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借金持ちの輸送艦長、うっかり銀河皇帝になる ~配送中の石像が伝説の姫騎士(バーサーカー)で、俺の借金返済のために銀河を征服してくるんですが~  作者: 星灯ゆらり
第三章 エルフの総督と、ヤンデレ魔剣の襲来

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14/21

初めての『牛』に怯える機械人間と、姫騎士の褒め言葉で気絶するエルフ総督

「わーんっ」


 ギョーショーが家畜に追われている。

 確か『牛』と言うんだったか?

 食肉用の家畜に直接会いに行って、何故か今は追いかけ回されている。


「そいつは一頭でも超高額だから傷つけるなよ!」


 俺の足では追いかけられないので、俺はドローンの視界とスピーカーを借りている。


「そんなっ!? ギョーショーちゃんが食べられちゃいますよ!? 宇宙の大損失ですよっ!」


 機械人間は正面からぶつかるだけで押し返せるはずだが、ギョーショーには生身で戦うという思考がないらしい。

 だから興奮した『牛』におびえて逃げ惑い、家畜区画にぶつかりダメージを『与えて』いる。

 勘弁してくれ。

 家畜区画の修理費も安くはないんだぞ。


「ギョーショー、何を遊んでいる」


「リゼさん!」


 他の『牛』の面倒を見ていたリゼが声をかけると、ギョーショーは比喩的な意味で顔を輝かせ、物理的な意味で目を輝かせた。

 ギョーショーを『牛』からかばうリゼの表情は複雑だ。


「純粋に食料として育てるか。何度見ても慣れんな」


 リゼはヒートソードの柄に手を伸ばすこともなく、じっと『牛』を見つめる。

 小柄な三頭身のギョーショーとは違い、気配からして普通の生物ではないリゼに、『牛』は命乞いをするかのように大人しくなった。


「このー、おどろかせてー!」


 『ぺちぺち』と、ギョーショーが手のひらで『牛』の肌を叩く。

 赤くなりすらしない。

 間接的とはいえ戦争に関わるギョーショーが非殺主義とは思えないが、生身のまま他者に危害を与える文化がないのかもしれない。


「ギョーショー、やめろ。ストレスで肉がまずくなったらどうする」


 俺はふたりと一頭に追いつくのを諦め、家畜区画の入口に座り込んでいる。

 ハッキングや艦の操縦なら何時間でもぶっ通しでする自信はあるんだが、家畜の相手は勝手が違いすぎてもうへとへとだ。


「肉がまずく……」


 ギョーショーの目が高速で点滅する。

 この後に『牛』がたどる運命をようやく理解して、自分の口に両手を当てて『ぷるぷる』震えだす。


「暴力反対なのです!」


「その『牛』を赤ん坊の頃から育てた連中からの伝言だ。一族の食料や水の割り当てを減らしてなんとか育てた食用『牛』だから、高く売ってもらえないと子供たちにもひもじい思いをさせることになる、だそうだ」


