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借金まみれの輸送艦長、最強姫騎士の勘違いで銀河皇帝にされる ~俺のために勝手に宇宙を征服してきて、維持費と胃痛が限界突破  作者: 星灯ゆらり
第四章 戦艦なんて必要ない。最硬のオンボロ輸送艦と最強の姫騎士による、理不尽すぎる防衛戦

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「全部僕が買うのです」オークションに出品された『寿命延長ポーション』と、ヤバすぎる執念を見せる機械人間

「ジャバウォック銀河帝国国営放送、総合ニュースの時間になったのです!」


 ギョーショーの声が、オークション会場だけでなく、銀河帝国国営放送を見ている人々へ届く。


「今日はオークション会場から放送してるのです!」


 俺たちは今、宇宙港で開催中のオークション会場にいる。

 人が多すぎて、厳重に警備されているギョーショーが人の流れに押し流されている。


「隣の銀河の商品もいっぱいなのでーす!」


 俺は追いかけるのを諦める。

 ARメガネでギョーショーと連絡をとるのは簡単だが、俺はギョーショーが機械人間なのにマルチタスクは得意ではないのを知っている。


「姫さん、ギョーショーの警備はいいのか?」


「艦長。ギョーショーはひ弱な存在ではないぞ。警備が最優先で必要なのは艦長だ」


 相変わらずの姫騎士装束のリゼが淡々と言う。


「そうか」


「うむ。だから艦長は艦長の仕事をするがいい。無論、私のできることならいくらでも手伝うぞ!」


 手伝う、か。

 俺は皇帝なわけで、権力の引き継ぎ先を用意するのも仕事のひとつ。

 つまり……ああいかん、盛っているガキみたいなことを考えちまう。


「艦長。顔が赤いぞ。まさか例の件を考えているのか?」


「な、なんのことだっ!?」


「すまんが子作りは後回しだ。覚悟はしていたがギョーショーの出身地の勢力は凄まじい。最低限、石化直前の力を取り戻さねば、短い時間対抗するのも不可能だ」


 俺が赤面しているのに、リゼは甘さ皆無のシリアス顔だ。

 美少女なのに『かわいい』より『強そう』と『凛々しい』という印象なのが、出会った頃から変わらないリゼの特徴だ。

 俺は何度も深呼吸して気持ちを落ち着かせてから、顔の熱さを感じつつ、できるだけ冷静な声を出す。


「姫さんこそ俺だけでなく部下にも相談してやってくれ。銀河帝国はまだ辺境の小勢力だが、人材は結構なもんだぞ」


 海賊や自称自警団に襲われることがない、しかも税が重くない星系ってだけで、人が集まるには十分な理由になる。

 『辺境にしては』ってレベルではあるが、学者や高度な技術を修めた技術者が徐々に集まってきている。


「頼もしいな。野心はあっても裏切るつもりのない者ばかりなのも……。いかんな。ダンジョンに入る前との落差で泣けてきた」


 俺は無言でハンカチを渡す。

 普段なら俺に『ぺちぺち』程度ぶつかってくるネックレスが、今は何故か大人しい。


「しかしまあ、集まったな」


 全身毛むくじゃらだったり全身鱗がみっしりだったり、本当に色々な人間がオークション会場に集まっている。

 宇宙共和国からの輸入品や、別銀河から運ばれて来た商品が、皇帝や機械人間の保証付きで並んでいるのだ。

 宇宙共和国の品はさらなる僻地へ運べばもっと高額で売れるし、別銀河の商品はここより発展した星系なら値段は天井知らずかもしれない。

 だから、オークション会場に集まった人間の数も、持ち込まれた金も、とんでもない規模だ。


「それだけ銀河帝国が注目されているということだ。……だが艦長。この臭いは何だ?」


 目元を微かに赤くしたリゼが、金の目に困惑の感情を浮かべている。

 リゼの背中から少しだけ姿を表している光の翼も、ときどき神経質に『ぱたぱたっ』と羽ばたいている。


「俺も知らん。ギョーショー、何か知ってるか?」


 ARメガネで連絡をとってみる。


「最新! じゃないですけど向こうの銀河じゃ人気の自動調理器なのです! 乏しい物資と汚い水でもぎりぎり食べられるものを量産できる、地表世界の必需品なのです!」


「あっちにあるのが自動調理器で、バイトのねーちゃんたちが客に勧めているのに無視されてるのが自動調理器で作った料理、か?」


 あれを料理と言っていいんだろうか。

 簡単な料理をパンで挟んだものに見えはするんだが、臭いが食べ物とは思えない。


「ポーターさんも食べてください! あっちの銀河と比べて水の汚染が少ないから、びっくりするほど美味しいですよ!」


「お、おう」


 ギョーショーの性格は雑だし勢いだけで生きている部分もあるが、商売に関しては常に誠実だ。

 クソな商品を騙して買わせるなんてことは絶対にない。

 ただ、ギョーショーにとっての『まとも』な商品が、俺にとっても『まとも』であるとは限らない。


「ど、独特な味だな」


「すまぬが私は無理だ。近づいただけで鼻の奥が痛くなる」


 皇帝陛下と軍部の頂点がこんなありさまなので『皇帝陛下の顔を立てて』などの理由で食べようとする者もいない。

 臭いが強烈なものを運ぶのが仕事のバイトたちが、ちょっとどころでなく可哀想だった。



  ☆



 オークションが終わっても暇にはならない。

 今回の取り引きで縁ができた組織や有力者相手に交渉を持ちかけたりなどして、時間がどんどん消費されていく。

 いつものメンバーで集まれるようになるまで、数日もかかってしまった。


