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魔眼殺し、魔道具ギルドにて

 ――突然のエルゼさん訪問、支店計画、マーガレットさんの治療、濃い一日を過ごした俺は執務室の机に向き合っていた。

 目の前には今まで見たことない量の手紙や書類の山。

 六十日以上留守にしていた結果がこれである。


 家宰のセギュールさんに手伝って貰いつつ、優先順位の高い仕事から終わらせていく。

 その中でも、シルフィーからの手紙は大いに俺の頭を悩ませた。



「――はぁ~、流石にこれはどうしたものか?」

「おや、セイジュ様がため息とは珍しい。シルフィード殿下からの手紙は、そこまで難しい物でございますか?」

「いえ、セギュールさん。『魔眼殺し』って言う魔道具を知っていますか?」

「魔眼殺しとは……また、随分(ずいぶん)珍しい言葉が出てきましたな。大店(おおだな)の商会では極稀に扱ってはおりますが、一般には出回らない商品でございます」

「それを研究の一環として製作するそうです。何でも魔眼持ちの友人ができたらしく、素材は向こうで用意するから知恵を貸してほしいと書いてあります」

「左様でございますか。しかし個人に合わせた魔道具製作となると、かなり複雑な工程と高価な素材が必要になります」

「そこなんですよねぇ……」


 セギュールさんの言う通りだ。

 魔眼と魔眼殺しについて『ライブラリ』で調べてみると、結論から言えば作ることはできる。

 しかし、素材も組み込む術式も一介の女生徒が作って良いレベルではない。

 それこそ、完璧な物を作ってしまえば魔道具ギルドからは神扱いされそうだ。


「ですが、私個人の意見と致しましては殿下には完璧な物を作って頂きたいと考えております」

「それは、どうしてですか?」

「直系の王族だからでございます。王族とは民衆から崇拝、畏敬(いけい)されなければなりません。ロートシルト陛下がそうしてきたように、レオヴィル殿下は『武』を示し、ラスカーズ殿下は『知』を示しております。シルフィード殿下は魔導王女と呼ばれてはおりますが、未だ実績がございません」

「そこで、僕がシルフィーの実績獲得に協力すると……?」

「本当にセイジュ様は聡明でいらっしゃいますな。ここだけの話、魔道具ギルドは独立独歩を貫いており王家の勅命(ちょくめい)も最低限しか機能しておりません。もし、殿下の製作した魔道具が切っ掛けでギルドを掌握できるとしたら、王国はより盤石なものとなりましょう」

「成程。シルフィーの類稀なる魔法の才と魔道具開発で『魔』を示すっと言うわけですね」


 セギュールさんの考えは俺と全く逆だった。

 シルフィーが完璧な魔道具を作ることによって、ギルドに威光を示したいのだろう。

 そして何らかの形で彼女の意思をギルドに送り込み、王宮に抱え込みたいのだ。

 うん、実に王宮の中心に居た人の考え方だと思う。




 ――何はともあれ、セギュールさんから一度は魔道具ギルドの内情を見た方が良いと言われ足を運んでみることにする。

 幾つもの書類仕事を終え、数ヶ月振りに向かったギルドが冒険者ギルドではなく魔道具ギルドとは思いも知れなかった。

 それは、同行者も同じなようでため息交じりに悪態をついた。


「おい、セイジュ。オマエ何時から頭の固い魔道具職人になったんだ?」

「すいません、セレスさん。付き合ってもらって。夕飯の時話したようにシルフィーの魔道具作りの為に、一度はギルドに顔を出した方が良いとセギュールさんに言われまして……」

「オマエの性格的に行かない方が良いと思うけどな。後悔するだけ……否、叩き潰そうな気がするわ。間違っても、ユーグの紋章は使うなよ?」

「いやいや、どんだけ凄い所なんですか……」

「行けば分かる」


 ギルドに向かう馬車の中で、セレスさんは不機嫌に語る。

 行先は、冒険者ギルドとは正反対の場所。

 これまた、質実剛健な冒険者ギルドとは真逆で華美柔弱(かびにゅうじゃく)な建物が見えてきた。



 建物自体が魔道具の実験台と言えば良いのか、様々な魔道具が取り付けられ乱雑としている。

 どういう仕組みか分からない自動ドアを潜り、入り込んだ中は役所のようだった。


 幾つもの窓口が並び、その前には長蛇の列。

 自作の設計図や理論、魔道具のプロトタイプを持ち込んだであろう彼は一喜一憂の声を上げている。


「ここは、全然変わんねぇな~」

「セレスさんも来る機会があるのですか?」

「まぁな。魔道具製作に必要な素材を採ってくることもあるしよ」

「成程。ところで、僕達はどこに並べば良いのでしょう?」

「その必要はないぜ。ほら?」

「――おやおや? 紋章入りの馬車が泊まったと思いきや、特級冒険者セレス様ではありませんか。脳みそが筋肉で出来た冒険者が何の用ですかな? それとも、そちらの子供のお守りかな?」


 俺達の会話を遮るように現れた男。

 草臥(くたび)れた白衣にクマの濃い目は病的で、禿げ上がった頭に申し訳程度の白髪。

 ドジョウ髭をしごきながら、不躾(ぶしつけ)な言葉を掛けてきた。


「やかましいわ、ジジイ。アタシはこんな所に用はない。今日は、コイツが魔道具のこと聞きたいって言うから付き合っただけだ。それに、お守りじゃねぇ! 夫の付き添いだ……」

