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借金持ちの輸送艦長、うっかり銀河皇帝になる ~配送中の石像が伝説の姫騎士(バーサーカー)で、俺の借金返済のために銀河を征服してくるんですが~  作者: 星灯ゆらり
第二章 新たなる星系と、別銀河からのセールスマン

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味方の艦ごと解体して新型艦を造る機械人間と、ハッタリで星系を守り抜く姫騎士

「これは俺の艦だぁ!」


「い、いくら陛下といえどこれだけはっ」


 二人の『巡洋艦』艦長が、死の覚悟を決めた顔で俺に対している。

 リゼは「素晴らしい気合いだ」という顔で満足そうに、ただし何かあれば即座に二人の首を飛ばせる位置にいる。


「お前ら話を聞け。一度、艦を総とっかえするって言ってるだろうが」


「俺の艦だぁ!」


「そんなこと言って『巡洋艦』を手放したら戻ってこないんだっ」


 自警団として、宇宙海賊として、高い実力と大きな悪名を持っていた二人が、駄々っ子のように抗議を続けている。

 しまいにゃリゼに『やれ』って命じちまうぞ、こいつら。


「ポーターさーん! まだ話がまとまらないんですかー? いくらギョーショーちゃんが天才エンジニアでもあるといっても、時間がないと改造が間に合いませんよー?」


 ギョーショーは冷却水(本人はそう言っているが俺が知る冷却水と同じものなのかは分からない)をグラスからストローで飲みながら、相変わらずの上から目線で言う。


「少し待ってくれ。……だからだな、ギョーショーから技術提供を受けて、ちょっと性能が良くて建造と維持のコストが安い艦に換えるんだよ。売り払う『巡洋艦』は性能だけ上げて価格をつり上げるってわけだ」


「艦長。こやつらも戦士だ。素晴らしい武器を与えると言っても、実物がない状況で取り上げようとすれば抗議するのも当然だ」


「そう言われると俺が悪者みたいだな」


 だがリゼの発言には説得力がある。

 いくら権利や特権があっても、部下の感情を完全に無視する行動は、多くの場合ろくでもない事態に繋がるからな。


「ギョーショー。先に一隻、組み上げられるか?」


「まとめて作らないと安くなりませんよ? 僕は天才ですけど、ハカセみたいな天才の中の天才じゃないですし」


 誰だよハカセって。

 聞くとまた長い説明を聞かされそうだから、とりあえず聞かないでおく。


「……そいつはぁ、どんな艦なんでぇ?」


「ギョーショーさんの腕は疑ってませんが、ことがことですし」


「おい。なんで俺の言葉で納得しなくてギョーショーが顔を出しただけで話を聞く姿勢になるんだ」


 俺の文句は聞き流された。

 俺は皇帝陛下のはずなんだがな……。


「完成予定図がこれです!」


 ギョーショーの背後の画面に、まだ完成していない『新型巡洋艦』が表示される。

 操縦室、居住区画、推進器、超光速機関、倉庫、装甲と、各種兵器で構成された、この銀河の技術で作られ『る』艦だ。


「うひょっ」


「すごい……」


 艦長たちの目が『ぎらり』と光る。

 『新型巡洋艦』には無駄が存在しない。

 戦闘や過酷な航行でどこかが壊れても別の箇所が代わりをするような『余裕』は、むしろたっぷりとある。

 その上で、配置があらゆる意味で考え尽くされ、運用コストの低さと高性能が両立している。

 まるで同型艦を数十世紀使い続けられて改良し尽くされたような、機能美があった。


 まあ、外見は味も素っ気もない『円錐』型なんだが。


「持ち手があればランスだな」


 リゼが真剣な表情で見ている。


「伝説の『おうまさん』に乗って使う武器のことですか?」


 ギョーショーは興味津々だ。


「うむ。私には馬を飼う余裕などなかったから、ダンジョンで適当に馬型のモンスターを捕まえて使っていた。……ダンジョンでの出来事が、懐かしく感じられるようになるとはな」


 リゼは、懐かしさというには苦さが濃い表情と雰囲気だ。


「いいですねランス! こうするのです!」


 完成予想図が変更される。

 円錐の『底』から、銃床とは違うが武器の一部にしか見えないものが伸びる。

 なるほど。

 装甲と推進器と対デブリレーザー砲の複合体か。


「おぉ」


「ふわぁ」


 元宇宙海賊や元自警団が『夢見る少年のような』表情を浮かべている。

 正直、気持ちは分かる。

 高性能艦ってのは、たまらないよな。


「これからは『ランス級』と呼ぼう。銀河帝国制式巡洋艦『ランス級』だ」


 いよいよ銀河帝国っぽくなってきたな。

 リゼは深く頷き、『ランス級』の艦長たちは歓声をあげている。


「しかし、ギョーショーは本当に天才エンジニアだったんだな」


「いえいえ、実はカラクリがありまして! あっちの銀河では超光速戦闘が基本なので、こっちの銀河の光速未満の戦闘が基本な艦の設計って簡単なんです。条件を少しずつ変えながらの計算なんて、僕みたいな機械人間にとっては手癖でできる単純作業ですし」


