ」
「「「たった五隻でっ!」」」
海賊たちが正体を隠すのを止めて攻撃に移る。
おそらく一隻一隻はかなり強く、操船している海賊も凄腕のはずだ。
だがこちらには、効率を極めた設計のランス級『巡洋艦』が四隻いる。
急所への攻撃を無意味にしてしまう『フリーキャッスル』だっている。
「温いですな」
「連携もしねぇとはぁ、舐められたもんだぁ」
大型のレーザー砲で集中攻撃して大火力の敵『巡洋艦』の艦橋を中身ごと溶かす。
小型のレーザー砲で分担して対空攻撃を行い、大小の敵ミサイルを迎撃して爆散させる。
艦が強いだけでなく、操船が巧みなだけでなく、元賊たちは素晴らしい連携でもって海賊どもを圧倒している。
「艦長。宇宙港も落とすか?」
「今占領しても防衛するための戦力が足りないから、適当にクラッキングして無力化する。……ギョーショーがいれば敵艦ごと手に入ったかもな」
「ギョーショーは商売のための拠点作りで忙しい。我々は我々で強くならねばな」
「ああ、その通りだ」
リゼも俺も、敵艦にまだ残っている装甲に目が釘付けだ。
脅威ではなく、自分たちを強化するための強化アイテムに見えていた。




