呼ばれて超光速で飛んでくる『魔王の剣』と、すげー面倒な事態を察知して現実逃避する皇帝
「魔王ですかー」
「魔王よりも重要なことがあるぞ。姫さんの出身地だ」
「む」
リゼが強い興味を示す。
過去のことを『気にしていない』態度をとってはいるが、リゼもある程度、気にしてはいるはずだ。
今日明日中に差し押さえや破産になるような危機的状況ではないのだから、この機会にリゼの故郷を探してもいいだろう。
「そのダンジョンというのは、エルフ族の出身惑星にあるのか?」
俺はエルザを見る。
リゼは『ハーフエルフ』だと言っていたが、エルザの外見は典型的な『大昔の記録にも姿が残っている典型的なエルフ族』だ。
「私は一応ハイエルフの直系の子孫だけど、古代の記録に直接触れられるような名門出身じゃないわ。総督になったのも一般入試を受けて出世競争に勝ち残った結果よ」
リゼに対する態度を見るとそうは思えないんだが、エルザは超エリートではあるんだ。
ただ、生まれも超エリートなのかどうか、俺は判断の材料を持っていない。
「ポーターさんポーターさん! 超光速通信を『がっつり』使っていいですか!?」
「ギョーショーお前、普段から散々使いまくっているのに、それより『がっつり』かよ」
「最低限必要な分しか使ってないです! オークションで儲けたでしょ? リゼさんの故郷探しは重要だと思います!」
「『牛』の持ち主への支払いと護衛の経費とランス級建造の支払いで全部消える。……今ある予算内ならいいぞ」
「私が聞いて良い話かしら」
エルザは困惑しているが『今さら』だ。
こいつのリゼへの執着は本物だ。
リゼにどこまでも着いていくか、リゼを奪って自分だけのものにするか、生きるのを諦めるかという生き方しかできない、と思う。
「今の職でできる範囲で力になってもらえると有り難い。優秀な文官の有無は生死に直結する。……本当に、直結するぞ」
リゼが力なくうなだれる。
個人としてどれだけ強くても、味方の支援がなければ大きなことはできない、と言いたいのかもしれん。
「地表だけで戦っていた時代のことはよく分かりません!」
ギョーショーは相変わらず空気を読まない。
「ダンジョンでも戦ったぞ。……ふむ、ダンジョンか。今でも存在するのか?」
「いいえリゼさま。モンスターが出現するようなダンジョンは、少なくとも現時点では存在しません。名門家系が秘匿している可能性はありますが、現実的ではありません」
リゼに対する信仰に近い好意と、超エリートとしての能力は両立するらしい。
リゼに対して申し訳なさそうな態度はするが、リゼに対して嘘は言わない。
「そうか。ここが遠い未来か、遠い場所か、いい加減知りたかったのだがな」
「じゃあ、ちょっと気合いを入れて調べて見ます! 僕もリゼさんにはお世話になってますからね! めちゃくちゃ役に立つところを見せて、恩に着せるのです!」
「そういうのは口に出さずにおくべきだと思うぞ、ギョーショー」
俺が突っ込んでもギョーショーは聞きもしない。
通信費引き落とし用の口座の残高が勢いよく減っていき、室内の画面が切り替わる。
そのうちの一つは、リゾード惑星ほどではないが、非常に環境の良い惑星だ。
「あら懐かしい。エルフ族の主星系ね」
銀河共和国第一星系の別称だ。
共和国内でエルフがどれだけ勢力を持っているかの証拠でもある。
「リゼさん。大陸の形に見覚えはあるです?」
「私は、大陸の形を知る立場になかった。エルフの大陸に渡るのも密航だった」
「エルフ族の方が強かったのか」
俺が尋ねると、リゼは言葉を選ぶのに迷ったようだった。
「私が密航する頃には、人類対それ以外という形になってしまったからな。私のような騎士が一つ二つ戦線を突破しても、それ以上の数の戦線が押し込まれるという破滅的状況だった」
「エルフの側からすれば、もう少しで勝利という状況か。……エルフが勝利したと思うか?」
「最期の頃の記憶は曖昧だが、私も最終的に石化させられた。エルフのいる側が勝ったのは間違いないと思うが、人類が殲滅されたかどうかも、エルフを含む連合で内部分裂が起きたかどうかも分からない。内部分裂が発生するまで、時間を稼ぐ方針だったがな……」
石化される前のリゼがどんな時代を生きていたのかは正直分からない。
ただ、リゼがかなり高度な教育を受けていたのは間違いないと思う。
今の時代だって、普通の庶民は知識限定でもリゼには勝てないだろう。
「次、魔王についての情報を出しますねー」
ギョーショーはいつもと変わらない軽い態度だ。
そして、新しく表示されたのは魔王の関連情報だ。
娯楽作品から権威のある学術論文まで、俺の視力では見辛い密度で情報が並んでいる。
「エルフ族にとって、魔王というのは邪神か悪魔のような存在なのか。私がそれほど強ければ、勝利か終戦を私自身の手で導く展開もあったのかもしれんな」
「魔王の情報量が多いな。種類もか。恐ろしい化け物から、肌色が多いねーちゃんまで、本当に色々だ」
