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借金まみれの輸送艦長、最強姫騎士の勘違いで銀河皇帝にされる ~俺のために勝手に宇宙を征服してきて、維持費と胃痛が限界突破  作者: 星灯ゆらり
第四章 戦艦なんて必要ない。最硬のオンボロ輸送艦と最強の姫騎士による、理不尽すぎる防衛戦

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「ロック解除を間違えると星系が吹き飛びます!」別銀河からの迷惑すぎる宅配便

 エルザは逮捕された。

 もっとも、逮捕と言っているのはエルザ本人だけだ。

 魔王の剣という特級の脅威を少ない被害で『無力化』した『英雄』の退職など、銀河共和国としては認められないのだろう。


 スカウトが失敗したのは心底残念ではあるが、リゼに対する強烈な感情は嫌というほど確認できた。

 リゼが銀河帝国にいる限りエルザは銀河帝国に敵対『は』しなさそうなので、それが知れただけでも十分な成果だ。


「エルザ、元気でな」


「お世話になったのです!」


 リゼとギョーショーは明るい態度で別れの挨拶をする。


「リゼさま! その男にはくれぐれもお気をつけ下さい! 男は貪欲な狼なのです!」


 超光速通信の通信料を全額エルザ持ちで通信が続いている。

 もうそろそろ星系外縁に到達して超光速移動が可能になるんだが、さらに割増料金になる超光速移動中も通信してきそうな勢いだ。


「すみません、監査局さんの窓口はここで良いでしょうか。はい、私がポーター・ジャバウォックです。はい、銀河帝国の、はい。そちらのエルザ総督についてなのですが……」


 俺はエルザを直接止めるのは諦め、この星系における、銀河共和国ではあるがエルザの支配下のない部署に連絡を入れた。


「お、おのれポーター!? 覚えていなさい!」


 通信室から数人がかりで連れ去られるエルザは、文明人がしてはいけない表情をしていたと思う。


「それじゃ帰るか」


「うむ!」


「僕のお船の超光速機関の調子が悪いのです。メンテでお金がかかるのです……」


 物憂げにつぶやくギョーショーは、白い飲み物が入ったグラスを両手で抱えている。

 ときどき、妙に格好をつけて、『くぴくぴ』とゆっくり飲んでいる。


「牛乳か。私も久しぶりに飲みたくなったな」


「駄目なのです! まだほんのちょっとしかとれないのです!」


 ギョーショーはグラスを抱きかかえるようにしてリゼから防衛しようとする。

 もっとも、リゼとギョーショーでは戦いは成立しないし、リゼにも戦うつもりはないようだ。

 ギョーショーを威嚇するように『飛び回ろうとする』ネックレスを、リゼが摘まんで止めていた。


「超光速移動を始める前にはまた集合してくれ。俺はそれまで積み荷のチェックをしておく」


 俺たちが先程までいた星系は銀河共和国にとっては辺境中の辺境だが、俺たち銀河帝国にとっては『非常に発展している星系』だ。

 銀河帝国だけでなく、その周辺星系にとって『極めて貴重』な商品が豊富に売られている。

 だから、かなり無理をしたが買い込んで、『フリーキャッスル』の甲板の上に大量のコンテナが並ぶことになった。


「艦長……。借金をするなとは言わぬが、増やしすぎれば返せなくなるぞ」


 リゼが、非難が半分、心配が半分という雰囲気の視線を向けてくる。


「そうですよ! ポーターさんはギョーショーちゃんからだけ買って、ギョーショーちゃんを儲けさせるのです!」


「ギョーショーのは性能は最高だが値段も性能に比例してるだろ。それに姫さん。金はいくらでも必要だろ」


 妊娠出産の間、リゼが前線に立てなくなれば部隊の戦闘力は大きく下がる。

 それを補うための戦力と、その戦力を維持するための金を考えるとな……。


「あっ! それって『男の甲斐性』って奴ですか!? アニメで見ました!」


 何故かギョーショーが盛り上がっている。


「ふふ。そういうことか」


 リゼはまんざらでもない表情をする。

 ホロムービーで主演を張れそうなリゼがそんな態度だと、相棒や部下ではなく、強く異性として認識してしまう。


「艦長。すまぬがその手の話は少し待ってくれ。ギョーショーから詳しく教えてもらってから、どう産むか決めたい」


「僕も詳しくはないですよ?」


 ギョーショーは、空になったグラスを切ない表情でみつめている。

 機械人間にとっての食べ物は嗜好品でしかないはずだが、精神的には必須の要素なのかもしれない。


「詳しくないのは私もだ。性教育を受ける前に戦争が始まったからな。それに時代も違う。学び直すのも必要だろう」


「ここが契約国連合なら、謎生物の一族か中央評議会がリゼさんをスカウトして、エリート肉人間さん用の教育を用意すると思うんですが……。普通の教育になるですけど、後で文句を言うのはなしですよ?」


