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43-2話

※   ※   ※


「これが日本の実態だ。ジングウの口車に乗って暴れたものの、鎮圧されたら潮が引くようだ。天下国家を憂う者など、わずかしかいない」


 わずかばかりの市民が屯する大阪城公園の風景をモニターで見ながら、高島は作戦会議の参加者に向かった。その瞳には、天下国家を憂う者の自負が輝いていた。


 ジングウ対策本部の会議には、比呂彦だけでなく、天鳥船調査団から影村と糀谷博士、井島博士、山川博士、渡辺教授の5人が参加していた。取り逃がしたジングウが、天鳥船に帰ってくる可能性があったからだ。


「国民ばかりを批判するのはどうだろう。支持率が下がったと思ったら、今年中にATFを飛ばせと、政府は言ってきましたよ。まったく、何を考えているのやら……」


 山川博士が嫌味を言う。


「で、高島1佐、どうするつもりです。核燃料は無事に送り出したがJの捕獲には失敗した。あなたの責任問題にもなりますよ」


「影村さんも同じようなものでしょう」


 痛いところを突かれてやり返したものの、高島の腹の底では影村に対する怒りが燃えていた。比呂彦に目をやる。


 彼が草薙剣を取り戻したことには感謝しているが、肝心のジングウを取り逃がしたという意味では、彼が主犯のようなものだ。部下の報告を聞けば、銃を突きつけながら長々と話しをしていたという。どうしてさっさと撃ち殺さなかったのか。それを思うと、憤りは影村に対するものに勝る。


 高島の憤りを知ってか知らずか、比呂彦が口を開いた。


「Jは、もう国民蜂起(ほうき)には期待しないでしょう」


「何故、そうだと言い切れる?」


「だからこそ、核燃料を奪いに来たのです。現時点で少数の者が多数を相手にするには、核兵器が最も有効な兵器です」


「その核を手に入れることができなかったわけだが、そうなると次の手は?」


 テーブルに両肘をついた影村が、更に前傾姿勢を強めた。


「それは僕にも分かりません。地道に重要施設の破壊活動を続けるか、ネットワーク戦に持ち込むか。あるいは、一気に大将の首を取りに行くのか……。そんなところだと思いますが」


「大将首か……」


「古い戦争のスタイルだな。今なら総理大臣の首か?」


 影村が、政府関係者のリストを捜して資料の束をめくった。


「そんなことで日本が降伏しないことをJは知っている。そうだね?」


 高島は比呂彦に目を向けた。彼がうなずく。


「軍隊の指揮命令系統ならば大将首に価値がありますが、日本の政治の世界にはそれがない。すぐに変わりが現れる」


「個々の能力に違いがあっても、組織は存続する」


 山川博士の言葉に比呂彦が同意する。


「劣化は免れませんが」


「とはいえ、無限ループということか……」


 影村がつぶやいた。


「しかし、Jなら出来ないことではない。そうではないかね?」


 渡辺教授が比呂彦に向いた。


「彼女、いえ、Jは、そんな無駄はしません」


「自分の話を聞いてくれるかな……」高島は立った。「……軍人の立場から考えたのだが、任務遂行のために第一に行いたいのは、最も大きな阻害要因を排除することだ。Jにとっての最も大きな阻害要因は住吉比呂彦、君だ。もし私がJならば、君を第一の標的にするだろう」


 会議の参加者の視線が比呂彦に集まった。


「僕も高島さんの意見には賛成です。おそらく、すでに僕の動静を窺っていると思います。場合によっては、この本部ごと消し去ろうとするかもしれません」


「おいおい、脅かさないでくれよ」


 山川博士が声をあげた。


「この本部は、自分たちが死守する。すでに桜井市内には碁盤の目状に監視網を引いた」


 高島は語気を強めた。それを井島博士が笑った。


「Jを追っているはずだったが、いつの間にか私たちが追われているようだ。まあ、あまり深刻になるのは止しましょう。今まで通り、協力し合えばいいことです」


「草薙剣を失ったJは、重力場をゆがめる力が落ちています。今なら、銃弾が当たる可能性が高い」


「その話、信じていいのかね?」


 影村が疑惑の目を向け、比呂彦が「もちろん」と応じた。


 高島は、ジングウとの接近戦を避けて狙撃に徹する方針に決めた。それなら移動能力にたけたジングウとの撃ち合いに負ける可能性が低くなる。


 その日から比呂彦は、1人で建物の外にいることが多くなった。天鳥船から離れることなく、寝泊まりもその中でした。そんな彼を案じ、姫香が奈良のホテルから毎日通ってくる。名目は本部への差し入れだ。それでという訳ではないが、高島は、彼女が本部に入るのも比呂彦に会うのも許可した。彼女をそばに置いた方が比呂彦をコントロールしやすいと、神野のアドバイスがあったことも一因ではあった。


 本部の窓から、外を歩く比呂彦と姫香の姿を見守るスタッフの顔が増えた。他人を巻き込みたくないという比呂彦の気持ちを誰もが良く知っていた。同時に、押しかけ女房のような姫香を影ながら応援していた。


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