エルフ族の主星系という、銀河共和国の中心領域にある大都会の流行は、なかなかに刺激的だ。
俺はちらりとリゼを見る。
体の線も分かるし色っぽくはあるが、鎧としての機能はある、一応は実用品だ。
「ふふ。私も可能なら美しい鎧や剣を装備したかったとも。持参金まで溶かしても、ドワーフからの密輸品を買うのが精一杯だった」
リゼはそう言って、愛用しているヒートソードを軽々と持ち上げる。
別に危険な行動ではない。
機動兵器や基地の壁を切断できるのはリゼの技と力があるからで、発熱していないときは『鋭い刃も尖った部分も存在しない鈍器』なのだ。
「あのときに、これほどの業物があればな」
「あの、リゼさま。それは傭兵や海賊が使うような廉価品ですよ? 言って下されば私が良い剣を用意します」
エルザは既に発注を始めている。
エルフ族の名門貴族しか客にしない超絶有名工房も、地方総督という超高官なら相手にするらしい。
「待て、エルザ」
「待ちます!」
それでいいのか銀河共和国地方総督、と言いたくなる従順さだ。
「生身の人間用の武器では軽すぎるのだ。人間用の剣を扱う店に注文するのは、嫌がらせにならないか?」
「……そうなの?」
エルザは俺を見て意見を求める。
「俺は生身の戦いはさっぱり分からないぞ。陸戦隊の扱いも含めて、姫さんに全権を委任済みだ」
「ギョーショーちゃんもさっぱりです! あっちの銀河って、基本的に艦同士の戦いで勝負が決まっちゃうので!」
ギョーショーの情報流出対策は相変わらず壊滅的だ。
「あっちの銀河」と聞いた瞬間、エルザの顔に隠しきれない驚きが浮かんでいた。
「私はこの剣が気に入っている。整備が簡単なのも、予備の用意が容易なのも含めてな。それより、魔王についての情報は他にないのか。作り話にしては、なかなかに面白い」
リゼの表情は、いつも通りの『余裕たっぷり』だ。
ただし、いつの間にか肩から光の翼が『ちょっとだけ』現れていて、興味を隠しきれない様子で『ぱたぱた』している。
「はうっ」
光の翼があるリゼを見てしまったエルザが、顔を真っ赤にしてよろめき、リゼに支えられ、幸せな顔で『とろけて』いた。
「ちょっと待ってくださいねー。超光速通信の節約のため、この星系で買えるデータはこの星系で買っちゃいます! あっちの星系でだけ見れるデータは……ありました!」
新しく表示されたのは、どこかの博物館らしい光景だ。
規模は本当に『馬鹿でかい』。
「エルフ族の博物館? 懐かしいわね。学生時代に行ったのが最後だけど、相変わらず……。ねえ、エルフ族の博物館って、エルフ族じゃないと入館できないし、回線越しの観覧は族長クラスの許可が必要のはずよ」
「ばれなきゃ犯罪じゃないのです!」
「あの、私、銀河共和国の地方総督なのだけど」
別銀河のハッカーとエルザが漫才めいた会話をしている間も、リゼは心底楽しそうにエルフ族の博物館を回線越しに眺めている。
「見覚えのある物はあるか?」
「ないな。銀河帝国よりはるかに古いが、私が生きていた時代よりはずっと新しい。技術や文化がどう変化したのか分かって、実にいい!」
リゼは、この宇宙を『はるかな未来』と確信したのかもしれない。
「魔王の剣というのも展示されてますよ! そこです!」
ギョーショーが別の展示区画を表示させる。
そこには、このあたりでは販売されていない強力な『シールド』で厳重に抑え込まれた、恐るべき切れ味と禍々しさを感じさせる剥き出しの『剣』があった。
「ほう」
光の翼が完全な形で現れ、ゆったりと、神々しく輝いている。
「姫さん、あれを使っていたのか?」
「補給なしで破壊工作中の騎士が、あんな立派な剣を使える訳がなかろう」
「そりゃそうか」
「あの剣から感じる力には、不壊、不滅、周囲からの命の吸い上げなど、魔王が持つにふさわしい能力がいくつもある。私の『剣』に付与されていたのは帰還のみだ」
リゼは懐かしげに微笑み、画面に映し出された『剣』へ手のひらを向ける。
「大型のモンスターを倒すときには深くに埋まってしまうことが多くてな。戦いながら引き抜くのは危険なので、戻って来いと言うだけで」
リゼの言葉の途中で画面が乱れた。
ランス級の『シールド』の最低でも数倍は強力なはずの『シールド』が、全てまとめて消し飛んでいる。
解き放たれた『剣』が、画面のこちら側ではなく、どこか別の方向へ高速で飛んでいく。
少し遅れて、強固な建造物が破壊される音が聞こえた。
「……戻って来いと言うだけで、手元へ戻ってくるマジックアイテムだったぞ、うん」
「リゼさんが手放した後に魔改造されちゃったのでしょうか」
「理想の姫騎士が魔王! なんて……いい!」
ごまかすリゼ。
興味深そうなギョーショー。
はしゃいでいる超エリートエルフ。
「うん。とりあえず銀河共和国から離れよう。このまますげー面倒なことに巻き込まれる気がする」
既に手遅れなことに気付いた上で、俺はそんなことを言っていた。




