三十七、解明とアラン様の努力とルカの耳 ピクピク
アラン様の厚い胸板に顔を埋めていたら、息が苦しくなってきたので顔を上げた。
「あの……。もう分かってしまったと思いますが、僕は魔法が使えます。黙っていて、ごめんなさい」
使えないと誤魔化していた。アラン様に嘘をついていて嫌だったけれど、目の前で使ったので正直に言って謝る。
「ああ……。【魔法が使える】ということは、特に平民は利用されやすいから黙っていて正解だ」
正解……。アラン様にそう言ってもらえると嬉しい。
「それに。屋敷に、強力な結界を張ってくれただろう? ニールは気が付かなかったが、俺と魔法使いのリヴァイは分かった」
「あ!」
あのアラン様のお屋敷に、結界を張ったときに気づかれていた。そうだよね……。思いっきり魔力を使っていたし。
あれ? でも魔法使いのリヴァイさんは、気がづくのは分かるけどアラン様は……?
「たぶん知られたくないと思って、俺とリヴァイは黙っていた」
黙ってくれていたんだ。
「ありがとう、御座います」
二人の優しさに嬉しくなる。
「今回の子供達がさらわれた事件で、よく似た事件を思い出した。調べてみると、十三年前にルカを助けたときの事件とまったく同じだった」
「あのときの……」
アラン様は僕の両方を掴み、体から離した。
「はっきりと言う。十三年前の事件も今回の事件も、君の実の父君が黒幕だ」
僕はアラン様の、眉間のシワが深まるのをジッとみた。この頃は厳しい表情もなくて、穏やかに微笑んでいたのに……と、言われた意味を理解したくなくてアラン様のことを考えてしまった。
「だっ……て、僕。十三年前にさらわれた」
どういうこと? 父が命令して僕をさらった? でもまだ半獣人と知られてなかったはず。
「父君は獣人を嫌っていた。獣人の子供ばかりじゃなく、小さな子供をさらって悪いことをしていた」
ぐっ……と、肩を掴んだ手に力が入った。
「偶然、君がさらわれてしまったんだ」
あのとき……森で、一人で遊んでいた。そこでさらわれた。貴族の子供、と言われていたのを思い出した。
「まさか自分の子が、さらわれると思ってもみなかったのだろう。他の子供達の救出作戦と別に、単独で君を助け、自分の言う通りに金で動く者に依頼した。当時の団長と副団長だが、俺が数年後排除した」
父様が……。愛情がほぼ無かった父様。そんなことをしていたなんて。酷い。
母様は、知っていたのだろうか? 知っていたなら……きっと父様を、とめていただろう。
アラン様は若くして、騎士団の腐敗を一掃したという。並大抵の努力じゃない。それに、争いが始まってしまって国を平和に導いた。
そんな凄い人が僕を……。
「アラン様。まだ人々の、獣人への理解はありません。かなり誤解をされていることがあります」
「そうだな。獣人に会ったことが何回かあるが、皆の言う狂暴さは無かった。誤解されている方が多いだろう」
何回か会ったことがあるのか。……半獣人の僕はどうなのだろう。
「僕は半獣人です。中途半端な、そんな僕でも……。いいのですか?」
改めて話すと緊張する。聞かなきゃ良かったのかな。
「もちろん。……調査書を読んで、十三年前のルカと今のルカが同じ人物だと分かってからも、だ」
「アラン様……」
どうしよう。嬉しい!
「あと、ルカは時々……」
ん? 時々……なんだろう? アラン様はクスリと笑う。
「屋敷でリラックスしていたとき、耳が見えていた」
「……ええっ!?」
僕はアラン様のお屋敷で嬉しくて、うっかり耳を出してしまってたらしい。しまった……。
「きっと耳が見えていたことを言ってしまえば、ルカは離れてしまうだろうと思って黙っていた」
アラン様はどうしてそんなに、僕のことを理解しているのだろう。
その通りだ……。指摘された時点で、屋敷にはいられなかったはず。
「コホン! その、とても……」
とても? なんだろう。何だか言いにくいことなのだろうか? 嫌だったのかな……。そうだったら悲しい。
「ピクピク動いていた耳は、可愛かった」
「かわ……、可愛かった?」
今度はアラン様が赤くなった。え、……可愛い?
ちょっと眉間のシワが、深くなるのが不思議だ。
アラン様は、スッ……と立ち上がった。
「家の中は、あちこち壊れて酷いな……。これじゃあ、暮らせないだろう。俺の屋敷に、そのまま延長で過ごしてくれ」
差し出した手を取り、助けてもらい僕も立ち上がった。
「ひどい。ぐちゃぐちゃだ……」
窓ガラスは割れているし、キッチンの壁は壊れているし……。あれ? 僕が壊した?
でも兄様がその前に、ぐちゃぐちゃにした。
「修理しなきゃ、暮らせない」
幸い、お店は荒らされてなかったので良かった。でも、修理費用はどうしよう……。
家の中を見て落胆した。
「ルカ、頼みがあるのだが」
「はい」
アラン様が腕組みして、僕に話しかけた。
「今度、詳しくは言えないが重要な任務を騎士団に依頼された。そのとき、魔法加護のついた武器防具が大量に必要なんだ。ぜひルカに、加護の付いた武器防具を注文したいのだが、いいだろうか?」
アラン様から大量注文がお願いされた。僕としても助かる。
「もちろん、加護を付けた魔法使いの名は秘密で」
ニッ、と笑う。
「はい! 喜んで注文をお受けいたします!」
立つと身長差があるので、僕は上を向いている。
「あと……」
「あと他に何か?」
大量注文の他にも、何かあるのかな?
「俺の屋敷にずっと暮らしても、いいからな」




