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二十三、抱擁(ほうよう)〜アラン視点〜


 

  新人に騎士団を呼びに行かせたのは、戦闘経験の無い奴がいきなり襲いかかってきた悪人に対処できないからだ。

 相手は倒す気で襲ってくる。

腕の差があり、余裕があればとどめを刺さなくてすむのだが無理だろう。


 新人がここから離れた頃を見計らって倉庫の鉄柵を力任せに剣を一振りし、真っ二つに切った。

 そうして俺は単身で乗りこんだ。


「誰だ、貴様は!」

 絵に描いたような悪いやつ。いきなり話もしないで、長剣で切りかかってきたので受け止める。

 ガッ! キィィン!

横に長剣をいなした。手から離れた所で相手の腹に膝を食らわせる。

「ぐっ!」


「どうした? かかってこい」

仲間の一人が倒されて、怖気(おじけ)ついたのかジリジリと後退りしている。

 早く子供達を助けて、ルカに会いたいのにまどろっこしい。


「ひぃ! うわあああ!」

 ヤケクソになって向かってくる。俺の相手ではない。

「ひ、怯むな! 一斉にかかればヤれる!」

 うわぁあああ!

俺は十人ほど向かって来る男達をみね打ちで、なぎ倒した。


「ルカ……」

他に潜んでいる敵はいないか? 雑然と置かれた荷物の中を進み、辺りを見回してさらわれた子供達とルカを探す。


 ドカ――――ン!

「なっ!?」

 足元から響く、爆発の振動と音に驚く。皆は無事か!?

 ふと、地下へ続く扉が目に入った。


 ここか?

俺は迷わずその扉を開けた。階段? 地下とは怪しい。何も飾りのない、むきだしの両壁に挟まれた階段を急いで駆け下りた。


 バンッ! バンッ! バンッ!

また破壊音が聞こえる。皆は無事か!


 階段を降りてみると目に飛び込んできたのは、壊れた鉄の檻の残骸と、奥に壁が無惨に壊れて外の景色。

壊れた際に拡がっただろう土煙が、呼吸を乱した。

 

「アラン、さま」


 ルカの声がした。目を凝らしてみると、ルカが男に腕で首を締められていた。


  「ルカ!」

 頭で考えるより先に体が動いていた。迷いもせず、その男の首を一刀両断しようとしていた。

 だが……。ルカを汚したくなかった。

苦しんでいるルカの顔を見て、さらに悲しませたくなかった。


 とっさに剣を持ち替えて、拳で男の顔を殴った。


男はルカを離して、床に倒れていった。

「ケホッ! ゴ、ゴホッ!」

「ルカ! 大丈夫か!?」

 ゴホッゴホッ! と咳込み、苦しそうで顔色が悪い。骨は折れてなさそうだ。


 俺は床に膝をついてルカを抱き起こし、携帯している小型の水入れのフタを開けた。

「水だ。飲めるか?」

 ルカの唇に水入れの口を近づけた。

「くだ、さい……」

 コホッ! とまだ咳をしていたが、俺が水入れを傾けてやると、コクコク……と水を飲んだ。


「ぜぃ……ゴホッ! 子供達全員、コホッ。無事に逃げて、騎士様達に保護されてます……ゴホッゴホッ!」

「分かった。無理するな、ルカ」


 首を見ると、締められた首の場所の色が変わっていた。床に倒れている男に、殺意が湧いたが我慢した。


「ルカ、もう大丈夫だ」

 くたり……と安心したのか体の力が抜けたルカを、俺は抱きしめた。

「アラン、様」

 俺の騎士服の胸あたりを、キュッと力ない手で握った。酷い目にあった。


「心配した。無事で良かった」

ギュッと抱きしめてルカの頭を撫でた。ルカのローブは、あちこちが汚れて破れていたのに気がついた。

 

「早く帰ろう、ルカ」

医師に診察してもらいたいし、頬もホコリで汚れているからお風呂に入らせてやりたい。着替えもさせないと。


 ルカは少し落ち着いてきたが、歩くのはキツそうだ。

「抱き上げるが、いいか?」

 俺が……、運んだ方が良さそうだ。念のため、ルカに確かめた。腕の中で、コクン……と頷いた。


 庇護欲感情が湧き上がってきたが、ルカの顔色が悪すぎる。まずはここ地下から抜け出せないと。


 

「……おやおや。情けないですね。使えない奴ほど金の話をするって本当だ……」


 倒れている男では()()、後ろからこの場に似合わない感情のない声が聞こえてきた。

 

「貴様は誰だ?」

ルカに気を取られすぎて気配が読み取れなかった。


 男は黒いローブを羽織り、明るい金の髪色をした背の高い青年。俺よりは若そうだ。

階段をゆっくり降りて、立ち止まる。

「本当に使えない……」

床に倒れている男に向けて、スッ……と人差し指を上げた。

「何をする気だ……!?」


「私のことをペラペラと話されたくないんだよね……」

「ゔぁ!」

黒いローブを着た男は、床に倒れている男に魔法をかけた。男は悲鳴をあげた。


「それと……」

黒いローブを着た男はルカに向かって人差し指を向け、魔法を唱えた。

「やめろ!」

 俺はルカを抱きながら床に転がって、魔法を避けようとした。


「残念。私の方が早かった」

 ははっ! と笑い、微笑んだ。


「私の事を話そうとしたり、書こうとしたら激痛が襲うようにしたよ。無理やり聞いても、声が出せなくようにもね」

「何だと!」


「……アンタは、何? 邪魔しないでよ。気分悪……」

 そう言って黒いローブを着た男は、降りてきた階段を登って行ってしまった。


「……相当な魔力持ちだ。恐ろしい」

あと、人を使い捨てする冷酷なもの言い。何者だろう。


「……ルカ! 大丈夫か!?」

ルカは、黒いローブを着た男に魔法をかけられてしまった。

「あの、人は……、ああああ――っ!」


「言わなくていい! 言うな!」

やはりルカは魔法をかけられていた。あの人物に関わることを話したりすると、激痛が襲うらしい。

 何て、魔法だ!


「アラン様……ごめんなさい」

ルカは俺に謝ってきた。

「謝るな……。無事で良かった」

俺はルカの背中と、両脚裏に手を回して抱き上げた。……軽い。軽すぎる。

 

  あまり食べていないのだろうか?

 俺はルカを心配しながら地下から脱出した。

 

 

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