「そっちの銀河の肉人間は大変そうだな。俺だと仕事がなさそうだ」


「それについてはノーコメントなのです……」


 楽に生きられる場所は存在しないってことだな。


「艦長。帝国艦隊はこの艦で統一するのか? 統一すれば一隻あたりの価格がかなり下がるという話だが」


「ああ。全軍は無理でも外征用艦隊は統一したいな」


 俺はギョーショーを見る。


「無理を言わないでください! ギョーショーちゃんが全部作るのは無理です!」


「自動化工場は無理なのか?」


「完全自動化だと工場のコストが増えちゃいます! 肉人間さんが得意なところは任せた方が効率が良いですよ。あと、ギョーショーちゃんはパイロットでエンジニアで商人ですけど、政治家じゃないですからね? 生産体制づくりとかはポーターさんでお願いします!」


「分かった。……楽はできないな」


 俺は一度大きく息を吐いてから、会議の閉会を告げる。

 次の会議はこの星系の重鎮たちとだ。

 この星系を『ジャバウォック銀河帝国』の第二の星系にするため、話し合うべきことは無数にあった。



  ☆



 片手で握手しながらもう一方の手で殴り合うのが文明人という奴がいるが、俺は断固として反対する。

 あいつらを文明人とは認めねえ!


「艦長。疲れているときは良くないことを考えるものだ。今は休め」


 俺の護衛として会議に出席し、俺の処理能力が追いつかなくなってからは俺の代理として交渉にあたったリゼが、とんでもなく優しい目をして俺に語りかける。

 疲労した俺にはとてもよく効いて、すがりついてしまいそうになる。


「ジャバウォック銀河帝国国営放送総合ニュースの時間になったのです!」


 そんな、柔らかくもしっとりした空気はギョーショーの空気を読まない声で吹き飛んだ。


「今日は記念すべき日なのです! 帝国の拠点が増えました!」


 ニュース番組の撮影場所は、ギョーショーの大型輸送艦内の一区画を使った放送スタジオだ。

 辺境の星系とは思えないほど設備が整っているが、ギョーショーいわく『あちらの銀河ではパイロットなら個人で持てる設備』だそうだ。


「んー? 何か文句が届いてますね。でもそういうことですから!」


 ギョーショーの背景の画面が切り替わる。

 旧式の、外惑星にある宇宙港だ。

 俺が、この星系の有力者との交渉で勝ち取った『人類保護機構の襲撃に備えるための銀河帝国星系外拠点』でもある。

 リゼが頑張ってくれはしたが、この星系は名目だけ銀河帝国の傘下に入るだけで、ほとんど納税もせずに銀河帝国の軍事力の庇護下に入ることになってしまった。


「俺の失敗だ。姫さんを利用してエルザを騙してでもスカウトすべきだった」


「それも良い案だと思うが、まあ見ていろ」


 今のリゼは、ギョーショーに匹敵するほど得意げな表情だ。


「ちょうどいい場所にあるので、ランス級『巡洋艦』の生産拠点にしちゃいました!」


 旧式宇宙港から三隻の円錐、いや、ランス級の『巡洋艦』が出航する。

 加速力が高く、見るからに装甲が分厚い。

 そして、旧式宇宙港から射出された装甲済み標的を、『巡洋艦』にしては強力なレーザーで『蒸発』させる。


「ジャバウォック銀河帝国は星系の平和を守るのです! 今日中に四隻目ができるので楽しみなのです!」


「えぇ……」


「ギョーショーが頑張ってくれたのだぞ。後で褒めてやれ」


 強力な艦の生産工場と、そこで生産された艦隊がいきなり星系に現れたのだ。

 誰がこの星系の真の支配者か、誰の目にもはっきりと分かる。


「できるなら最初から教えてくれよ。交渉のとき、俺、胃が痛かったんだぞ」


 つい、泣き言を言ってしまった。


「すまぬ。だが、私もギョーショーも確信は持てなかったのだ。ぶっつけ本番で突貫工事に成功したギョーショーの功績は大きいぞ」


「そうだな。小遣いも増額してやらないと」


「うむ。それと、人類保護機構からの鹵獲艦の『駆逐艦』と、帝国艦隊の生き残りを全部解体して材料にした」


「おい!」


「『巡洋艦』三隻と『フリーキャッスル』だけでは、複数の賊が現れたときに手が足りぬ。今日中に一隻、明日中に二隻が完成するそうだから、それまではったりでなんとかするぞ!」


「姫さん、あんた実は結構雑な性格だな!?」


 これが『ジャバウォック銀河帝国』が二つ目の星系を手に入れた顛末だ。

 技術はギョーショーのおかげで特上。

 陸戦隊はリゼのおかげで元々最強だが、強力な艦隊も手に入った。

 だが、星間国家レベルの文官や交渉人が皆無だ。


「エルザ総督に会いに行く。スカウトもしたいし、銀河共和国と戦争にならないよう条約を結んでおきたいしな」


「あのハーフ……んんっ、エルフ族か。スカウトを成功させねばな!」


 上機嫌なリゼの声を聞きながら、俺は新たな遠征計画の立案を始めるのだった。

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