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シルフィードと学園⑤、魔眼殺し完成

今回の話は、100話の続きになります。流れが分からない方は、先ずそちらをどうぞ。

 ――ラトゥール王国とマルドリッド帝国が重大な会談を控えた直前、王国第一王女たるシルフィードの下に一通の手紙が届いた。

 勿論相手は彼女のフィアンセ、セイジュからだ。

 満面の笑みで内容を確認し、そしてその表情は次第に曇っていった。


「旦那様……なんて物を寄こしてくれましたの……」




 ――シルフィードが、研究課題を『アンジェリュスさん専用の魔眼殺し製作』と啖呵(たんか)を切ってから数週間。

 三人の秘密基地、第六修練室にはかつてない緊張感に包まれていた。


「シ…シルフィーさん? これ手紙って言うよりは、本じゃないかな? って言うか、ぱっと見た感じ封印指定を受けてもおかしくない内容さ……」

「はわわ……難問の一つ『魔殺し』に関して書かれてます。これ一冊で魔道具の歴史が変わりそうです。一頁でも競売に出たら、莫大な利益を生みそう……」

「さ! 流石は私の旦那様ですわ、おほほほ……これで私達の研究も(はかど)りますわね」


 三人が三人とも声が震えているのも無理はない。

 セイジュからの返信は最早本と言えるほど枚数があり、『魔殺し』について完璧な回答が記してあった。

 三大難問と言われた内の一つ、その答えが今彼女達の目の前にあるのだ。


 一枚でも価千金(あたいせんきん)――否、戦争の火種になる禁書の存在は幼い精神性に重く圧し掛かり次第に無口になる。

 しかし、その強張(こわば)った雰囲気を頼れるもう一人の乙女が(やわ)らげた。


「ふむ、どれどれ……成程……安心せよ、お前達。確かに、これには『魔殺し』について完璧に書いてある。しかし、実際作るとなるとティルタニア様やユグドラティエ並みの魔力がないと完成せん。それに、あの方々が協力するとは思えんぞ」

「本当ですか、シルフェリア? ティルタニア様やユグドラティエ様並み……理論は完成していますが、作り手がいないと……いえ、私や旦那様なら……?」

「その通りだ。人間で作れるのはシルフィードとあ奴のみ。(ゆえ)に、この理論が例え市井(しせい)に出たとしても絵空事のように扱われるだろうよ。アンジェリュスの『魔眼殺し』は偶々出来た奇跡とでもしておけば良い」

「分かりましたわ。ふふっ。それにしても旦那様、高すぎる自分の能力を差し引かずに書くとは。よっぽど負けたくないことや、許せないことがあったのかしらね?」


 シルフィードを王都魔道具ギルドのギルドマスターにさせようとするセイジュとセギュールの思惑は、勿論本人に伝わっている筈もない。

 王族として『魔』を示す。

 かつて兄達が力を示してきたように、シルフィードもまた力を指し示す時が近づいていた。



「魔力が必要な工程は私がやるとして、アンジェリュスさん素材は手配できそうですか?」

「はい。見た感じお父様の商会で扱っている物ばかりですし、頼めば送ってくれると思います。ただ……貴重な物もあるのでタダと言う訳には……」

「それならご安心ください。王家からの買い物と言うことで、言い値で買いますわ」

「そ! それなら! お父様も安心して送ってくれるはずです。(むし)ろ、王家と取引できて嬉しいはず…・・」

「お~、本格的に話が動いてきた――」

「――お前達! 予鈴はとっくに鳴ってるぞ、教室に戻りなさい!!」

「って、いっけね! 急ごう! シルフィーさん、アンジー」


 どうやら話に夢中で、予鈴を聞き逃していたらしい。

 先生に怒られ教室に戻る三人の乙女。

走って移動など、本来のシルフィードからは想像もつかない暴挙だ。

 しかし、彼女はこの状況を心底楽しんでいた。


 親友と話しに夢中で遅刻。

 それを取り戻すように息せき切って走る。

 そんな物語じみたことを自分がやっていると考えると、思わず笑わずにはいられなかった。


 余談ではあるが、注意した教師はまさか三人の内の一人がシルフィードだったとは思ってもいなかったらしく、王族を注意したと言う事実が彼を眠れない夜へと(いざな)った……






