38-3話
二日後、核廃棄物を収納する容器がつくばの研究施設から現地に搬入された。
「これが新しい核物質収納用のポッドですか」
井島が自分の腰ほどまでの高さの金色に輝く容器をしげしげと眺めた。
「複数層になっていて、放射線は外に出しません」
倫子はポッドを掌でたたいた。パンパンという鈍い音が倉庫に響いた。
「テスト用なので小さいのですよ。実際に運用されるものの10分の1スケールです。熱を持った核物質も水中に置くことで、冷温措置が行えます」
「水ですか?」
「海でも川でも湖でも。大量の水のあるところに沈めるだけのことです」
「テロリストに盗まれる可能性があるのでは?」
「その対策ために地下水を利用するプールを建設中です。秘密ですよ」
倫子は人差し指を立てて唇に当ててから、容器の口を開いて見せた。直径60センチほどのポットだが、放射線遮断用の外殻は10センチほども厚みがあった。
「面白いものだ。試作品があって助かりましたね。まさに、不幸中の幸いだ」
「問題はこれからです。流出した燃料をこれにどうやって入れるか」
「ポッドを中に運び込むのも、汚染現場に近づくのにも、課題がありますね」
「宇宙服なら入れるでしょうか?」
「地上では、重すぎて動けませんよ」
「そうですよね」
スタッフが額を寄せ合う中、比呂彦は静かに考え事をしていた。
「住吉君にはアイディアがあるのでしょ?」
姫香が背中を押した。
「ええ、まあ」
アイディアがあると言いながら、比呂彦の表情は暗い。
「君のアイディアを教えてちょうだい」
倫子の言葉に他のスタッフが注目した。
「燃料は液体です。ポンプでくみ上げてはどうでしょうか? ポッドは防護服で行けるぎりぎりのところまで運べばいい」
「ポンプはどうやって設置するの」
「原発などの作業現場で使うロボットにホースを引きずらせればいいと思います」
「なるほど……」
「自衛隊なら、対核攻撃装備としてそういったロボットも保有しているはずです」
「住吉君は何でも知っているのだな」
鏑矢が感心した。
「僕は、Jが手に入れた情報と同じものを持っているだけです」
比呂彦の言葉に多くのスタッフがしらけた表情を見せた。自分たちの無知を指摘されたように感じたのだろう。
三日後、全ての準備を終えて倫子をリーダーに、科学者3名と比呂彦、自衛官20名が天鳥船の中に入ることになった。自衛官の半分は護衛で、半分はポッドの輸送係だ。最後に、ポンプを設置するための四足歩行ロボットが従っている。
それまでの自衛隊を中心とした調査と違ったのは、壁を爆破せずに内部に侵入できたことだ。比呂彦が外壁に手を当てて「少彦名」と声を発すると、それまで壁にしか見えなかった平面に出入り口が現れた。
比呂彦に追随する者たちは、防護服の背中に書かれた合言葉を唱えた。それは〝住吉比呂彦〟という平凡なものだ。
「こっちは核燃料電池が使われているのですね」
井島が天井の照明を見上げた。比呂彦に応えを求めているのだ。
「核だらけですよ」
彼がぼそりと言った。