 リゼとギョーショーは、連れ立って『生身で』ギョーショーの大型輸送艦に移乗していった。


「へっへっへ」


「陛下ぁ! 姫騎士さまを口説くのは順調ですかぁ!?」


 ふたりが『フリーキャッスル』を離れた直後から、護衛であるランス級からからかいまじりの通信が次々に届く。


「お前らな……」


 毒づこうとしてもうまくいかない。

 俺もそれなりに経験してきたつもりだが、ファンタジーよりファンタジーなリゼと『お近づきになる』ことを考えると冷静ではいられない。

 あれだけの美貌、あれだけの生命力、あれだけのカリスマだ。

 『我慢』するだけでも気力体力を消費してしまう。


「うらやましいですぜ!」


「我らの姫騎士さまに釣り合う男なんていやしませんからね。陛下でもぎりぎりくらいで」


「いくつになってもガキは作れるっていう奴もいるっすが、遅くに作ると色々面倒っすよ」


 ランス級の艦長どもは俺を皇帝陛下として認めてはいる。

 ただし、姫騎士リゼの夫候補としては、及第点と評価しているかどうかも怪しい。


「陛下ぁ! 権力で言うこと聞かせようとはしないんでぇ?」


「笑顔で罠を張るのは止めろ。そんなことをしたら『お前らが』クーデターを起こして姫さんを担ぎ上げるだろうが」


「おいてめぇ! 陛下に変なことを言うんじゃねぇ! 姫騎士さまはそういうの趣味じゃねえっておっしゃってただろうが!」


「ぶっ殺すぞてめぇ! ……実際にしたら陛下もぶっ殺しますんで」


 直前まで忠誠心MAXに見えていた艦長どもが、俺に対して殺意を剥き出しにしている。

 リゼのカリスマは、困るほど強烈だ。


「雑談はこれくらいでいいな。……どうだお前ら。ランス級は」


 腹と目に力を込め、艦長どもの顔と目から『内心』を覗き込むつもりで見る。

 艦長どもは慌てて姿勢を正し、帝国軍人として回答する。


「人生最高の艦です」


「性能には文句のつけようがありません。ただ、ランス級に慣れると他の艦をまともに操船できなくなる可能性があります」


「特別ぅ、すぎますぜぇ」


 名の知られた元海賊や元自警団が、優れた艦を操れる喜びと、優れすぎていることに対する懸念を表明する。


「『戦艦』ともやり合えると思うっす」


 冗談ではなく完全に本気の言葉に、俺は無意識にうなってしまった。


「似たようなサイズでも『戦艦』は超光速移動可能な宇宙要塞だ。武装した超光速宇宙船である『巡洋艦』とは別物だぞ」


 使われている技術やパーツの格が違う。

 強力な星間国家でも運用に苦労し、苦労してでも運用し続けているのが『戦艦』なのだ。


「それはその通りなのですが」


「ランス級の性能、陛下もご存じでしょう。普通の『巡洋艦』で『戦艦』と戦うのは自殺と変わりませんが、私もランス級でなら『戦艦』と戦えますよ」


 まだ発言していない艦長も、やる気は十分に見える。

 俺は、データと知っている『戦艦』とランス級の能力を思い出して比較する。


 一対一で戦えば『戦艦』が無傷で勝利。

 一対六で戦えば……やはり『戦艦』が勝利するはずだ。

 『戦艦』が小破か、中破か、大破か、どれかにはなるだろうがな。


「戦場で敵に『戦艦』がいたら戦いは避けろ。仮に『戦艦』に勝てたとしても、ランス級が激減したら星系間の連絡を維持できない。これは決定だ」


 俺は、一隻や一艦隊の勝利だけを考えていい立場にはない。

 戦場では勝った、その代わりに部下や国民は餓えました、では敗北なのだ。


「「「了解しました」」」


 俺の内心は伝わっていないはずだが、艦長たちは気合いの入った敬礼で答えてくれた。



  ☆



 リゼが頭痛をこらえている。