「ぜんぜん売れなかったのです……」


「ジャンルが偏ってたからだろ。兵器や素材関連の技術を売りに出せば、天文学的な値がついたと思うぞ」


「んー。そういうのはポーターさんに独占的に売って、僕のための市場を広げてもらうつもりなのです。目指せ、超ハイエンドの体なのです!」


 ギョーショーは三頭身のままだ。

 あの機械人間センパイが使っていた八頭身の体は、少なくともここにはない。


「機械人間は体を取り替えるのが普通なのか?」


 リゼは驚いた顔でギョーショーを見る。


「一生同じ体ですごすなんて、親が超絶金持ちな人だけですよ。僕は普通に生産された機械人間だから、自分で稼いでアップデートを繰り返してますよ?」


 ギョーショーは自信たっぷりに、三頭身の体で胸を張った。


「なるほどな。ギョーショーらしい、根性のある人生だ」


 リゼの表情が柔らかくなり、光の翼がギョーショーを祝福するかのように大きく広がる。

 なお、相変わらずリゼは自分の翼に気付いていない。

 重さがないっぽいからかな?


「「陛下。遅れて申しわけありません」」


 通信が繋がる。

 銀河帝国に最近移住してきた、辺境基準でかなり優秀な研究者たちからだ。


「銀河共和国方面からの情報の分析が終わりました。例の『剣』はあの星系から動いていません。また、銀河共和国の第一星系から移動してきた、『戦艦』複数を含む艦隊が駐留を続けています」


「指定された海賊についての情報をまとめました。こちらになります」


 銀河帝国周辺の星系に存在する、大規模な戦力全てがひとつの画面に表示されていく。

 本当に、壮観だ。


「僕ならひとりで調べられたです!」


「超光速通信の使用料を払うより、人を雇う方が安いんだよ」


「陛下。我々も超光速通信は使っております」


「ギョーショーが使うと、君らのときより三桁は大きいデータ量になるんだ」


 回線の向こうの研究者たちが『うわっ』という表情になる。


「あの『剣』にまだ変な力は残っているか、分かるか?」


「貴重な文化財を保護するためだけと考えるには、共和国の艦隊の動きが厳重すぎます」


「艦長。力は激減しているが、超光速移動はまだ可能なはずだ。モンスター召喚は、力が足りるかどうか分からない」


 研究者とリゼが発言する。

 俺は感謝を示すために大きく頷いてから、次の方針を皆に伝える。


「ギョーショーから購入した高性能装甲の生産技術を活かすため、近くの海賊を狩って装甲を入手する。戦闘で傷ついた、通常なら二束三文の中古装甲が超性能の装甲に変わるんだ。良い取り引きだろう?」


「新型動力の研究のために使わせて頂きたいですな」


「利用法は軍事に限りませんぞ!」


 研究者たちが興奮している。

 研究者ではない俺でも使い道を考えると『わくわく』する代物だ。

 皇帝の前だろうと興奮は抑えきれないってことだろうな。


「それは入手した装甲の量次第だ。……さて」


 会議室が静まりかえる。

 研究者たちだけでなく、銀河帝国の各部門の責任者や、銀河帝国を構成する自治体の長たちが比喩的な意味で目を輝かせる。


「オークションの後半戦だ。姫さん、頼む」


「うむ」


 リゼが、隣の部屋との往復を開始する。

 運び込まれて来るのは、いかにもファンタジー世界にありそうな、古びた意匠の宝箱だ。

 帝国で最も頑丈なリゼが開封し、様々な専門家が罠ではないことと安全を確認し、そして全ての専門家が魅入られた中身が入った宝箱でもある。


「封は切っているから開けたいものが開けるが良い。……私にとっては見慣れた品ばかりで、高く売れるとは思わないのだがな」


「リゼさん! 空間拡張された鞄と、寿命が延びるポーションのどちらかというのは、本当なのです?」


「うむ。たいして物が入らない割りに軽く引っかけただけですぐに破れる『マジックバッグ』と、外傷の即時治療がメインで寿命の延長は誤差程度のポーションだ。私は、後者だけ水代わりに飲んでいたぞ。金持ちや王族に売り払って持参金にしたいと思いながら飲んでいた記憶が、生々しくてな」


 リゼはうんざりした表情だ。

 彼女にとっては見慣れたものなのかもしれないが、寿命の延長アイテムなんて巨大勢力のトップが血眼になって探しているものだ。

 俺はまだ『寿命を延ばすよりまず生き残ること』が優先だから『すごいなー』程度の感想だが、このオークション後半戦の出席者の中にもヤバイ目つきになった奴が複数いる。


「……全部僕が買うのです」


 目を淡く光らせたギョーショーが、口調はいつもと同じでも、底冷えするような迫力とともに言う。


「空間拡張の奴は向こうの銀河との交易用で、寿命延長ポーションは向こうの銀河のお偉いさん用か?」


 俺は、空気を少しでも和らげるために、つとめて明るい声で質問する。


「何を言ってるんです?」


 ギョーショーが不思議そうに目を瞬かせる。

 異様な迫力があるのに、表情が変わらないのが恐ろしい。


「僕がマスターを手に入れたときに、僕がマスターに使うために決まってるのです。あっちの銀河には、一本も渡さないのです」


 センパイと名乗った機械人間は「ギョーショーは乱を引き寄せます」という意味のことを言った。

 それはオカルトやファンタジーの影響ではなく、ギョーショーの性格が理由ではないかと、俺は胃に痛みを感じながら思うのだった。

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