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口座残高を溶かす機械人間と、電波ジャックで超大国に喧嘩を売る「銀河帝国」国営放送

 艦首の装甲がレーザーを浴びて赤熱している。

 星系中の賞金稼ぎが集まって、『フリーキャッスル』と大型輸送艦に襲いかかってきたのだ。

 『多種族の会』が運営していた奴隷買取所を占領して被害者を救出したまでは良かったが、その情報は瞬く間に拡散した。

 占領開始から占領完了までに、『多種族の会』の非合法部門による偽の救援要請がばらまかれた結果だった。


「『ジャバウォック銀河帝国』を名乗る非合法勢力が民間人を誘拐して奴隷取り引きを行っていたという情報が届きました」


 この星系で最も知名度の高いメディアの星系全域放送だ。

 超光速通信網という金のかかる手段まで使って偽ニュースを拡散している。

 こいつらも『多種族の会』、さらにはその後ろにいる人類保護機構の影響下にあるってことだろうな。


「むかー!」


 ギョーショーは全身を使って威嚇のポーズをとっている。

 この種の悪意に触れた経験が少ないのかもしれない。


「姫さん、被害者の内訳は?」


「人間は少ない。人類保護機構の構成種族が少ないという意味だ」


「少ない、だけか」


「うむ。同族の奴隷にも需要はあるということなのだろう。……どこも変わらんな」


 苦々しく美麗な顔を歪め、リゼは重い息を吐いた。


「被害者の証言を放送すれば流れも変わるだろうが、これ以上被害者に負担を負わせるのは、な」


 心身ともにぼろぼろの被害者がほとんどだが、極少数「証言でも何でもするから奴らを地獄へ落としてくれ!」という人がいる。

 だが、そういう形で復讐を果たした『後』を考えると、彼らに協力を仰ぐのは、できれば避けたい。


「僕がやります! 偽ニュースには偽ニュースです! これでも僕は契約国連合放送局就職を目指していたんです!」


 ギョーショーの奴、見た目は三頭身なのに中身は普通の人間だな。

 機械人間にも就職とかがあるとは、世知辛いな……。


「なら好きにやれ。銀河帝国国営放送を名乗っていいぞ!」


「わーい! マスターには全然たりないですけど高ポイントですよポーターさん!」


 ギョーショーの目が『ぴかぴか』と光る。

 その直後から通信が不安定になった。


「『多種族の会』の主要メンバーを全員登場させちゃいます! あれ、この人は『多種族の会』の裏の顔しらないみたいだから駄目ですかー」


 ARメガネに強い警告が表示される。

 高速通信回線の使用料金が、俺の口座残高を消し飛ばす勢いで増えているという警句だ。


「おい、ギョーショー!?」


 慌てて止めようとするが、遅かった。

 口座残高がゼロになるだけでは止まらず、自動で『フリーキャッスル』を担保に借金まで負った。

 だが、それだけの価値はあった。


「すまん。偽情報に踊らされた」


「この落とし前は必ずする。先にそちらの用事をすませてくれ」


 名の知れた賞金稼ぎたちが攻撃を止めて急速後退する。

 しつこく『フリーキャッスル』を攻撃しようとする賞金稼ぎもいるが、その数も質も貧弱だ。


「こっちは被害者を病院に運んでるんだ。邪魔するなら痛い目にあってもらうぜ!」


 甲板のレーザー砲を操作する。

 コンテナの数が激減しているので、十二の対艦レーザー全てを一つの目標に集中可能だ。


「おらよ」


 突撃してきた賞金稼ぎの艦の、推進機一つだけを焼き潰す。

 直進が不可能になったフリゲートサイズの艦が、横回転を始めながら横へそれてどこかへ飛んでいく。


「相変わらず良い腕だ、艦長」