「でもぉっ……」


「うーむ。肉食を忌避する者は、私が住んでいた場所にも少数だがいたぞ。騎士や戦士は、肉を食わねば筋肉が育たぬ故、選択肢はなかったがな」


 リゼが『牛』を『牛舎』に誘導する。

 『牛』は大人しくついていっている。


「まあ、俺も本物の『牛』を見るのは初めてなんだがな。食肉だけ生産する食肉工場産のしか食べたことがないし」


「僕は『牛』を見たのは初めてなのです! 肉人間さんとも違って面白いのです! あ、でも、やっぱり殺すのは嫌です」


 本当に子供のようなことを言う奴だ。

 だがまあ、これまでギョーショーが提供した物と知識の価値は、銀河帝国が支払った報酬と俺からのお小遣いを上回る価値がある。


「ギョーショーもオークションに参加したらどうだ」


「そこは可愛いギョーショーちゃんにプレゼントとか言いません?」


「そういうセリフは俺の口座残高を見て言えよ、ギョーショー。銀河帝国が傾いたら『フリーキャッスル』も俺も借金のカタに売られるかもしれないんだぞ」


 これが冗談なら良かったんだが、本当の話だ。

 ランス級の量産は、銀河帝国の戦力拡大という意味では最高の一手だが、俺個人の財政という意味では破滅的な一手でもある。


「立ち上げ直後の国など、どこもそんなものだぞ、艦長」


 リゼが平然としているのは、大きすぎる数字が理解できていないからかもしれん。


「ギョーショーも、あまり我儘を言うでない。ペットを飼っていいのは無理なく飼える数までだ」


「でもー」


 俺は、リゼとギョーショーの会話を聞きながら、『牛』の生産者から預かった『取り扱い説明書』を眺めていた。

 すると、全く知識になかった情報が目に飛び込んでくる。


「牛乳? 乳……あの乳か? 飲用って、『牛』の乳を飲むだと!?」


 嫌悪はわかない。

 ただ、理解できない。


「ぎゅーにゅー? 牛乳!? あの、契約国連合放送局が放送していたアニメに登場した、あの牛乳です!?」


「品種は違うと思うが、おそらく?」


「艦長もギョーショーも何を言っているのだ。牛の肉も乳も普通の食べ物だ。驚くならせめてモンスター食材にしろ。それに、食用牛だと乳牛と違って量が……」


 リゼが参加して話がますます混乱してくる。


「うおおお! ここが契約連合勢力圏なら、アニメファンとグルメな人たちがあちこちの銀河腕から集結しますよ!」


「隣の銀河まで輸出できればよかったんだがな。それと姫さん、長年の品種改良で肉がうまいだけでなく乳も出るらしい。全部受け売りだがな」


「そうか。光より速く飛ぶのに比べれば、たやすいことなのかもしれんな」


 リゼは、感じ入ったように何度も頷いている。

 そうしているうちに、予定の時間が近付いてきた。


「宇宙海賊に襲われないとはな」


「姫さん、明らかにヤバイ『巡洋艦』艦隊に守られた輸送艦なんて、よほど大規模な宇宙海賊でない限り襲わないって」


 俺達が乗る『フリーキャッスル』は、八隻のランス級により護衛されている。

 『フリーキャッスル』も含めてかなりの高速であり、複数の宇宙海賊が連合して襲おうにも、連合交渉がまとまるまでに俺達は遠くへ去っているわけだ。


「リゼさんにお熱のエルザさんですかー。僕、会うのが楽しみです! エルフさんに会うのは初めてなので!」


 『牛』の背中によじ登ったギョーショーが、嫌そうに身をよじった『牛』に振り落とされていた。



  ☆



 銀河共和国第四十七星系第一宇宙港。

 地方総督の所在地でもあるそこは、『ジャバウォック銀河帝国』の本拠よりも大きく、美しく、そして強大な戦力で守られていた。

 宇宙港全体を覆う『シールド』も、亜光速ミサイルが飛んできても撃ち落とせる質と量の対空砲を装備した重武装『駆逐艦』艦隊も、今の帝国では用意できない高級品だ。


「お待ちしておりました! リゼ様っ!」


 そのトップが眼の前にいるエルフだ。

 銀河共和国の中心領域で流行っているらしいスーツを着こなし、エルフ族らしい美麗な顔に歓喜の表情を浮かべている。

 細いエルフ耳は興奮で赤くなっていて、それを『たまらないほどの色気』と認識する人間は多いだろう。

 俺はリゼという例外すぎる存在を見慣れてしまったので「相変わらずだな」としか思えなくなっているが。


「直接会うのは初めてだな。改めて名乗ろう。『ジャバウォック銀河帝国』で姫騎士をやっているリゼだ。こちらは艦長……んんっ、ポーター・ジャバウォック陛下だ」


「どうも。星間国家を始めたポーターだ。護衛まで停泊させてもらって悪いな」


「ようこそ。銀河共和国地方総督のエルザ・アマーリーです。……ポーター艦長がトップでないならもう少し厳重にしたわよ。あなたは特別善人ではないけど、信頼や信用を安売りする人間ではないでしょう?」


 文字にすれば誠意ある有能な政治家で文官に見えるかもしれないが、熱烈な視線をリゼに向けたまま俺は目を向けない。

 相変わらず趣味に生きてやがる。


「しかし、こんな派手な出迎えをして、監査局とやらに睨まれたりしないのか?」


「監査局は過激な人類至上主義団体の監視と浸透阻止で手一杯よ」


 エルザの声は、俺の位置でかろうじて聞こえる音量だ。

 至近距離にいるリゼにも、物珍しげに『儀仗兵』を眺めているギョーショーにも、もちろん聞こえている。


「本物の『牛』を運んできた、それなりにまともな新興国からの使者というのは、最近なかった明るいニュースなの。悪いけど有効活用させてもらうわよ?」


 リゼの左腕に絡みつくようにして、リゼに密着しながらの発言だ。

 俺は、どんな反応を返せばいいんだ?


「ひとつの星系を預かった政治家として見事な態度だ」


 リゼは本心から、爽やかな態度で断言する。

 エルザが「あっ」と幸せそうな声をあげて、白目を剥いて気絶していた。



  ☆



「それじゃお前ら、半数は艦に残って、もう半数は宇宙港で遊んで来ていいぞ!」


「「「さすが陛下!」」」


 宇宙港の儀仗兵と比べると宇宙海賊にしか見えない帝国軍兵士が『わらわら』と艦から降りて宇宙港の商業区画へ走っていく。

 飲む打つ買うを堪能するつもりだな、あれは。


「姫さん、そっちはどうなっている?」


「エルザを寝かしつけた。……他国の騎士を自身の寝室に招き入れる許可をあらかじめ出しているとは、これはどう解釈すればいいのだ」


 いつもは即決即断のリゼが困惑している。


「俺だって分からねーよ」


 俺も困惑している。


「ポーターさんポーターさん! ここって人類保護機構とは別の国ですよね?」


「ああ。銀河共和国は人類保護機構と戦争している最中だぞ。まさか、何かいたか?」


「いえ、人類保護機構が言いそうなことを言っている団体が複数いるみたいです。いいんですかこれ?」


「銀河共和国は庶民への締め付けが特に緩い国だからな。経済と文化が発展していて国力は高いが、政治は不安定ってのが特徴だ」


「不安定程度ですめば良いがな。一度合流を……すべきなのだが」


 『絶対に離さない』という覚悟でエルザにしがみつかれたリゼは、色気が全くない状態でエルザに添い寝している。

 リゼがエルザを軽く揺すって起こそうとしても、エルザは「うへへ」と幸せな寝言を言うだけで決して力を緩めない。


「他国のお偉いさんとのコネは重要だし、エルザは是非スカウトしたい人材だ。万一襲われるようなら反撃していいから、すまんがしばらくそこにいてくれ」


「エルザからは邪な気配は感じないから構わないぞ。妖しい気配ではあるがな」


「ありがとう。俺とギョーショーは『牛』のオークションの手筈を整えておく」


「むむっ! 僕に懐いてくれた『牛』さんは僕が買い取ります!」


 『人類至上主義』が流行り始めた星系で、俺たちは活動を開始した。

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