敵艦をハッキングする輸送艦長と、データにない自爆装置を「勘」で物理破壊する姫騎士
艦内で強力すぎる兵器は使えない。
そんな常識は『普通に戦っては勝てない』相手が乗り込んだ時点で消滅する。
「艦長! 私の後ろへ!」
リゼが眩しく輝く。
特に眩しいのは背中から大きく広がった翼であり、羽の一枚一枚に幾何学的な文様が切り替わりながら浮かんでいる。
「レーザー、いや金属ビームを使いやがったか!」
俺の表情がひきつる。
宇宙服を着込んでいるのに熱と臭気を感じた気がした。
リゼが展開した『盾』は、貫かれてはいないがリゼに後退を強いている。
「艦長、通信用コネクタが見当たらんぞ!」
「賊と正規軍は違う。少しはセキュリティに気を遣ってるんだろ」
一度だけ深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
それから、ARメガネから引き出した細いケーブルを『ビーム』で開いた穴に見えるケーブルへ突き刺す。
普通ならこんなことをしても艦内ネットワークへの接続は不可能だが、ギョーショーから購入した『計算機』を利用することで無理矢理に接続を成功させる。
「よし繋がった」
『計算機』は「違法利用の疑い有り」と表示して動作を停止してしまったが、ここまでくれば問題ない。
この場所で『巡洋艦』を奪うつもりはないのだ。
一時的に使えなくするだけで十分。
戦場全体で勝ってから、じっくりハッキングしてもいいのだ。
「艦長! 通路が塞がっていくぞ」
「そりゃ俺の操作だ。……まだ目視できない場所しか動かしていないんだがな」
艦橋の機能を停止させた上で艦橋クルーを艦橋に閉じ込め、敵陸戦隊増援が俺たちへ近づけないよう隔壁を降ろしていく。
「ポーターさんやりますね! 見直しました! ハッキングの初歩もできるんですね!」
通信越しに届くギョーショーのはしゃいだ声を聞いて、俺は肩をすくめた。
一応、クラッキング技術だけなら、星間国家の情報部門からスカウトが来る程度の技術があるのに、ギョーショーにとっては『初歩』か。
「姫さん! 気合いが入った奴らなら手動でしか動かせない『自爆装置』を使うかもしれん!」
「なるほど、この動きはそれか。すぐに向かう!」
だん、と爆発にしか聞こえない音と衝撃が発生する。
『巡洋艦』という比較的大きな船でも、リゼの圧倒的身体能力の前では『狭い』船でしかない。
ヒートソードが一閃するたびに壁や構造そのものが『すぱり』と切れて、リゼの五感と勘によって見抜かれた『自爆装置』とそれに向かう軍人たちが次々に無力化されていく。
「えぇ……? データ上には存在しない『自爆装置』をどうやって見つけてるんです?」
「姫さんに直接聞いてくれ」
「リゼさんなら答えてくれるでしょうけど、僕に理解できるかなー。謎生物に質問しても高確率で理解不能なんですよね」
「姫さんは人間だぞ。多分」
「不思議生物さんたちも分類は肉人間ですよ。極まった個体は予知とか現実改変とかしてくるだけで」
「契約国連合ってのはファンタジー国家かよ」
俺が『巡洋艦』をデータ的に占領し終えたのとほぼ同時に、複数の『自爆装置』を始末したリゼが戻ってくる。
「艦長! 外ではこちらが不利なようだ。増援に向かおう」
「分かった。すまんがまた運んでくれ」
今度は横抱きにされた。
リゼの腕の中から見上げるリゼの顔はひときわ美しく、どうにも落ち着かなかった。
☆
「銀河帝国ばんざぁい!」
断末魔じみた悲鳴をあげて、一隻の艦が爆発四散した。
その中から、『ギョーショー』から購入した『操縦室』が飛び出してくる。
脱出艇を兼ねた操縦室であり、異様な頑丈さと換装のし易さを兼ね備えた『商品』だ。
「あれって契約国連合の超ベストセラーなんです。僕も簡易生産キットを持ってるので、場所さえあれば新規に生産可能ですよ!」
ギョーショーは熱心に売り込んでくる。
『お試し』価格で安くしてもらったのにかなりの額だった。
だが、忠実で実戦経験を積んだ乗組員の価値を考えれば、買うしかない。
「また借金が増えるな」
「荘園の経営もそんなものだぞ。いずれ利益がでる分、部隊の維持経営よりはマシだ」