 俺との関係(指一本触れてない)が嫌になったとか、俺との将来を考えて頭を痛めている、という雰囲気ではない。


「時代が異なるというのは、大変なことだな」


 これまで縁のなかった新概念を知るのは、とても大変らしかった。


「リゼさんリゼさん! 時代だけじゃなくて銀河が違うのです!」


「おいギョーショー。そっちの銀河の常識を教えるなとは言わないが、こっちの銀河の常識も教えろよ」


「それはポーターさんが教えてあげてください! 僕、詳しくないことは教えられないのです!」


 会話しているうちに、俺のARメガネに『超光速移動終了まで後一分間』と表示される。

 超光速移動が終わった後は、星系外縁から宇宙港まで数日の移動になる予定だ。


「星系外縁で、宇宙港だけでなく周辺星系にも運んで来た荷について知らせる予定だ」


「またオークションか?」


 リゼが興味を持って聞いてくる。

 相変わらず、超光速移動中に見える『極彩色の宇宙』からは視線を逸らしている。


「そこまで大規模にはならないだろうがな。何度か繰り返せば、オークションではなく通常の取り引きに切り替わると思うぞ」


 理想は『少し武装しただけの民間宇宙船が星系間で商売できる』状況だ。

 今は『ランス級の艦隊で護衛しないと確実に襲われる』状況なので、遠くの星系から運んで来た商品は、オークションで大勢が奪い合うことになる。


「ポーターさん! 宇宙港から連絡です!」


「超光速通信か。珍しいな」


 ギョーショーは普段から超光速通信を使いまくっているが、銀河帝国はできる限り超光速通信を避ける体制ができている。

 使用料が、高いのだ。


「陛下。二日前の映像です」


 一つの映像が表示される。

 黒々とした宇宙を背景に慣性移動している『操縦室』(脱出艇)だ。

 座標は星系外縁より、さらに恒星から離れた場所。

 ここからなら超光速移動で『すぐ』だ。


「救難信号は?」


「ありません。我々がギョーショー殿から購入した『操縦室』とは差異があるため、所属の推測もできない状況です」


 宇宙港から報告してくる元税関職員、現宇宙港責任者が、淡々と報告してくる。


「脅威は感じぬが気配は……うむ? 薄いな。生き物ではないのかもしれん」


 リゼは小首を傾げている。

 首元のネックレスは、座標が示す場所に正確に向いている。


「あっ。ひょっとしたら契約国連合からの返信かもです! ちょっと回収してきます!」


 大型輸送艦が勢いよく向きを変え……ない。

 『牛』が二頭飼われているので、乗組員がギョーショーひとりだった頃とは違って加減速に制限がある。


「ギョーショー! ひとりで行動しようとするんじゃない! お前を狙っているのは数え切れないんだぞ!」


 俺は『フリーキャッスル』を加速させ、大型輸送艦に追いついて速度と向きを一致させる。

 正面から撃ち合えばランス級一隻よりも弱いが、荷物を満載した状態でも(推進剤が豊富ならばだが)逃げ足は速いのだ。


「でも、あれが返信なら僕が回収しないとまずいのです! 資格のない人がロックを解除しようとしたら、最悪、星系全体が吹き飛ぶのです!」


「それを早く言えっ!」


 俺は思わず怒鳴る。

 何か重要なものが封入されているのか、可能性は小さいが単純に嫌がらせ目的なのか、正直全く分からないがやることはひとつだ。


「どっかの馬鹿が近付く前に回収する! 全速力だ!」


 ランス級を少しずつ引き離しながら、『フリーキャッスル』と大型輸送艦が超光速移動を再開した。

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