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借金持ちの輸送艦長、うっかり銀河皇帝になる ~配送中の石像が伝説の姫騎士(バーサーカー)で、俺の借金返済のために銀河を征服してくるんですが~  作者: 星灯ゆらり
第三章 姫騎士に魅了された超エリート総督と、宇宙を駆けるヤンデレ魔剣の襲来

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星を滅ぼす勢いで飛来した魔王の剣、安物のヒートソードに嫉妬してショック死する

「そりゃ無理ですよぉ、陛下ぁ!」


 言葉にすれば舐め腐った態度に見えるかもしれないが、言っている本人は恐縮しきって困りきった態度だ。


「ちょっと前まで海賊やってた奴らがぁ、長い航行の間ずっと『帝国軍人』やった後の休みでさぁ。無理やり艦に戻して使い物になりませんぜぇ……」


 小柄な『巡洋艦』艦長は、年齢相応以上にふけた顔に申しわけなさそうな表情を浮かべている。


「艦長。ここは無理をさせるべき場面ではない。あれも光よりは遅いはずだ。私が使っていた頃は音より遅かった」


「リゼさま。残念ながら光速以上の速度が出ています。御覧ください」


 画面に、銀河共和国全域の地図が表示される。

 あの『剣』が封じられていた第一星系が中心にあり、俺たちがいる第四十七星系は画面の端にある。


「超光速回線の近くで大規模な昏睡事件が連続して発生しています。魔王の『剣』の割に被害は小さいといえますが、個々の事件の範囲が惑星規模です」


 地図の次々に情報が追加されていく。

 銀河共和国第一星系は人口もその密度も大きいため被害が大きく、駐留艦隊が即座に出動したが『剣』が小さすぎて見つける前に『剣』が星系外へ出てしまった。


「リゼさんが『合図』を出したときに使っていた超光速回線沿いに移動してるのです!」


 超光速回線の中継地点は全て『剣』に襲われ、大勢が体調不良になっている。

 数は様々だが、割合は九割を超えている。

 死者はゼロだが、長期の治療が必要な者が多いようだ。


「被害が少ないな。あれほどのマジックアイテムであれば、大陸規模で命が吸いつくされてもおかしくないはずだが」


「姫さんが使っていた頃は、普通の、と言っていいのかどうかは知らないが、ここまで無茶苦茶な『剣』じゃなかったのか?」


「壊さないよう気をつけても傷んでいく程度の『剣』だったぞ。当時にこんな力があれば、エルフの国を私一人で攻め落としている」


「このサイズの無人兵器ですかー。あっちの銀河でも建造コストが高すぎて実戦投入されないレベルの兵器なのです!」


 ギョーショーは物理的にも目を輝かせて『剣』についての情報を集めている。

 『剣』の移動速度は、ちょっと性能が良い『巡洋艦』程度だ。

 純粋な追いかけっこなら銀河共和国の艦隊がとっくに追いついて捕獲か撃破か、あるいは逆に撃破されていただろう。

 だが『剣』は単独であり、艦隊を構成する艦は複数だ。

 集合や連携にも時間が必要な艦隊では、補給も休憩もせず飛んでいく『剣』に追いつけない。


「陛下ぁ、こいつはまずいですぜぇ」


 これまで黙っていたランス級の艦長が、戦闘の最中のような目になった。

 エルフ族が技術と金を投入して建設した博物館をぶっ壊して飛んでくるような『剣』だ。

 戦って勝つ自信は、俺にもない。


「予想進路上に対空砲メインの『駆逐艦』艦隊を配置すれば破壊できるんじゃないか?」


 エルザに提案してみる。

 艦は非常に強力な存在だ。

 戦力に優れた銀河共和国なら、準備を整えることさえできればファンタジーな『剣』にも対抗は可能、のはずだった。


「……駄目ね。駐留艦隊は迎撃ではなく避難を強く勧めて来たわ。この宇宙港へ飛来した場合の迎撃成功確率は、良くて三割だそうよ」


「こりゃあ、姫さんに『説得』してもらうしかないか? 姫さんが呼んだわけだし」


 そう言う俺の顔は、おそらくひきつっていたと思う。


「よかろう。何故あのような姿になったか興味もあるが……」


 リゼが『にやり』と笑う。

