表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

108/123

42-1話 住吉比呂彦 ――再会――

 囮部隊は本体と同様、トレーラーと3台の補助車両で構成されている。トレーラーの荷台には特殊部隊の隊員が隠れていて、ジングウが接近した時に包囲する計画だ。


 本体より遅れること30分。囮部隊は出発する旨を陸上自衛隊幕僚長宛に無電してから出発した。奈良を出ると京滋バイパスを北に走り、名神高速米原ジャンクションから北陸道に入るルートだ。


 囮部隊は時速60キロという遅い速度で、30分ごとに所在を発信する念の入れようだった。そうして長浜インターを過ぎて周囲の灯りもまばらになったころ、前方の側道に閃光があった。


 それは対戦車誘導弾で、放たれた小さな物体は、猛スピードで先頭の装甲車を襲った。装甲車は大破し、炎をあげた。


『ミサイル攻撃有、発射位置、側道前方推定1キロ。1号車、大破』


 トレーラーに搭載した無線から冷静な声がした。1号車は、2号車がコントロールする無人車両だ。


 後続の2号車とトレーラーは減速しながら燃え上がった装甲車を回避して前進した。再度、閃光が輝くと二番目の装甲車が炎に包まれた。ハッチが開き、乗員が非難する。


「2号車がやられた」


 助手席の隊員が本部へ報告する。


「2発も……。まだ持っているのでしょうか。どうします?」


 トレーラーの運転手が、助手席の上官に訊いた。ここで止まるか、前進するかを確認しているのだ。


「これにミサイルは向けない。作戦通りだ。ジングウに接近させろ」


「了解」


 トレーラーはスピードを上げた。


 ――ガシュ――


 突然、フロントグラスに亀裂が走った。助手席の隊員の左眼がつぶれて黒い穴になり、血にまみれた。直後、運転手も同じ目にあった。その間3秒ほど。運転手が無線を使う間もなかった。


 左右に揺れたトレーラーは側道側のガードレールに接触し、火花を散らして止った。


 最後尾の装甲車が、一般車両が接近するのを防止するために追い越し車線で止まる。暗視ゴーグルをつけた7名のスナイパーが散開、トレーラーに近づくジングウを狙う。


 側道に止まっていた車の上から、青い光をひいて小さな影がフェンスを乗り越えた。草薙剣を手にしたジングウだ。それを暗視スコープが捕え、弾丸を送り込む。しかし、二上山での戦闘同様、弾丸がジングウをとらえることはなかった。


 ジングウはトレーラーに駆け寄ると運転手側のドアを開けて死体を引きずり下ろした。草薙の剣で亀裂の入ったフロントガラスを割ると、それを助手席の死体の膝に置いてエンジンをかけた。


 運転席の後ろに長距離運転時に仮眠できるフリースペースがある。比呂彦はそこに横になり、鉛入りの放射線遮蔽シートに隠れてその時を待っていた。


 むっくりと身体を起こし、高島1佐に借りた拳銃をジングウの後頭部に突き付けた。バックミラー上でジングウと比呂彦の眼差しがぶつかった。


「スクナビコナ!」


 ジングウが言った。


「やはり来たんだね」


「お前がここにいるということは、これは囮か?」


「こんなに早く会えるとは思っていなかったよ。この距離なら、君でも逃げられないよね」


 比呂彦は、銃口を強く押しつけた。運転手たちが狙撃されたのは予定外だったが、それを除けば比呂彦の計画通りに進んでいた。後は荷台の特殊部隊が下りてき、ジングウを拘束するだけだ。


「何故、いつも私の邪魔をする……」


 ジングウは運転シートに背中を押し当てた。


「……あの時もそうだった。……大和と朝鮮を統一し、中国侵攻も時間の問題だった。それをタケウチノスクネ、いやスクナビコナが妨害した。お前は大和の豪族たちと手を結び、私を捕えた。あの時の屈辱、昨日のことの様だぞ」


 ジングウが上体をひねり、黒い瞳が比呂彦に向いた。


「最初に僕を裏切り、カガミノフネを奪って逃げたのは君だ。王の指示を破り、多くの大和人を虐殺したのも君だ。それを忘れてはいないだろう?」


「そんなこともあったかな、忘れたわ」


 ジングウが口角をあげた。


「僕は君を殺したくない」


「一度は私に協力すると約束しながら、何故裏切った?」


「僕たちが船を使って世界を統一するなど、傲慢だと知ったからだ」


 ジングウが、ふん、と鼻で笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