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45-3話

「それで、今までどうしていたの?」


 姫香が尋ねると、ヒロミが声のトーンを落として応じる。


「NSCに拘束されて、取り調べを受けていました。法務省などは国家転覆を扇動し、大量殺人をおこなったこの身体を壊すべきだと主張したようですが、鏑谷先生が身元引受人になるという条件で解放されたのです」


「そうなんだ……」


 鏑矢博士の傲慢な姿勢を思い出すと、あまり気分は良くなかった。身元引受人となったのも、自分の研究のためだろう。


「……宗像博士が身元引受人ではダメだったの? あの人も原子力村の人よね」


 ヒロミの表情が曇った。彼女は「秘密ですよ」と念を押してから、宗像博士が独断で東京都の地下に広がる外殻地下水路に液体核燃料を入れたポッドを隠したために、事件後、政府の怒りを買っているのだと説明した。


「なるほどね。大人も大変だ」


 姫香は彼女に同情を覚えた。


「彼女は大丈夫ですよ。総理に呼び出されたので、みついてやったと自慢していました。研究所を首になることもなさそうです。交換条件というわけでもありませんが、私がカガミノ船の調査研究に参加して古代技術の解明に協力することで、宗像博士ともども、東京への核持ち込みと船の解体が許されるようです」


「政府の言うことを信じるの?」


「今のところは」


 彼女がウインクした。どうやら思うところがあるらしい。


「ねえ……」姫香は話を変える。「……私が王の血をひく人間と話していたけど、本当なの? その王って、誰の事?」


 このひと月、比呂彦を失った喪失感にさいなまれていた。一方で、自分が王の血をひく者だと彼が言い残したことに、胸のうずきを覚えていた。


「それはオオモノヌシ、アトランティス王です……」


「オオモノヌシ!……」


 姫香は椅子から落ちそうになり、ヒロミに腕を握られた。とても暖かく強い腕だった。


「大丈夫?」


「ええ、でも、驚いた。オオモノヌシがアトランティス王だったなんて……。アインシュタイン博士似の人がオオナムチ、ヒロ君がスクナビコナだったわね。オオモノヌシもヒロ君のような……」


 ロボットやアンドロイドといえず唇が震えた。言えば傷つける。いや、自分自身がそんな表現を使いたくなかった。もっと良い言葉はないだろうか?


「オオモノヌシは人間です。だから子孫がいる」


「そう……」彼、いや、彼女から言ってくれて良かった、と思った。「……一緒にいたのでしょ、ジングウ。どうして三輪山に磐座がないの?」


「彼女の行いがそうさせたのです」


 ヒロミはさらりと言って自分の髪をかきあげた。


「アトランティス王がどうして日本にいるの? ジングウが守ろうとした王は応神天皇だって、神野さんに話していたわよね。アトランティスが沈んだ時期とはずいぶん違うけど」


「ジングウは代々の王のために働き、抵抗する敵や住人を殺しました。王に子供ができないときには、その細胞からクローンをつくった。彼女が守った最後の王が応神天皇でした」


 その話で閃いた。


「三韓征伐の時、神宮皇后が2年近くも妊娠していたというのは、クローンを作っていたからなのね!」


 思わず、声が大きくなった。ヒロミがしなやかな指を唇に当てて制した。その少しすぼませた唇は姫香が見ても、とても艶っぽい。


「なんだか、ドキドキする。……私は応神天皇の子孫ということ?」


「それは違います。その4代前、崇神天皇の子息、豊城入彦命とよきいりひこのみことの子孫です」


 誰だ?……思わずスマホを取って検索した。どうやら関東の上毛野氏かみつけのうじなどの租といわれている人物らしい。


「そうなのね。……で、どうしてアトランティスの王が日本にいるの?」


「長い話になりますよ」


「聞きます。あなたの物語」


 時間はたっぷりある。彼、いや、彼女のことなら全て知りたかった。


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