五日目 最終話。
二月十三日。
「おーい、ちび助生きてるぞ…俺」
左手を包帯とギブスで巻かれ、チェック模様の安っぽいパジャマを着せられ、独特の匂いを発するベットに横になっていた。
二月十二日。その日、俺は死ぬはずだった。
実際に事故にも遭い、意識をなくしたと思われる。
事故前後の記憶が全くなく、意識が戻ったときにはこの状況。
親が泣きながら俺に何かを言っていた。朦朧とした意識で特に何を言っていたかは覚えてないが。その後に刑事がやってきて、軽く事故の事を話してくれた。
雨が降り、よそ見していた乗用車が慌ててブレーキを踏み、雨の為タイヤがスリップして信号待ちで待っていた俺に突っ込んだと。
先にガードレールに車体を削り、スピードが殺せた事で、俺も骨折程度で済んだ。
其処まで説明を受けていると、何となくだが記憶が戻ってくる……。
事故発生前。
「予報どおり雨だな」
朝から降り続く雨で、比較的水捌けの良いところであっても、大きな水溜りが存在する。
寝た時間が遅かった所為もあり、結構眠い。
『如月さん、気をつけてくださいね、今こうしてトラックが突っ込んでくるかも知れないのですから。もしかしたら、もしかしたらですけど、注意を払っていれば死ななくてすむかも知れませんし』
ちび助が気休めを言っていることは俺でも解った。俺は預言書をもう見てないから結果はわからないが、きっと預言書の内容は書き換わっていないだろう。
薄っすらと記憶にある内容の条件と一致する。
「ま、今までアリガトなチーナクル・メイリ・ビスケ」
ちび助は俺が本名を口にした事で表情を変える。
『い、今更それを言うんですか? 一瞬何を言っているか解らなかったじゃないですか』
完全にちび助本人も自分の名前を忘れるぐらい、ちび助という愛称に慣れていたようだ。
『って、如月さん、前ッ!』
ちび助の声で咄嗟にいわれた方向を向くと、白い乗用車がゆっくりと俺に迫って来ているのがわかった。
あぁ、これか……。
走馬灯の一つも浮かばないまま、俺の身体は全く反応する事が出来ず、スローモーションで迫る乗用車を眺めていた。
ガードレールに車体を削りながら、大きなブレーキ音と金属音を立てながら迫ってくる。
「ッ!?」
動かし方を忘れていた俺の身体が大きく右に動き始める。
俺が動いているわけではない。誰かに押されて動いた。
ゆっくりと動いてゆく視線で、両手を前に突き出したちび助の姿が見えた。
「あ、そういえば……」
完全に事故の前を思い出した。
車がぶつかる前にちび助が俺を突き飛ばしたんだ……。
そのおかげで俺は今こうして骨折だけで済んだんだ。ちょっと待て、あの位置に居たちび助が事故後俺の前に姿を見せないって事は!
まさか、俺の身代わりに……?
「ちび助のバッカ野郎……」
右手で額を押さえる。
『何がですか?』
「だから、何で元から死ぬって解ってる俺を助けて、し……って?」
其処に居るのが当然とばかりに、ちび助はパイプ椅子に腰掛けていた。
『痛そうですねーそれ、触っていいですか?』
左手のギブスを眺めながら手を伸ばすちび助。
「いや、触んなよいや、というか何がなにやら、説明をしろ」
訳がわかんない。
まず俺は昨日死ぬはずだった。それが今こうして生きている。俺の身代わりになったちび助も生きている。もうわかんない事だらけだ。
『えーっとまずですね…本来昨日如月さんは死ぬ予定でしたが、色々な事が重なり、骨折だけで済みました。まず、預言書と違う事は、トラックが乗用車に変わっていた事です』
そうだ。トラックが突っ込む予定が何で変わった?
『気候の激しい変化で、ガソリンスタンドの従業員が風邪をひいて、大事を取って休んじゃったんですよねー。詳しい理由は解りませんが。で、そのトラックが給油しにガソリンスタンドに入ったんですけど、従業員の不足によって給油が少し遅れちゃったんですよ』
それで、トラックが俺の居る時間にその交差点に来れなかった訳だな。で、変わりに乗用車が……か。聞いてみれば、その交差点は魔の交差点じゃないか。車が変わっても事故になるなんて。
『それから調べたんですけど、乗用車の運転手は雨で視界が悪く、その為に運転操作ミスを引き起こしてしまいました。そして事故前に私が如月さん押しちゃって、打撲で済むところを骨折にしちゃいました。十一日に手書きで記録した予言と、事件後の予言を見比べたらそうなってましたので……』
今サラッとすごい事言わなかったか? まぁ、命あるだけもうけもんだよな。
「で、それで気まずくて今まで姿を消していたのか?」
『いいえ、上司に怒られてましたー。おおよそ一日……』
よくちび助を見れば怒られてやつれているようにも思える。
まぁ、予言を調整する奴が予言を大きく変えちゃ不味いよな……。
「なんか、色々とスマン」
『いえー謝る事じゃないですよ。そのおかげで、私たちのあり方も少し変わってきてますし』
と、言う事は何か、今回のちび助の行動で、人知らない所でちび助たちのあり方も変わったのか。
『まぁ、私はクビになりましたけど』
そんな重要な事をサラッというな、サラッと。
本当に悪い事をしたな……。
『そんな顔しないでくださいよ』
俺の表情を読み取って、ちび助がパイプ椅子に登る。
『確かに予言書調整者はクビになりましたけど、これから新しい試験職、未来に起きる、未知の事件を未然に防ぐ正義のヒーローになったんですから!』
ポーズを決めてちび助が宣言する。
その姿を見るに、そっちの仕事の方が良いと姿で語ってる。
「だが、この預言書はまだ使うんだな」
ポーズを決めるためにベットの上に放り投げた預言書を手に取る。
『それでですね、まぁ……如月さん。ものは相談なんですけど、その預言書でこれからの如月さんの人生を見せるという条件で、如月さん宅を拠点にして良いですか?』
そういえば、クビになったって言っていたな。という事は本来住む場所までなくしてしまったのか。ちび助は。
ちび助に預言書を投げつけ、俺は笑う。
「さぁ? 俺の答えはどうだろうな?」
『答えはイエスですね』
自信満々に答えるちび助。
「その心は?」
『七日間の付き合いです』
と、ちび助は笑う。
「そう来たか。まぁ、今まで通りなら何とかなるが、一つ条件があるな」
待ってましたと言わんばかりにちび助は腕を組み、ポーズを決める。
『あー、この先の人生、何が起こるか解ってちゃ面白くない、今回ので身に沁みて解った。俺の未来は見えなくても良いから、お前のその仕事、手伝わせろ』
俺の声色を真似しているつもりなのか、全く似ていない声で俺が言おうと思っていた台詞を言う。
「なんで俺の言いたい事が解った?」
『預言書がありますから』
またちび助が笑う。
確かに先が解った方が良い事の方が多いこの世の中。でも、皆がそれをしちまったら失敗のない完璧な世の中になってしまう。
そんな世の中は面白くないな。
さてさて、俺の取ったこの行動が間違いか、正解であるかは預言書のみ知るってか?
やっと完結です。
自分の未来を知った主人公。
というテーマで書いて見たのですが、失敗したなと思います。
良い勉強になりましたし、こんな私の次回作にご期待ください。
最後まで読了、お疲れ様でした。
そして有難うございました!