「姫さん、相手が雑魚すぎるだけだ。……宇宙港を一気に制圧する。説得よりこっちの安全を優先しろ」


 無関係の人間の犠牲を覚悟し、責任を負う覚悟を決める。

 巻き込みたくはないが、人類保護機構のノリで動く組織に、奴らにとっての人類以外への配慮を求めるのは非現実的だ。

 宇宙港ごと人質にとるという展開すらあり得るので、今は速度が重要だった。


「艦長、そう心配するな。私も心得はあるが、我らの陸戦隊はなかなかの戦巧者だぞ。襲撃に慣れているだけとも言うがな」


「はっはぁ! 宇宙港襲撃は宇宙海賊の華でさぁ!」


 今は帝国軍の陸戦隊どもが、やる気十分で盛り上がっていた。



  ☆



「止まってくださーい!」


 哀れにも銀河帝国帝国陸戦隊(元宇宙海賊)の前に立つことを強制された宇宙港警察が、ロープでぐるぐるにされた上でその場に放置されたり、頭だけ出した状態で瞬間接着剤で固められたりして放置されていく。


「みなさん手際がいいですね!」


「帝国軍に採用された時点で被害者への賠償金を払わせたが、あいつら犯罪全部を申告しなかったんじゃないか?」


 手際が良すぎる。

 俺が『ぎりぎりで縛り首じゃない』と判断した連中、実は『縛り首を数回やっても足りない重犯罪者』だったかもしれない。


「罪は功で相殺でよかろう」


 リゼの声は届くが位置が分からない。

 魔法でステルスしているのではなく、いつも以上の速度で宇宙港中を飛び回っているからだ。

 移動のたびにソニックブームは発生するわ、床でもある宇宙港外殻が歪むわで大騒動だ。


「危険な気配の持ち主から優先して倒しておく。ギョーショー、怪我人の輸送は順調か?」


「はい! みなさん運ぶのも手際がいいです。経験豊富ですね!」


「どこで経験を積んだかは考えたくはないな」


 宇宙港の状態が表示された画面を見る。

 混乱は予想以上に大きく、しかし奇跡的に人死『は』出ていない。

 怪我人は凄まじいがな。


「ポーターさん! 『多種族の会』のボスが逃げます! 追いかけて捕まえましょう!」


 ギョーショー騒ぎ出す。

 大型輸送艦が勢いよく半回転し、部隊間の通信を維持するため艦内に残っていた陸戦隊を振り回す。


「駄目だ」


 俺は意図して強い口調で言う。

 ギョーショー不満を隠さないで俺を見るが、この件については譲歩できない。


「これ以上は戦争になる。帝国と人類保護機構は宣戦布告なしで戦争が始まってるようなもんだが、ギョーショーがこれまでしてきたのは『人命救助』だ」


「今さらだと思いますよ?」


「今さらでも形式ってのは大事だぜ。隣の銀河からの客人が戦争にどっぷり頭までつかるってのは外聞が悪い。ギョーショーが来たんだから迎えも来れるんじゃないか? 知らせも送ったんだろ?」


「問題はコストですよコスト。僕が送ったような『情報』だけなら、位置が正確に分かっているなら『個人レベル』で高額なだけです。でもですよ、人間一人運ぶなら『星系国家レベル』でお金がかかりますし、僕の輸送艦を運ぶなら『星間国家レベル』で大金が必要です!」


 ギョーショーは、未開の地の人間に懇切丁寧に話しているかのような態度だ。

 相変わらずの上から目線だが悪意はない。

 だからこそ余計にたちが悪いとも言えるが。


「だが実際、ギョーショーはあのデカイ艦に乗ってここまで来ただろう?」


 ギョーショーは、心底言いたくなさそうな顔になる。

 目の光も気弱に明滅している気がする。


「制御に失敗して吹っ飛んでいるところに、奇跡的に恒星の重力に引っ張られた感じです。運も実力のうちとはいいますが、ギョーショーちゃんの運はあれで使い果たしちゃったと思います……」