『巡洋艦』一隻の内部を物理的に圧倒した超戦士とは思えないほど、リゼのテンションは下がっている。
「『巡洋艦』二隻は売り飛ばして運転資金にするしかないな」
『フリーキャッスル』に戻った俺たちは操縦室に駆け込む。
自動で更新され続けていた戦況画面には、巡洋艦一隻を中心にまだ『駆逐艦』十五隻が健在な敵艦隊と、奪取に成功した『巡洋艦』を中心に抵抗を続ける『駆逐艦』級七隻が映し出されている。
かなり減らされたな。
「やりましたぜ、陛下! 姫騎士さま!」
巡洋艦艦長に成り上がった小柄な帝国軍兵士が、ぼろぼろになった機動兵器に乗ったまま親指を立てる。
「たいしたもんだ」
「うむ。強力な敵艦を我が物としてより強力な敵に立ち向かうとは、戦士として理想の一つよな。艦長、見捨てるでないぞ」
「当たり前だ。伊達や酔狂で陛下なんてしてないってこと、見せてやるよ」
『フリーキャッスル』が戦闘機動を再開する。
ボード型輸送艦は高価な割りに、輸送艦としては平凡な艦だ。
だが、積み荷を減らしたときは平凡とは正反対だ。
板状にコンパクトにまとめられた本体と推進器と装甲が、純戦闘艦に近い性能を発揮する。
兵装の大部分が甲板上に剥き出しだがな!
敵艦隊が、動きを再開した『フリーキャッスル』に気付く。
遠くからレーザーで『炙られる』が、甲板のレーザー砲にたっぷり塗られた『対レーザー塗装』が融けたり蒸発したりするまではまだ余裕がある。
「次は機雷か? ミサイルか? 質量弾でもいいぞ!」
十二のレーザー砲が、遠くの『駆逐艦』の推進器のひとつだけを狙う。
距離による減衰は激しいがレーザー砲十二基の集中攻撃だ。
しかも、真正面から撃ち合いをしている敵の背後に回ってからの攻撃。
面白いように当たって推進器が機能を失い、敵艦隊がこちらの艦隊の動きに追いつけなくなっていく。
反撃が来る。
敵の『巡洋艦』だけでなく『駆逐艦』も武装が豊富だ。
ある程度自力移動可能な機雷や、一度発射すれば勝手に敵を狙うミサイルや、艦の後部に取り付けられたレールガンからの質量弾が『フリーキャッスル』へ迫る。
「焦っているのか? わざと下手に撃ってこちらの隙を誘っているのか?」
レーザーで迎撃するまでもない。
メインの推進器ではなく進路変更用の小型推進器を使って進路を小刻みに変えて、実体のある攻撃を全て躱す。
いや、ミサイルは一度俺に躱された後に戻って来ようとしたので、一度だけレーザーを使って破壊する。
「艦長。実は指揮は苦手か?」
「俺は正規の軍人教育は受けたことがないからな。一隻を操縦するときの方が上手なのは確かだ」
このまま撃ち合っても勝てる状況になった。
だが俺は銀河帝国を考える必要がある。
具体的には、戦闘終了後の支払いだ。
「ポーターさん! 僕への支払い、だいじょうぶです?」
「巡洋艦三隻全てを鹵獲すれば余裕をもって支払いできるはずだ」
「三隻とも戦闘や流れ弾でダメージすごいです! 買い取り金額、だめじゃないですか?」
「……ときに真実は人を傷つけるものだぞ、ギョーショー」
「支払いされないと困るのは僕なんですけど! ギョーショーちゃんのお船、維持費いっぱいかかるんですけど!」
「艦長、ギョーショーもだ。まだ戦闘中だぞ」
リゼにたしなめられて、俺もギョーショーも反省した。
反省して落ち着いたから気づけた。
「敵艦隊のミサイル発射筒の角度を確認してくれ。宇宙港へ向いていないか?」
俺にはリゼのような圧倒的五感も、ギョーショーが言う『謎生物の予知』も持っていない。
ただ、これまえ身につけた知識を経験が『すごくまずい』状況だと主張している。
「亜人どもめ! お前たちに捕らわれるくらいなら出し惜しみはせぬ!」
ミサイルが発射された。
その加速も、最終的な速度も異様なほど速い。
「亜光速ミサイル!? 正気か!?」
俺たち『帝国艦隊』に宇宙港防衛を強制して、その間に逃げるか『帝国艦隊』に攻撃する気か。
この場で勝つことだけを考えるなら無視して攻撃を続ければ良いが、そんなことをすればこの星系における『帝国』への好感は反転して憎悪と軽蔑に変わる。
クソが。
どうする?
