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41-1話 宗像倫子 ――決死隊――

 倫子は比呂彦と並んで無機質な通路を歩いていた。研究機関で使用する放射線防護服を使用している。2人の後を10名の自衛隊員がポッドを載せた台車を押して続いた。更に後には糀谷博士と鏑矢博士が、最後尾をジングウを警戒する武装した自衛隊員と、ポンプを運ぶロボットが続いた。


 内部を熟知している比呂彦は、躊躇することなく進んだ。最後尾の自衛隊員が目印のシールを壁や扉に張った。そうしておけば、帰り道に迷うことが無くなる。彼らはそうするように影村に命じられていた。まだ、比呂彦を疑っているのだ。


「そこでいいのか?」


 新しい扉を入るたびに、コントロールルームから影村の声が届いた。


「間違いないと思うわ」


 倫子は比呂彦を信頼していた。


 やがて前方部内の機関部にたどり着いた。線量計の警報音が八分音符のリズムを打っていた。


「エンジンは、ここの更に奥です」


「線量がきつい。これ以上、奥に行くのは無理だ。ここからはロボットを送ろう」


 糀谷博士の提案に倫子と比呂彦は同意した。


『では、ロボットを進める』


 本部の影村が言った。比呂彦を信用しきれない影村は、ロボットのオペレーターを本部内に置いた。理屈の上では、遠隔操作されるロボットのオペレーターが現地にいる必要はない。


 ポンプとポッドを固定すると、ホースの先端をロボットに持たせた。ロボットはドアが閉まってホースを傷つけないように、アームを使って器用にドアストッパーを設置しながら前進を続けた。ロボットの動きに合わせてホースが延びていく。


 ロボットの視界は本部と倫子に送られる。分岐点があると、比呂彦が進むべき方向を指示した。


「後二つドアをくぐればエンジンです」


 4番目のドアで問題が起きた。爆発の影響でドアが歪んでいて開かなかった。モニターには亀裂の入ったドアが映り、床にはうっすらと液体が広がっているのがわかる。


「ドアが歪んでいるので切断します」


 オペレーターの冷たい声がスタッフのヘッドホンに流れた。無線によるコミュニケーションが僅かなタイムラグを生んだ。


「待て!」


 比呂彦と倫子が叫んだ時はすでに遅かった。


 激しい爆風が怒り狂った龍のように通路を走り抜け、核燃料を除去に向かったチームに襲いかかった。爆風で、人間もポッドも吹き飛ばされた。風が通り過ぎると、それまでうるさかった線量計の警報音が沈黙し、無音の世界が広がった。


『大丈夫か?』


 影村の声がして、倫子は意識を取り戻した。比呂彦が盾になって彼女を守っていた。


「内部のガスに引火したのよ」


 倫子は報告したが本部からの返事はなかった。どうやら、こちらからの声は届いていないようだ。


 後方を警戒していた自衛隊員たちが前方に駆けつけ、負傷者の手当てに当たった。あるいは、ポッドの下敷きになった仲間を救い出した。


「何があったのですか?」


 自衛隊員の1人が倫子に訊いた。


「水素爆発よ。ガスは排出されているとはいえ、ロボットのいるところは水素の発生源。溜まっているところがあっても不思議じゃなかった」


「オペレーターの馬鹿野郎が、自分たちを殺そうとしたのですか?」


「まぁー、無知による事故よ。誰も死ななかったし、許してあげなさい」


 倫子は、深いため息をついた。


「撤退しましょう。今の爆風で、放射性物質が拡散した可能性が高い」


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