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神滅の魔剣士は英雄になれない  作者: 意思疎通
第二章 ローデル動乱

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第二十五話 低級魔法

「クッソ……」


 休む暇もなく、次々と光が放たれる。

 右に身体を捻り、左肩のすぐ隣を光が走っていった。

 背後から石畳が砕けた音が聞こえる。

 次に放たれたものを左に避けると、建物の扉が吹き飛んだ。


 今度は右に避けようと足を動かすが、上手く力が入らない。

 バランスを崩し、雷光が肩を掠めた。


 風魔法を使えば、もう少し楽に避けられるかもしれない。

 だが、俺の魔力量はあまりにも少なく、あと一度低級魔法を放つ程度しか残っていなかった。


 腕が痺れ、剣を握る指先に力が入らない。

 少し掠っただけだ。ただそれだけなのに、右腕が自分の物ではないと思わせられるほど上手く動かせなかった。

 俺がアイツに勝つためには、まず近付かなくてはいけない。

 右手に握るこの剣を、どうにかあの首に当てなくては。


 そうは思っても、今の俺は攻撃を避けることに精一杯だ。

 このままでは間合いに入る前に殺される。

 どうにか、どうにかしなければ……。


 ——背後で戦う少女に、助けを求めればいいんじゃないか?


 彼女は先程、信徒を一人倒していた。

 もしかしたら、二人で力を合わせれば簡単に仕留められるかもしれない。

 一度彼女の手助けをしてから、こっちの手伝いをしてもらおう。

 そうだ、それがいい。


 ……それで、いいのか?


 俺は自分の力で倒さないといけないはずだ。

 何で今、甘えたようなことを考えた?


 でも、このままでは一度死ぬ覚悟で戦わないといけない。

 痛くて、苦しい思いをしなくてはいけないんだ。

 そんなの、嫌だ。

 死にたくなんて無い。


「黙れ……黙ってくれよ!」


 俺は、『英雄』だ。

 そう呼ばれたあの日から、俺は完璧で居なくちゃいけなくなった。

 誰かに助けを求める英雄なんて、居て良いはずがない。

 弱い自分は仕方ない。

 でも、弱いなりに自分の持っている力でどうするかを考えなきゃいけない。


 その思考を止めることは、許されないんだ。


 俺は死んでも生き返る。

 他の人間には出来ないことを、俺は出来る。


 これまでだって、何度も死ぬ前提で行動した。

 そうして敵を倒してきたじゃないか。

 今更、何にビビってんだよ。


 俺は、一人でコイツを仕留める。

 そうじゃないと、皆に認めてもらえない。

 ヘクトルも、アリステラも、エルミナも、カリスタも。


 俺が誰かを助けられると証明しないと、きっと『英雄』だと認めてくれない。


 何か、アイツに弱点があるかもしれない。

 魔法を放つ時はどうだ?

 特に変わった特徴は無さそう。

 魔力の消費量はどうなんだろうか。

 こういう時に俺が魔力感知を使えれば、相手の魔力残量が分かったかもしれないのに。


『足が無防備すぎる。全身、どこを狙われても良いように集中しろ』


 足……。

 ふと、ヘクトルの言葉を思い出す。

 俺は手元にばかり意識がいってしまって、足元にくる攻撃に甘すぎる。

 そう何度も注意を受けた。


 視線を落とすと、雷光の跡が地面に刻まれている。


 ——なんだ、この違和感。


 速さじゃない。

 

 威力でもない。


「……全部、同じ軌道だ」


 狙う場所は毎回違う。

 頭、腕、足。だが、全て軌道は変わらない。

 まるで剣を振るかのように、一直線。

 曲がらず、追尾もしない。

 ただ真っ直ぐ放っているだけだ。


 そう考えている間に、信徒は魔力を練り上げていた。

 右手に纏っている雷は、先程までとは比べ物にならない大きさにまで育ってしまっている。


「や、やるじゃねえか……」


 一体どうするべきか。

 真っ直ぐ突っ込み、一度この攻撃を食らって生き返った瞬間にアイツを仕留める。

 それが今の俺に出来る最善策なはずだ。


 でも、これ程の大きさの攻撃なら、背後で戦う彼女にも被害が及ぶんじゃないか?

