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41-4話

 天鳥船を出ると、周囲に多くの自衛隊員がいるので驚いた。


「捜索チームを派遣するところだった」


 防護服を水で洗浄するメンバーの側で、影村が天鳥船の上部を指した。上部から内殻壁を爆破しようとしていた自衛隊員が下りてくるところだった。


 核燃料を入れたポッドは、その場でコンテナに積まれた。


「予定よりかなり遅れています。疲れているでしょうが、頼みますよ」


 ワゴン車の後部座席に座った倫子に向かって影村が言った。


「乗り掛かった船ですから」


 倫子は親指を立てて応じた。移動先でポッドを隠すのに、倫子の知恵が必要だった。


 トレーラーは密かに出発する。荷物はもちろん、ポッドを入れたコンテナだ。トレーラーは宇陀、名張と東に向かい、伊勢自動車道から東名高速を経由して東京に向かう計画だ。トレーラーの前後を自衛隊の装甲車が守り、少し距離を置いて倫子の乗った黒いワゴン車が後を追った。助手席には神野が掛けていた。


「東京の外殻地下水路にあれを置くとは、思い切ったことを考えましたね」


 神野が言った。


「使用済み核燃料保管施設ができるまでの仮置きですから。……それに燃料をJから守るため、Jが襲いにくいところを考えたら、そこしかなかった」


「東京都民もびっくりですね」


「ばれたら政府は潰れるかもしれません。でも、核を扱う以上、この程度のリスクがあることを日本国民は知っておく必要がある。もっとも、私たちの行動が知られることは無いはず。取りあえずは、ばれなきゃいいのでしょ?」


「まあ、そう言うことですね。……もしかしたら、博士はJをダシにして、あえて東京に核廃棄物を持ち込もうと画策したのではないですか?」


「そんな無茶を私がするとでも?」


 神野が後部座席を振り返って、倫子の顔を見つめていた。


「私には、そう見えます」神野が座りなおす。「まあ、私はそれでもいいのです。どちらかと言えば、博士の意見には共感します。しかし、ゆくゆく、そこがポッドで満杯になるなんてことは無いのですか?」


「それは、政府の原子力政策次第ね……」倫子はクスリと笑った。「……でも、どうして神野さんがここにいるの?」


「私なら、多少は官邸の方に顔が利きます。一応、官邸官僚ですから」


「そうなの? 助かるわ」


「しかし、人が都市に集中するものだから自然の保水機能が失われ、代替として地下にあんな施設を作る。排水時には電力を消費する。それもこれも税金です。人間というものは可笑しな生き物ですね」


 神野が自分の言葉に苦笑した。


「人は群れたがるのよ。それは必然」


「宗像博士は、人類学方面も詳しいのですか?」


「いいえ。私なりの文明論よ。文明の発達は分業の歴史です。それが無ければ、私のように原子物理学だけで生計を立てる事などできない」


「なるほど。私も文官として生きることができるのも、分業のお陰ということですね。僕の代わりに誰かが木を切り水をくむ」


「ええ。仕事が分化しなければ、私たちは畑を耕しながら、武器を握ったり、計算をしたりしなければならない。ところが仕事が専門化して分化すると、生活や都市機能を完結するためには、分化した数だけの専門家を集める必要に迫られる。今だって、仕事ばかりして料理のできない男性は多いでしょ。だから、妻が必要になる。スポーツでも競技の種類が増えるほど、同じ競技の人が集まる必要に迫られて都市が生れる。いいえ、都市でないと、そうした競技の人は食べていけなくなっている。そんなこんなで人は集まり都市は巨大化する。人類の作り上げた文明とはそういうもの」


「それに比べたら、Jは1人ですべてをこなしているのだからすごいですね。優秀な軍人であり、科学者であり、IT技術者に見えます。きっと、フライパンも握っているし、洗濯もしている」


 神野がそう言って笑った。


「向こうは大丈夫でしょうか。連絡はありますか?」


 倫子が向こうと言ったのは、ジングウを捕まえるためのおとりの部隊だった。


「向こうは定期的に位置を報告しています。今の所、Jに襲われてはいないようです」


「荷物を安全に運ぶためとはいえ、思い切った作戦を取ったものね。本当にJを捕まえられるの?」


 倫子は不安だった。囮の部隊には比呂彦がいる。影村や高島1佐は、比呂彦ならジングウの弱点を突くことができると考えているようだが、彼は液体核燃料の取り出しで体力を消耗しているのだ。いつものように、アイディアが浮かぶものだろうか?


「あそこまでする必要はないと思ったのですがね。……Jは昨日、福岡で目撃されています。今日、関西に現れることは無いでしょう。それを囮まで出すとは。万が一、現れても住吉さんがいるから大丈夫でしょう」


「そうだといいけど」


 倫子は、自衛隊員の肩を借りて歩いていた比呂彦の後姿を思い出していた。


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