 それが本当だとしたら奇跡的な運の良さだ。

 ギョーショーが嘘を言っているか、ギョーショーの記憶が偽物だと考えた方が、明らかにリアリティがある。

 だが、そんな嘘や偽記憶に何の意味があるのか。

 ギョーショーの艦は飛び抜けた性能を持つ。

 俺たちの国が十分な国力を持っていれば、不十分なリバースエンジニアリングでも、銀河は無理でも銀河腕の覇権は見えてくるレベルの超性能で超技術だ。

 お隣の銀河の超大国が怖いから今の所は手を出す予定はないが、可能ではあるんだ。


「運か」


 リゼと出会えた時点で運も悪運もこれ以上ないほど極まっている。

 そこにギョーショー増えた程度で驚くことはない、と思えるほど肝が太くないんだよな、俺は。


「運ですよ運。機械人間と肉人間さんのエリートが力をあわせて計算しつくした結果が、『運』とか『神秘』とかあるんじゃないかな、って結論ですし」


 俺から見て圧倒的に技術が進んでいる国から来た機械人間が、物好きのオカルト趣味者のようなことを言っていた。


 『多種族の会』は姿を消し、大勢の元奴隷の存在が知れ渡り、この星系における人類保護機構への好感度は地に落ちた。

 だから銀河帝国に加入しよう、とはならない。

 『ジャバウォック銀河帝国』は単一の星系で構成された星系国家にすぎず、人類保護機構の遊撃艦隊に勝つのは難しいと思われているのだ。


「後は艦隊戦で勝てばこの星系は帝国へ下る。後少しだぞ、艦長」


 リゼが不敵に笑う。

 俺は、リゼから元気をもらったかのように『にやり』と笑う。


「なら、挑戦状といこうか」



  ☆



「ジャバウォック銀河帝国国営放送総合ニュースの時間になったのです!」


 偽ニュースとは違い、ギョーショーはギョーショーのままニュースに登場している。

 机、椅子、背景のホロディスプレイの全てが『フリーキャッスル』からの貸し出しなのに、奇妙なほど『しっくり』くる。


「そして解説の姫騎士さんなのです!」


「姫騎士のリゼだ」


 一番目の星系から美容関係のスタッフが派遣され、文字通り寝る間も惜しんでリゼの化粧と服装を整えた。

 結果、現れたのが美の暴力だ。

 挨拶して超然と座っているだけなのに、それだけで見る価値がある。

 ある程度見慣れた俺でも『こう』なのだから、リアルタイムで周辺星系にリゼの信奉者が現れているかもしれない。


「銀河帝国はここに宣言します! 人を攫って奴隷にする人類保護機構はダサいです! って陛下が言ってました!」


「うむ。姫騎士として陛下のお言葉を直接聞いたぞ」


 そういう意味のことは言ったが、そんな言葉遣いはしなかったと思うんだが……。

 なお、俺は別の部屋にいるのでニュースに登場していない。


「では次のニュースです! 陛下が僕のお小遣い値上げ申請を却下しました!」


 ギョーショーがやりたい放題するだけのニュースだが、銀河帝国を上げ、人類保護機構を下げる方針だけは徹底している。

 人間ですらないギョーショーが馬鹿にしてくるんだ。

 人類至上主義の人類保護機構が沈黙を貫くのは不可能だ。

 舐められたままだと色々やりづらくなるのは、国も宇宙海賊も同じだからな


「攻めて来ないなら来ないで構わん。特大の星間国家相手に一歩も退かない国という評判は、遊撃艦隊を撃破するよりもデカイ戦果だからな」


「って陛下が言ってます!」


「ギョーショー! 中継するなら許可をとれよ!」


 俺が慌てて止めるが、一度リアルタイムで放送されたものは手遅れだ。

 辺境に位置する無数の星系に、銀河帝国の名が響き渡った。

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