「「「――かんぱ~い!!!」」」

「お疲れ様ですわ、皆さん」

「でも、良かったのかい? シルフィーさん、部屋に上がり込んじゃって?」

「はわわ……王女殿下の部屋に招待なんて、この上ない名誉……」


 シルフィードの部屋に乾杯の音頭が響く。

 部屋と言っても学園寮の一室。

 どこも同じ造りで、ラフルールやアンジェリュスにとっても馴染み深い。

 だが、二人にとっては名誉で謙遜(けんそん)すべき事柄だったらしい。


 今日は、アンジェリュスの『魔眼殺し』が完成したお祝いだ。

 夕食と入浴が終わって就寝時間まで、つかの間の女子会が始まる。

 三人ともお気に入りの寝間着に着替えて、シルフィードの部屋に集まった。


「それにしても、研究課題を先生に提出した時の顔は見物だったさ」

「そうなの? ラフちゃん? 急に研究室に呼び出されて『魔眼殺し』を見せろは驚いたよ。それも、拡声魔法を使ってまでなんて前代未聞だよ……」

「そうさ! シルフィーさんが提出した研究論文を見て、現物をアンジーが掛けてると知ったら大慌てでさ。ね? シルフィーさん」

「えぇ。でも、あそこまで驚くとは思いもよりませんでしたわ……重要な部分は、それとなく(ぼか)して書いたつもりなのですが」

「それほど先生達には、完成された論文に見えたのさ。噂では、直ぐにでも王都の魔道具ギルドに持って行くらしいよ?」

「それに付き合う私の身にもなってほしいですわ……」


 飲み物とお菓子を片手に会話は進む。

 本日朝一でシルフィードとラフルールは研究課題を提出した。

 優等生の二人にしては提出が遅いことに、先生は苦言を呈したが内容を見て一変。


 急遽(きゅうきょ)その日の授業は全て休講。

 全教師が招集され、論文の読み込みが始まったのである。

 更に実物の『魔眼殺し』が存在していると伝えると、それ見たさに一人の教師が拡声魔法を使ってアンジェリュスを呼び出した。


 魅了の魔眼を完全に制御でき、ルンルン気分で歩く彼女に聞こえる拡声魔法の呼び出し。

 学園の長き歴史の中で、拡声魔法で呼び出された生徒は居ない。

 全体に響き渡る声は、別の意味で注目を浴びることになってしまったのである。


 研究室に参上したアンジェリュスに待っていたのは、教師達からの熱烈な歓迎であった。

 完成された『魔眼殺し』見たさに特等席が用意され、眼鏡の取り合いが始まったのだ。


 しかし、ここで注意しておきたいことがある。

 それは、彼女が眼鏡を外してしまったこと。

 後は、言わずもがな。

 次々に魔眼の(とりこ)になる教師達。

 これ以上は危険と言うことで、論文のみで彼らの読み込みは進むことになった。




「最後の方は、先生達の目がちょっと怖かったです……」

「ありゃ、完全にいやらしい目で見てたね。アンジーなら魔眼なんてなくても、この豊満な身体があればイチコロってか? うりゃうりゃ~、少しは分けてくれても良いさ。って、あれ? また大きくなった?」

「ちょ…ちょっと……ラフちゃん。んっ……止めてったら……」

「あ~、もう。こんなに恥ずかしがっちゃって! お前は俺の嫁になるのだ~」


 真面目な話が終わったと思いきや、ラフルールはアンジェリュスの胸を揉み始めた。

 薄い寝間着の上かでも分かる、年下とは思えないプロポーション。

 色っぽい声を出しながら、なすがままにされるアンジェリュスを見たシルフィードは深いため息をついた。


「ふぅ~……」

「安心しろ、シルフィード。其方(そなた)は同年代と比べて、少し発育が遅れているかもしれんが問題ない。魔力が多い者は、成長が(ゆる)やかなのだよ」

「な! な! 何を言ってますの? シルフェリア! 私は少し小さいことなど気にしていませんわ!!」

「ハハッ。我が姫は可愛いものだな」


 アンジェリュスと見比べながら、自分の胸をペタペタと触るシルフィード。

 見かねたシルフェリアがフォローをするが、かえって逆効果だったようだ。



「ん? シルフィーさん、小さいことでお困りかな? ならば、僕に任せてほしいさ! 大きくなる秘訣を僕は知ってるからさ……げへへ」

「ちょ、ちょっと? ラフルールさん? 少し目が怖いですわよ? それに、その手は……」

「申し訳ありません殿下……ラフちゃんは学園では真面目ですが……家ではちょっと……その……ハハハ…諦めてください」

「大丈夫さ、シルフィーさん。僕達女の子同士だから……ね?」

「い~や~~ッ!!」


 夜空にシルフィードの声が木霊する。

 これも彼女達の青春の一ページ。

 就寝時間ギリギリまで、彼女達の笑い声が絶えることはなかった――

【5話毎御礼】

いつも貴重なお時間頂きありがとうございます。

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