「何と! ドゥーヴェルニ家ともあろうお方が小児愛の癖をお持ちとは! 坊や、悪いことは言わん。(じじ)が年相応の相手を用意してやろう? なかなか利発そうな面構えだし、今から鍛えてもものになるだろう。いや、でも小娘と来たと言うことは冒険者の可能性もあるな。なら、やっぱり頭の中は筋肉――」

「おい、ジジイ。不敬罪で斬首になる前にその口閉じろ。それとも、大公爵の力を使って徴税請負人をごまんと派遣してやろうか?」

「カカッ!! やれるものならやってみい。次の日から王都の生活様式は太古の昔に戻るだろうな?」

「二人とも落ち着いてください。後、僕はちゃんと成人しています」


 ガルルと睨み合う二人をなだめ、秘書らしき女性に案内され彼の部屋に通される。

 広いはずの部屋には研究資料や魔道具が所狭しと積上げられ、雪崩に巻き込まれそうなソファーに腰を掛けた。

 少しは冒険者ギルドマスターブリギッドさんを見習ってほしい……



「で? 小児愛の大公爵様と、その旦那様は何の用だ? つまらない用事なら、魔道具の実験台にするぞ」

「ってか、その前に自己紹介しろよ。セイジュ、コイツはギルドマスターのアペラシオンってジジイだ。覚える必要はねぇぞ。どうせ、後二三年でくたばるからよ」

「よろしくお願いします、アペラシオンさん。僕は、セイジュ・オーヴォと申します。こう見えましても、成人して男爵の爵位を持っていますしA級冒険者です」

「カカッ! 脳筋の冒険者にしては随分礼儀を知ってるじゃないか。どの魔道具について聞きたいんだ?」

「魔眼殺しについてです」

「カッカッカッカッカッカッ!! 若いねぇ。まさか、作ろと思ってるんじゃないだろうな?」

「そのつもりです、と言ったら?」

「不可能だな。若い大事な時期を、そんな無駄な物に費やすな。魔物と戦い過ぎて、坊やも小娘みたいに頭の術式がおかしくなったのか?」

「いえいえ、否定から入る耄碌(もうろく)程ではありませんよ?」

「言うではないか。では、坊やは魔道具の三大難問を知っているか?」

「知りません」

「カッ! 『魔殺し』、『竜殺し』、『神殺し』だ。今ある魔眼殺しは、『魔殺し』の失敗作を流用したに過ぎん。即ち、完璧な魔眼殺しを作ると言うことは『魔殺し』を完成させることと同じだ」


 成程、『魔殺し』か……魔を完全に封じ込める術式。

 魔導士や魔素に依存する魔物にとって天敵であり、科学が発達していないこの世界では有ってはならない物だな。


『竜殺し』はリムさんの槍がそうだし、『神殺し』に関しては多分俺と神ゲーテなら作れる……否、創れるだろう。



「成程、分かりました。ですが、近い将来本物の魔眼殺しが製作されます。それも、僕よりも若い人物によって……」

「なに馬鹿げたことを言っているのだ。もしそんな人物が現れたらギルドマスターの座でも、魔道具管理官の座でも何でもくれてやるわ!」

言質(げんち)取りましたからね? 大公爵家たるセレスさんが証人です」

「カカッ! 来もしない未来に言質など関係ない。これだから冒険者とは合わんのだ。空想や浪漫を語り全く現実的ではない。坊やも、早く夢から覚めて我ら魔道具ギルドのように堅実に生きろ」

「そんな生き方も良いかもしれませんね。でも、僕は好きに生きて勝手に死ぬ冒険者ですから」

「ならば、これ以上の話は無用。世迷言(よまよいごと)の『魔殺し』が出来たら、再びこのギルドの門を叩くのを許してやろう」




 こうして、俺は魔道具ギルドを出禁になった。

 あれ以上あの場に居たくなかったし、事あるごとに冒険者を、何よりセレスさんを馬鹿にするのが許せなかった。


 ああ言った高慢ちきな輩には、理詰めより実物を見せるのが一番だ。

 これで、気兼ねなくシルフィーとその友人に力を振るってもらおう。


「おい、セイジュ。悪い顔になってるぞ?」

「ふふ……セレスさんの言った通り、叩き潰したくなりましたよ。何より、愛する妻の悪口を言ってたのは許せません! シルフィーと友人にはしっかり頑張ってもらいます」

「怒る理由そこかよ……って、ありがとな。オマエにそう言って貰えればアタシは十分だよ」

「ってことは、セイジュとセレスたんを馬鹿にされたあーしがあそこを瓦礫(がれき)の山に変えれば良き?」

「「絶対ダメ!!」」


 影から飛び出てきたツクヨミが青筋を立てているが、全力で阻止。

 そして、屋敷に帰ってきた俺は早速シルフィーに返事を書くことにする。

 勿論、自重はなしだ。

 きっとシルフィーなら魔道具ギルドを良い方向に変えてくれえるだろう。

 期待に胸を膨らませつつ、走らす筆に力を入れた――

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