 光の翼が『しゃきん!』と気合いが入ったポーズをとる。


「魔王の剣を我がものとするのは悪くない。正直、すごくわくわくするぞ!」


 長年憧れていたものがもうすぐ手に入ると知った子供のように、リゼは明るい笑顔を浮かべていた。



  ☆



「閣下、よろしいので?」


 エルザに確認をとっているのは、銀河共和国第四十七星系の駐留艦隊総司令官だ。

 旗艦の艦橋に招き入れられた俺たちをちらりと見て、厳しい顔に微かな困惑を浮かべている。

 二星系しか支配していない銀河帝国皇帝より『偉い』とすらいえる軍人なので、愛想はないが失礼とまではいえない。


「はい。これが被害を最も減らすやり方です。無理難題を押しつけている自覚はあります。作戦の成否に関係なく、私は作戦終了後に責任をとって辞任するつもりです」


 要約すると『リゼについていく』だ。

 総司令が「そこまで仰るなら」と納得する態度になってから数秒後、ギョーショーの目が『ぴかり』と光った。


「星系外から減速せず突っ込んできます! 進路も変わりました! 目標、リゼさんです!」


「艦長! ランス級を一隻借りるぞ!」


 リゼの姿が消えた。

 実際にはソニックブームが発生しないぎりぎりの速度で艦橋から外部に通じる『扉』まで移動中だ。


「エルザ総督。一人、外へ出る許可が欲しい」


「総司令。地方総督として正式に要請します」


 エルザのシリアス顔は完璧だ。

 ただし、リゼに対する強烈な執着の気配は隠せていない。


 総司令は本気で悩んでいるようだ。

 客観的に見ると『星系のトップである地方総督が洗脳されているようにしか見えない』からな。

 実際は、リゼを見た瞬間からヤバイ人間になっちまっただけなんだが。


 総司令が口を開こうとしたちょうどそのタイミングで、艦橋が一気に騒がしくなる。

 ギョーショーにかなり遅れてだが、『剣』の接近に気付いたのだ。


「過去の遺物にこんなものがあるとはな」


 総司令は、エルザほどではないが典型的エルフ顔だ。

 「過去の遺物」と言った瞬間には心底うんざりした表情だったので、中身は典型的エルフ族ではないのかもしれない。


「閣下、生身で外に出たゲストが……」


「亡くなったか?」


「違います! 推進機も使っていないのに他国の巡洋艦に『着地』しました! サイボーグの反応はありません! 生身ですっ!?」


 報告してきた参謀は、自分自身の正気を疑うレベルで混乱していた。


「まあ、最初に見ればこうなるよな」


「リゼさんもかなり謎生物っぽい存在ですしねー」


 俺とギョーショーは落ち着いている。

 敵基地に攻め込んでいるときのリゼと比べれば、ランス級の装甲の上に仁王立ちするリゼは、まだ常識的な存在だ。


「ギョーショー。どの方向だ」


 リゼからの通信だ。

 大気はないので実際には発音されていない。

 これはリゼの口の動きを読み取り合成した音声だ。


「ARメガネをかけてください! はい、表示しますねー」


 リゼがかけたのは俺が使っているのと同型のARメガネなのに、別物のようにオシャレに感じられる。


「超光速で動く割には、被害が出ていないな」


 俺は本音を口にした。

 超光速で動く物体は巨大なエネルギーを持つ。

 可住惑星を破壊するのも難しくはないはずなのに、これまで発生した被害は、種類としては『体調不良』のみなのだ。

 被害も被害人数も、天文学的規模ではあるんだがな。


「私の過去の戦いの真似をしているのかもしれん。地位が高い者や有名な強者はあえて殺さず、ダンジョンの奥から出口まで連れ帰らせるという戦術を多用していた。エルフ……ではなく侵入者がそこまで持ってきた物資を放棄するしかなくなる、有効な戦術だったぞ」


「リゼさまの慈愛のあらわれですね!」


「単純に時間稼ぎ目的だ。既に『敵を殺せば勝てる』という戦況ではなかったからな。……来たか」


 艦橋内では悲鳴と怒号が飛び交っている。

 よほどの緊急事態でない限り星系内では光速未満の速度しか出せないのがこの銀河の常識なのに、惑星に当たれば最低でも人間が住める環境ではなくなる『剣』が超光速で迫ってくるのだ。