 もし当たってしまったのなら、この子はきっと死んでしまう。


 そんなの、絶対にダメだろ。


「ははっ……」


 思わず笑いが溢れた。

 終わったと、そう思った。

 皮膚が焼かれ、骨まで焦がされる痛みを味わうと、そう覚悟した。


 だが——


 見えてしまった。

 『勝ち筋』が。


 数十人でも簡単に収めてしまうほどの大きさにまで成長した雷が、俺を目掛けて一直線に走り出す。

 青い閃光が石畳を這い、爆発音にも近い雷鳴を鳴らした。

 避けるなんてことはしない。ただ、まっすぐそれを見つめる。


「 風 」


 剣へ風を纏わせる。

 とても弱い風。俺が扱うことが出来るのは、たったこれだけだ。


 一か八かの行動。

 これでダメなら、二人共死ぬ。


 雷が刀身に触れたその瞬間。


 ——軌道がズレる。


 青い光が剣を滑り、まっすぐと空へと弾かれた。


「おー! ホームラン!」


 信徒の口元が歪む。


「な、なぜ……!」


 初めて、信徒の表情が変わったように感じた。

 焦っているのか、すぐさま二発、三発と続けて雷が放たれる。

 どれも懇親の一撃とは似ても似つかず、微弱なものだ。


 剣を振り、全て青空へと弾いていく。

 だが、それでも完全に防げている訳では無かった。

 なりふり構わない様子の信徒は、何度も全く同じ場所に向けて魔法を放っている。


 一つを弾いてもすぐもう一撃が来てしまう。

 腕が焼け焦げ、足は疲労で痺れていた。


 それでも、止まらない。


「止まれねえんだよ!!」


 雷を弾く。

 痺れた右腕が悲鳴をあげた。

 握力が抜け、剣が手から滑り落ちていきそうだ。

 それでも、握る。

 歯を食いしばる。


 ただ、前へ——


「く、来るなァーー!!」


 悲鳴にも近い叫び声。


「魔法の強さで負けてんなら……」


 最後の雷を弾いた。

 腕の痺れは酷くなり、剣を握るのがやっとだ。

 だが、そんなことは関係ない。

 今出せる全力で、地面を蹴った。


「頭を使うしかねえんだよ!!!」


 信徒の瞳孔がゆっくりと見開かれる。

 踏み込みの勢いのまま、その首へと剣を振り抜いた。


 赤い線が浮かび上がり、頭部がゆっくりと地面に落ちる。

 鈍い音が耳に響くと同時に、鮮血が噴き上がった。


「そっちも終わった?」


 背後で戦っていたはずの少女は既に戦闘を終えていたらしく、俺が倒し終わるまで待ってくれていたらしい。


「じゃあ、急ごう。ここに居たら危険」

「俺疲れてるんだけどぉ……あるけなあーい」


 死に物狂いで敵を倒したこの身体は、既に限界を迎えていた。

 足はガクガクと震え、その場に立ち止まることで精一杯。


「死にたくないなら歩いて」

「何処に行くんだ? それに、俺はあんたの名前も知らないし……」

「ワタシはセレナ。エルミナの知り合い。これでいい?」


 何処に行くか、という問いに対しては答える気がないらしく、言葉は続かなかった。

 さっきも助けてくれたし、信頼してもいいのかもしれない。

 そう考えていると、痺れを切らしたセレナは足を進め始めた。


「わかった、着いてくから!」


 仕方なく後ろを着いていこうと、震える足で地面を蹴る。


「……もう遅い」


 急に止まった背中に気付かず、そのまま小さな身体にぶつかってしまった。


「あら、まだ逃げられるかもしれないわよ?」


 そこに、立っていた。

 いつから居たのかは分からない。

 まるで最初からそこに居たかのように、白いローブを身に纏った人影が道の中央を塞いでいる。

 顔は目隠しとフードで隠されており、見えるのは口元だけ。

 目元が見えないはずなのに、こちらに視線が向けられているのだけは分かってしまった。

 さっきの信徒と見た目はあまり変わらないのに、圧倒的に身体が『死』の恐怖を感じている。


 逃げるべきだ。

 逃げないと、二人共死んでしまう。

 

 胃の中の物全てが込み上げ、溢れ出してしまいそうだ。

 脳の中が煩く警鐘を鳴らしている。

 手の震えが収まらず、足は俺の命令を無視するようにその場から張り付いて離れない。

 

 ……本能的に、理解してしまった。


 ——目の前に居るアレは、人間の形をしているだけの『ナニカ』だと。

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