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44-2話

 姫香が悲嘆ひたんにくれている時、ひとりの若い1等陸士が姿を見せた。神宮皇后に会いたいという。彼がジングウを破壊しに来たのかもしれないと察したのだろう。影村が前に出た。


「もう、ジングウは敵ではない」


 すると彼が予想外のことを言った。


「もちろんであります。自分は、神功皇后が聖母だと教わってきました」


 その場に異様な反応が走った。多くのものが、エッと驚いた。


 加藤1尉が前に出た。


「それは戦前の……、いや、今も部隊によってはそんなことも言い伝えられているが、よく見ろ。ここにいるジングウは、応神天皇の母でもなければ聖母でもない。古代人のロボットだ」


「そんなはずはありません。あの戦いぶりを見ればわかる。正に軍神の母、天皇家の租であらせられる聖母です!」


 大声を上げる1等陸士の目が血走っていた。


 ヤバイ奴だわ。……姫香は警戒した。涙が乾いた。


「自分は、神宮皇后の弔いを、……神を天に……」


 若者は天を仰ぐように天井を見上げるとよろけた。そして足を床に踏ん張った。銃を抜くと影村に向ける。


「お前が殺したのだな」


「止めろ!」


 加藤1尉が叫んだ。


 姫香は、比呂彦に押されてよろめいた。「キャッ」小さな悲鳴がこぼれた。


 彼は、姫香を守ったのではなかった。ジングウと戦うために本部を出た時と同じような速さで移動すると、1等陸士の銃口の前に立った。銃声が鳴るのと同時だった。


 その場で比呂彦が崩れ落ちた。影村は一歩も動けず、その場で蒼い顔をしていた。

1等陸士は、銃口を再び影村に向けた。


 絶体絶命。……誰もがそう思った。ところが、異変に気づいて駆けつけた真崎2佐が、背後から彼を羽交い絞めにした。加藤1尉が拳銃を取り上げ、1等陸士は取り押さえられた。


「お前は神国日本の大地を核で汚し、歴史を改ざんして皇統を穢した」


 彼が言うのは誰のことなのか……。おそらくヒロ君のことだ、と姫香は思った。


「住吉君、……比呂彦君、……ヒロ君!」


 倒れた比呂彦の身体を抱きかかえて呼んだ。


 至近距離から撃たれた胸には3センチほどの穴が開いていて内部が見えた。中にはゼリー状の物体が詰まっており、電子部品らしいもの並んでいた。その中の一つに銃弾が食い込み、灰色の煙を上げている。それでも彼は動いた。左腕を持ち上げ、指が宙を指した。そして「カガミノフネ……」とつぶやいて止まった。


「見せてくれるかな」


 井島博士が姫香の正面に屈みこみ、穴を覗き込んだ。


「見たことのない装置ばかりだ。修理は無理だろうな」


 そう言いながら、ボールペンを穴に入れ、ゼリー状のものを掻きだして観察した。他の博士たちも集まり、それは絶縁体か断熱材か、等と議論しだした。


「これも原子力で動いているのだな。動力は……」


 鏑矢博士が比呂彦を「これ」と呼んだことに腹が立った。つい先ほどまで、この場にいる誰もが、全てを比呂彦に頼っていたのに、彼が命を落とした途端に〝これ〟に変わるのか?


「止めてください。……離れて」


 姫香が声をあげても博士たちは離れようとしなかった。それどころか「君こそどいてくれないか。調査の邪魔だ」と応じた。


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