 俺だって、銀河帝国の惑星にあれが迫ってきたら、同じくらいに慌てるはずだ。


「急速に減速してるのです! 今、亜光速、すごい、もう停止するのです!」


 ランス級の装甲に立つリゼと向かい合うように、鞘のない『剣』がほぼ停止する。

 空間ごと切り裂いてしまいそうな刃は決してリゼには向けず、『るんるん』と上機嫌なのが分かる動きで、柄を見せてリゼに近付いてくる。


「姫さん。いけそうか?」


「うむ。強力な付与が複数されている上に『ごてごて』と付け足されていはいるが、私の剣のひとつだ」


 『剣』の動きが『ぴたり』と止まった。

 正確にはリゼを乗せているランス級と同じ向きと速度と動いているんだが、今はどうでもいい。


「ひとつってことは、他にも剣があったんです?」


「長い間ダンジョンに籠もっていたからな。モンスターが剣をドロップすることもあった。整備中に敵に襲われたときなどは、使い慣れてはいないが強力な剣やそれ以外もよく使ったぞ」


 『剣』が『ぶるぶる』と震える。

 一時的とはいえ主を『とられた』屈辱に震えているかのようだ。


「これって脳が破壊されるって奴です? NTRなのです?」


「ギョーショー、頼むから自動翻訳機で翻訳可能な言葉を使ってくれ」


「だ、大規模な空間歪曲が発生します!」


 参謀の一人が絶叫する。

 俺が艦橋に視線を向けると、注意を促すために毒々しい色の警告表示が爆発的に増えていっている。


「ほう。ダンジョンの気配ではないか。お前も成長したな」


 優しい目で『剣』を見るリゼ。

 『剣』の震えがゆっくりとおさまり、しかし、『視線』というべき気配がリゼの腰に向いた瞬間、『剣』が軋むような『音』と『気配』が艦橋にまで届いた。


「だが力の制御が甘いのはいかんぞ。用もないのにモンスターを呼び出すのはマナー違反だ」


 リゼは愛用のヒートソードを、腰に下げていた鞘から引き抜いた。

 禍々しくも美しく、エルフ族の博物館で仰々しく封印されると同時に飾られても違和感がない『剣』とは違い、ただの工業製品であるヒートソード。

 今、姫騎士リゼの手にあるのは、『剣』ではなくただのヒートソードなのだ。


 『ぱたり』。

 そう表現するしかない、力尽きた気配が発せられた直後、『剣』は停止し異常が始まった。


 何もないはずの空間から『ずるり』と生物的な『何か』が這い出してくる。

 強いていえば、リゾート惑星の映像資料で見たことがある『ミミズ』だ。

 ただしデカイ。

 前後に長いランス級よりは短いが、普通の『巡洋艦』程度の全長はある。


「超光速移動以上、位相跳躍未満の移動ですね。ポーターさん、ランス級に射撃用のデータを送りますねー」


「おう。こっちは宇宙港に残ってるランス級も遠隔で出港させる。姫さんはどうする?」


「久々のダンジョンモンスターだ。一匹はもらうぞ」


 リゼはランス級を蹴って跳躍する。

 自然に広がった光の翼を羽ばたかせ、ランス級のメイン推進機に食いつこうとした『ミミズ』の先端を、ヒートソードから伸ばした『光』で斬り飛ばす。


「……一匹?」


 俺は違和感に気づく。

 『ミミズ』は一体しかいないぞ?


「ポーターさんポーターさん。ああいうのは群れで出現するものなのです!」


「空間歪曲さらに拡大! 来ます!」


 空間が揺れる。

 超光速機関が『超光速不可能』の警告を送ってくる。

 そして、ほぼ全てが暗黒で構成された宇宙を背景に、大量の『ミミズ』が『どばっ』と出現する。


「対象種別特定! 自力での超光速移動能力なし! 楽勝なのです!」


 ここまで着いてきたランス級と、宇宙港から緊急出港したランス級が、先端を失った『ミミズ』にレーザーを集中する。

 生々しい肉が熱で白く濁り、そこへランス級が発射した質量弾が突き刺さって衝撃でズタズタにされる。

 質量弾の効果は破壊以外にもある。

 発射の反動でランス級が『ミミズ』から距離をとると同時に、『ミミズ』を『押しのける』効果が期待できるのだ。


「全艦戦闘開始! 宇宙港と惑星に近づけるな!」


 駐留艦隊も慌てて攻撃を開始する。

 一隻あたりの攻撃力はランス級に劣るが数が違う。

 『押しのけ』られた『ミミズ』を圧倒的な火力で次々に仕留めていく。


「……あれは誰のものになるんだろうな」


 俺は宇宙を漂う『剣』を眺め、戦闘終了後の揉め事を想像してしまい、胃に痛みを感じた。

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