「お前たちはここでクソども食い止めろ! 俺は宇宙港を防衛する!」
緊急事態を察知した超光速機関の制限が緩む。
宇宙港のぎりぎりまで超光速移動可能になったが、宇宙港の防衛戦力と合流しても迎撃できるかどうかは分からない。
亜光速は速すぎる。
運動エネルギーが天文学的なだけじゃなく、迎撃に使える時間が短すぎる!
「ドン引きです! 可愛くて賢すぎるギョーショーちゃんを追い回すのはぎりぎり我慢できますけど、これはライン超えです。絶許です!」
ギョーショーはたまにわけの分からない言葉遣いをすると、俺は現実逃避で考えてしまった。
「可住惑星を破壊する可能性がある攻撃と判断して武力介入するのです!」
宇宙港に停泊中の大型輸送艦(ギョーショー艦)の装甲が『開く』。
レーザー砲にしか見えないものが二基、宇宙港の監視カメラと回線と経由して見える。
俺の知識と本能が、『あればヤバイものだ』と叫んでいた。
「ギョーショー! ハッキング、いや、クラッキングによる亜光速ミサイルの無力化は可能か? ミサイル再利用は考えなくていい。宇宙港とかに被害が出ないのを最優先にしろ!」
「……あっ。今のなし! なしなのです!」
『びゅんっ』という勢いで装甲が閉じる。
ギョーショーが目を『ぴかぴか』させながら、この銀河より技術が進んだ銀河の技術でクラッキングを行う。
光速の九割に達していてミサイルが進路を変えて、恒星の周囲を何度も回りながらゆっくり速度を落としていく軌道へ乗った。
「艦長、今のは」
リゼは、緊張した表情で俺に尋ねる。
「亜光速ミサイルより危険なものかもしれん。今は、この戦闘を終わらせることに集中しよう」
敵の切り札が消えた戦場では、一気に流れが変わった。
「『巡洋艦』三隻目ぇ!」
「俺が艦長だぁっ!」
動きの鈍った『駆逐艦』の群れを突破した『帝国艦隊』が、敵の唯一の『巡洋艦』を取り囲む。
賊や自警団暮らしが長かった連中は、艦隊同士の撃ち合いよりこういう戦いに慣れている。
捕獲完了まで、数分しかかからない。
「今すぐ降伏するなら命だけは助けてやる。抗戦するなら捕虜になった場合でも宇宙港に引き渡す。……そのときは死ぬだけで済むとは思わないことだ」
現在、宇宙港では人類保護機構に対する憎悪が渦巻いているはずだ。
ギョーショーが介入しなければ、亜光速ミサイルで綺麗さっぱり吹き飛ばされていたはずだからな。
降伏信号が次々に届く。
敵『巡洋艦』からは最後まで降伏信号は届かなかったが、新しい『艦長』による挨拶が届いた。
「艦長。宇宙港から銀河帝国への加入条件についての問い合わせと……借金返済についての情報共有の要請が届いているぞ」
「艦隊戦の次は交渉か。頭が痛くなるな」
数が減った『帝国艦隊』が、三隻の『巡洋艦』を含む元人類保護機構遊撃艦隊を曳航して宇宙港へ向かった。




